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FATE×Dies Irae 1話-1

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第一話


 冬木市は中央を流れる未遠川を境にその様相を大きく変える。
 東側には近代的に発展した新都。そして、西側には古くからの町並みを残す深山町。
 和洋折衷、古色蒼然とした家屋がそこかしこに軒を連ねる深山町にあって、その男はひどく浮いていた。
 年の頃はおおよそ十六、七ほどと言ったところだろう。
 金色に染められた髪に、刺青の彫られた剥き出しの腕。
 無駄なく引き締まった長身の体躯にノースリーブの赤いジャケットをまとい、野性味溢れる面には、にやにやと人を食ったような笑みを浮かべている。
 そんなどう見てもチンピラにしか見えない男が、ポケットに手を突っ込みながら、行儀悪く私立穂群原学園の校門前に佇んでいた。
 善良な一般人なら、決して関わりあいになりたいとは思うまい。現に下校途中の生徒たちも、男から目を背け、避けるようにそそくさと足早に去っていく。
 だが――
「どうしたんだ、桜?」
 流石に知人が絡まれているとあっては、無視して通り過ぎるわけにもいかない。
 衛宮士郎は険しく顔を強張らせ、意を決した。
「先輩!」
 何やら男に話しかけられ、あたふたと怯えていた桜は、あからさまにほっとした様子でこちらを振り返り、
「ん? ああ、もしかして彼氏? ちょうど良かった。この娘じゃ話になんなくてさ。ちょっとお話いいかな、お兄さん?」
 そう言って馴れ馴れしく歩み寄って来る男に対し、士郎は警戒を強める。
 身体つきや身のこなしを見ただけでも、男が相当荒事に慣れていることがよく分かる。
 これでも正義の味方を志す身である。魔術の鍛錬だけでなく、一応は身体も鍛えてはいるが、ろくに喧嘩の経験も無い士郎がどうにかできる相手とは思えない。
 それでも万一の時は、せめて自分以外に累が及ばないよう、うまく立ちまわらなくてはと腹を括り――
「待った。別に因縁つけようってわけじゃねえよ。まあこんなナリしてりゃ誤解されるのも無理無いけど。ちょっと聞きたいことがあるだけだって。ほら、んな固い顔してないでリラックスリラックス」
「……わかった。じゃあ手短に頼む」
 なおも警戒を解かぬまま、先を促す士郎。
「オーケー。了解。んじゃ、まずは軽く自己紹介――」
「いい。用件だけを言ってくれ」
「やれやれ、つれないねー」
 口の端を皮肉げに吊り上げ、大仰に肩を竦める男。
「そんじゃま、単刀直入に行こうか。――最近この街で、何か妙なことが起きちゃいないか?」
「妙なこと……?」
 士郎は眉を寄せ、男の肩越しに、桜と顔を見合わせる。
「別に何でもいいんだ。些細なことでも構わねえから、何かこう心当たり無いか?」
「そう言われてもな……」
 それまでのふざけた態度から一転、真剣な眼差しを向けてくる男の様子に、思わず真面目に逡巡する士郎。
 その脳裏に、ふと今朝の記憶が蘇る。
 ――早く呼び出さないと死んじゃうよ、お兄ちゃん。
 それは、偶然にすれ違った異国の少女に告げられた、意味深な呟き。
 とはいえ、流石にそれが、この男の求めている答えだとは思えない。
「あ、あの! 二、三日前に殺人事件がありました」
 おずおずと、控えめに口を開いたのは桜だった。男の目が、興味深げに輝く。
「殺人? どんな?」
「ええっと……」
「暴漢が民家に押し入って、家族全員が殺されたんだ。犯人はまだ捕まって無い。金品が奪われた形跡は無いから、怨恨か通り魔じゃないかって話だ」
「なるほど、通り魔ね……」
