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メロウ Ⅲ

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「正確に言うと、『付き合い始めた』わけではない。」

車ん中で聞かされた「告白」。
俳句の補習を急に入れちまったせいで、俺様と千は神輿ではなく車で帰ることになった。
結局千は先に帰らなくて、俺様を待っていた。
初めはつまんねぇ話で盛り上がってたわけだが、どっちからともなく、アイツの話になったんだっけな。
そういえば、俺様が助っ人で入った部、勝ったんだよな。そんなことすら忘れるほど、千とアイツの関係を目の前でビシバシ感じた日。

「確かに俺はあのちっこいのに自分の正直な気持ちを伝えた。
隠す必要は……最早、無いと感じたからだ。
するとアイツは『私は教師だ。』と。」

組んでいた腕を解いて、千が続ける。

「『教師だからこそ、今は言えないことがある』と言っていた。」

車の窓に肘をついて、面倒そうにそこで言葉を途切れさせる。
外はすっかり暗い。

「ま、オメェ等は両想いだったっつーこったな。よかったじゃねぇか。」
「あぁ、だから、公然と付き合えるのは卒業後だ。
とにかく今は、卒業を第一に考えるべきだな。」
俺もお前も、と最後に付け足して、また千が腕を組み直す。

その分、車の窓は千の表情をハッキリと写しやがった。

自信。

「同じ想いだ」っつー確信。

別に千がニヤニヤ笑ってるっつーわけじゃねぇ。
どっちかってぇと無表情だけど、千のことはちょっとの変化でも分かる。

「天、お前には言っておこうと思ってな。」







【メロウ】 -3-





文化祭の話し合いから二週間。
あん時はまだまだ決めなくちゃならねぇことがいっぱいあったけど、もう今は「実際に形にする」ことで手ェいっぱいだ。
クラスの連中が隣を走り回る。暑くて半袖になっている奴すらいる。
その一方、俺様は……。





「いよぉっし!!
書けたぞぉ~~~~!!!!!!!!!」

立ち上がってガッツポーズを決めた俺様は持ってたシャーペンを机に叩きつける。

シャーペンは勢いよく音を鳴らした後、コロコロと机のふちへ転げ……そして……、

「やかましい、アホ天。」

机で突っ伏して寝ていた千が起き上がり、そう言いながら机の端っこから落ちたシャーペンを(すっげぇ面倒くさそうに)すっげぇ速さで空中キャッチした。

ナイスフォロー、千。





「でもよぉ、部活でどうしてもムリ!っつー生徒以外は全員参加してるなんざぁ、やっぱClassZの仲の良さは天下一だよな!」

「今回の話がすんなりまとまったのは、多智花が仕事でいないというのも大きいかもしれん。
アイツは天同様、極度の目立ちたがりだからな。」
これ以上目立ってどうする、と捨て台詞を吐いた後、千はまた机に突っ伏す。

「アラタが女たちに追っかけられてたのもデカいのかもしんねぇな。」と言ったころには、もう寝息が聞こえていた。

「しっかしよぉ~、貸出のリストとか3ーFが文化祭でなにやるかって最終決定とか、字が汚ねぇ俺様より女子が書いた方がいいんじゃねぇのかよ~。
だいたい、ちまちま学校に申請とか、俺様、性に合わねぇ!
屋台とか道具とか、黒服組に用意させちまえばいいじゃねぇかよ。」

男子の何人かは、工具を辺り一面に散らばらせて、舞台のセットを作ってやがる。そういやぁ「もうすぐ終わる」つってた。
あーーーーーー、やるなら俺様あっち行きてぇ!!!!

それにしても、マジでお粗末な俺様の字。
汚ねぇ字が埋まった(んでもって、消しカスの跡がスゲェ)予定案をピラピラさせて、書記を俺様に押しつけやがった女子の方を見る。

「だめだよ、天十郎君~」
「先生も言ってたでしょ?自分たちの力でやることからいいんじゃない。」
「それに、書記を決めるじゃんけんで負けたのは天十郎君なんだからね~。」

にこにこ(ニヤニヤ?)しながらクラスの女子がすかさず言う。
流石に俺様もここで言い返すほど頭回んねぇ。つか、女子に言いあいで勝てっかよ。
あー、なんでこんな面倒くせぇときに限って負けっかな、俺様。

「天十郎くん、あとはそれを先生に提出して、今日は終わり!よろしくねぇ~!」
ひらひら手を振って最後の「命令」をしてクラスのやつらが教室から出ていこうとする。

そういえば。

あたりを見回す。

さっきまで話し合いを横で聞いていたアイツがいねぇ。

アイツが話し合いに口出すときはいつも、アドバイスを求められたときだけだ。クラスのメンバーだけで話し合いをさせても大丈夫だって思って、職員室にでも戻ったんだろーな。

なんだよ、
アイツがいなくなってたのに気づかねぇ俺様も悪いけど、

アイツ……、いなかったんかよ。

「じゃ、天十郎君、それ先生に渡しといてね!」
「これから忙しくなるな~。」
女子達が、買い出しの話を楽しそうにしながら教室から出ていく様子を見ながら、俺様は「しゃあねぇな。わぁったよ!」とそいつらに向かって言う。

「あ、ちなみに先生、『国語科教官室にいるから』って言って出てったから。」

「げぇっ!マジかよ!結構遠いじゃねぇか!
……面倒くせぇー…。
おい、千っ!今からちょっくら走っていってくらぁ!オメェも付き合……」
再び机に突っ伏して寝てたはずの千がいねぇ。
椅子はひかれたままだった。

「……のやろ~、また『主人』ほっぽり出してテントかよ……。」

しゃぁねぇ、と言いながら、千が先ほどまで座っていた椅子を飛び越え、
廊下を走り始めた。





たいがいアイツは職員室だけど、そういやぁ、たまに資料や教材取りに国語科教官室に行くっつってたな。
どことなくどんよりと暗い廊下を走り、アイツのいる部屋を探す。
そこを見つけた俺様は、教えられた通りに、ノックをした。
前に職員室にノックせずに入ったらアイツ、怒ったかんな。

コン、コン、と、少し重めの音が響く。「おーい、入っぞ。」
濃い焦げ茶色の扉の向こうにある、小さな部屋は湿っぽくて、なんだか気にくわねぇ。

スチールの棚には古い辞書、文学書、全集が……、壁や床には、その昔、教材で使われたのであろうスクリーンがぎっしりと並んでいた。
廊下もだけど、教官室の中はさらになんか埃っぽいな。

「あ、天十郎君。」
俺様と目があった瞬間、笑顔でこっちを向く。
手にいっぱい本を抱えて…、体が小せぇせいか、「先生が本を持っている」というより、「本の山に先生がくっついてる」みてぇだなと思う。
コイツの姿が資料とかスクリーンに隠れてたせいか、一瞬コイツがいねぇかと思った。
ちっけぇと埋もれるな。
なんかガキの教材である、「隠れてる動物を見つけ出せ!」ってゲームみてぇだ。

「ほらよ、申請と決定のやつ。」

「あ、ありがとう。わざわざこっちまで持ってきてくれたんだ!」

「職員室の机の上に置いといてくれて良かったのに」と言いながら、何冊かの本を机の上に置く。

「あれ?これ天十郎君が書いたんだ!珍しい!」
字の形を見て驚く。
ま、俺様の字ィ汚ねぇかんな。パッと見りゃ分かるか。

「天十郎君、書記とか嫌がりそうなのに。」

「俺様だってしたくねぇ!!ただジャンケンで負けちまったからよぉ。
作品名:メロウ Ⅲ 作家名:みろ