 何か思い当たる節でもあるのか、男は顎を引いて考え込む。
「っで、死因は? まさかとは思うが、首が刎ねられたりはしてなかったか?」
「? いや。聞くところによると、どうも素手で殴り殺されてたらしい」
「家族全員か?」
「多分」
「他に被害者は?」
「いや、その家族以外に殺されたって話は聞いてない」
「そっか……」
 男は顎に手を当て、
「……聖遺物絡みの事件にしては何とも地味じゃあるが、街全体に漂うこの妙な気配はやっぱ気になるな。それにこの学校、何つーか変なもんが張られてるみたいだし。しかもこの感じ、何か憶えがあると思ったら、あのイカレ吸血鬼の創造そっくりじゃねえか。当たりかどうかは何とも言えねえが、もうちょい本腰入れて調べたほうが良さそうだな」
「なあ、聞きたいことっていうのはそれだけか?」
 こちらの存在など忘れた様子でぶつぶつと独りごちる男に、士郎はむっと声を投げる。
「ん? ああ、悪い悪い。まあ、さしあたってはこんなところだ。サンキュ、手間取らせて悪かったな」
「別に。これくらいお易い御用だ」
「そうか。そう言って貰えると助かるぜ」
 男は何が面白いのかにやりと笑い、
「――遊佐司狼」
 唐突に、そう告げる。
「はっ?」
「名前だよ、俺の。あんたなかなか根性据わってるみたいだし。まあ、何つーか敬意を表してってやつ。それと、敬意ついでに一つ忠告だ。悪いこたあ言わねえ。しばらく学校(ここ)へは来なうほうがいいぜ。そうだな、まあ一週間もありゃ俺のほうで何とかできるだろうから、それまでは家で大人しくしてな」
「? どういう意味だ?」
 不可解極まる男の言葉に、士郎は訝しく眉を寄せ、
「こら! そこのチンピラ! うちの生徒にちょっかい出す奴は、この藤村大河が許さないわよ!」
 聞き知った叫び声が、士郎の背中を殴りつける。
 振り返れば、昇降口を飛び出し、竹刀片手に猛然と運動場を駆け抜ける大河の姿が、見る見るこちらへと迫って来る。
「やっべ、先公か」
 司狼は苦り切った顔で舌打ちを漏らし、
「――衛宮士郎だ」
「あん?」
 踵を返し、今にも駆け出そうとするその背中に、士郎は出し抜けに声を投げる。
「名前だよ、俺の。そっちにだけ言わせたんじゃフェアじゃないだろ? それにあんた、 別に悪い奴じゃなさそうだしな」
 腰に手をあて、仏頂面で告げる士郎の顔を、司狼は愉快げに見つめ、
「くく、そいつはどうも。同じシロウ同士、これも何かの縁かもな。まあもっとも、俺なんかたとは縁が無いほうがあんたのためだろうけど。んじゃな」
 自虐的な笑みとともにシュタっと手を上げ、一目散に駆け去っていく司狼。
「待てー!」
 ぶんぶんと竹刀を振りまわしながら、大河がその後を追いかけていく。
「……行っちゃいましたね」
「ああ。何か訳の分からない奴だったけど、別に悪い奴ってわけじゃなかったみたいだな」
 駆け去っていく彼らの背中を二人して見送りながら、士郎は桜の隣へと並ぶ。
「あの、ありがとうございます先輩」
 頬を赤らめ、上目遣いに頭を下げる桜。
「別に礼なんていいさ。それに、そもそも俺が出しゃばる必要も無かったみたいだし」
「いいえ。先輩がいなかったら、私どうしていいか分からなかったと思います。――そういえば先輩は、こんな時間まで何をなさってたんですか?」
 時刻は間もなく午後の六時を回ろうとしていた。
 日は既にとっぷりと暮れ、日没を境に、冬の寒さはますますその厳しさを増している。
「いつものことだよ。一誠の奴に頼まれて学校の備品を修理してたんだ。俺の取り柄なんてそれぐらいしか無いからな」
 冗談めかした調子で肩を竦める士郎。
 と、桜は聞き捨てならないとばかりに身を乗り出し、
作品名:FATE×Dies Irae 1話-1 作家名:真砂