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~if~






     『もしも』



なんて言葉を何度、頭の中で繰り返しただろうか…。
繰り返しても考えても変わらないの位、自分だってわかってるんだ。
でも、もしかしたらあるかもしれない世界に自分が居たなら
今とは  違うものがあるんじゃないか?
そしたら、士郎を苦しめることも無いかもしれない。
あいつに対してこんな想いを抱かなくても良いかもしれない…。
そう、思う。
別に今の状況が嫌なわけでも不幸せな訳でも無い。
こうして、好きな奴の傍に居て抱きしめられているだけで
幸せなのに…。
けど…

 
『もしも』

違う道を辿っていたら?

こんな関係にならなかったら?
寧ろ、逢わなかったら?
士郎が俺を必要としていなかったら?
あの事故が無かったら?
俺が…この世に元々存在してなかったら?


そこまで考えて振り払うように首を振った。
何、考えてんだ…?

ホント、何か変わるなんて思わない。
変わったら何がどう変わる?
この先から逃げたって何もならないんだ。
今、包み込んでる腕を温かさを失うことが何よりも怖い。
この状態がいつまで続くかなんて分からないけど…
俺の存在はきっと儚いもんなんだと思う。
本来…俺がここにいる自体おかしいのにな。

ふと、見上げた先に少しだけ不安そうな金色の瞳が見えた。
さっきまで人を馬鹿にしたかのように見ていたのに
いつもそんな表情見せないから…
なんて顔してんだよ…なんて思った。
今度はきっと自分が馬鹿にしたような表情してると思う。
それに気付いたであろう瞳が揺れた。
少しだけ安心したような表情で額を合わせて目を閉じて…唇が動く。
「どうかしたのか?」
「ん、別に……なぁ?晴矢…」
頬に触れる髪に触りながらなぞりながら…目を閉じたまま口を開いた。
さっき考えてた事を…聞いてみようと思った…けど、
思った瞬間に不安が押し寄せてきたから
それを誤魔化す為に髪から指を離して
晴矢の頬に手を滑り込ませて引き 寄せるようにして
首に手を回した。
正直…この態勢…辛いな。とか思ったけど.…
そんなの無視して額を離して唇を重ねた。
重ねながら…自分の身体じゃないと気付いて拙いと思ったけど…

止められない…か。




(士郎には…内緒にしておかないとな…絶対怒る…)


離せば、行き成りだからか?びっくりした様な表情が視界を埋めた。
と、次の瞬間には視界が真っ赤に染まった。
今度は俺が仕返しをされる番だった…
顔に体中の熱が集まってるみたいだ…。
軽く触れるくらいにだけど、今の俺にとったらきっと十分すぎる…
普段、士郎の身体だからって言って触らせる事なんてないから
するよりもされる方が恥ずかしくて仕方ない。
離した先に、不思議そうに笑いながら見てくる瞳がそこにはあった
…。

「なんだよ?」
「……何でもねぇー…気にすんな…少し寝る」
「…アツヤ?…」

変な事を考える前に瞳を閉じた。
ホントに今の状況に不自由なんてない…って言ったら嘘になるか。
中々逢えない状況ではあるけれど
だからこそ良いとか最近は思ってる。
まぁ、士郎と晴矢の関係の悪さをどうにかしたいって言うのは
あるけれど…。
士郎の中から見てる限り…会った途端に凄まじいほどの表情をして
いるのが分かる
それと同時に始まる言い争い。
毎回毎回その内容は自分の事だけど…。
『アツヤ出せよ!!』と晴矢が言えば
すかさず士郎が『何言ってんの?君に逢わせる訳ないじゃない?』
とか…そんな繰り返し。

自分からしたら、二人とも大事だからそんな言い争い
して欲しくねぇーんだけど…
最近は呆れてる。もう、日常茶飯事に変わりない。
だから…別に…此れと言って無いのだけど…。
もし、自分がこんな儚い存在じゃなくてちゃんとした
《吹雪敦也》としての人間だったとしたら?
そしたら、士郎にも迷惑かけないし少し位二人が分かり合ってたり
すんのかな…?
こういう風に何も気にしないで触れたり出来んのかな?
普通に士郎と…サッカー出来るのかな…?
それが叶わないのが自分の中では悲しくて仕方ない…けど…
何したって変わる事のない真実なのは目に見えている。


『もしも』


自分があの事故の時…消えていなかったら…

今、どうなってた?

そんな事を頭の隅で思いながら意識を手放した。





         ****




それから数分して目覚めた目の先には見たことも無い景色。
確か…晴矢の部屋に居た筈…なのに。


見たことの無い部屋。士郎の部屋って訳でもない。
じゃあ何処だ?寝てただけなのに…ホントに何処だ此処!!




「あ。目覚めたー?」
「げ……」
目の前に現れたのはヒロト…。
何でこんなところに居るんだ??ってコイツが居るって事は…
コイツの部屋なのか…っ!!
「もー吃驚したよ…帰ってきた途端泣いてるし
また喧嘩でもしたの?まぁ痴話喧嘩って所かな?君たちの場合」
人の事を無視して話を進める。
それを悠長に聞いてる余裕なんてこれっぽっちも無くて
脳内混乱状態だ。
何がなんだか分からない。
それに気付いたんだろうかヒロトが言葉を止めた。
不思議そうに覗き込んできて『大丈夫かい?』なんて
言葉をかけてきて頭を撫でる。
その行動すら俺には理解不能だ。
コイツとこんな風に接した事なんて無いから訳が判らない。
なにより…どうしたら良いかホントに分からないんだ。
気がつけば混乱からか?頬を何かが伝った。

「あぁ、大丈夫?まったく晴矢は何やってるのさ…
あんまり泣かせちゃうと僕が貰っちゃおうかな~」
「は…?…え…」

怪しく笑って瞬間にずいっと視界いっぱいに広がるヒロトの顔。
止めるよりも早く身体が接して引き寄せるようにして
頬に添えられる掌…。
いつの間にか腰には腕が回ってる。

これは…拙い。完璧に。
逃げるようにヒロトの身体を押し返そうとするも…力が入らないっ
さっきまで倒れていたからか?そう言えば泣いてたって言うし…
それに、心なしか身体が怠い。

この状況はかなり拙い…此処から逃げ出さないと…
って思うのに身体がうまく動かない。
顔は近づいてくるし、腕は振り解けないしで半分位諦めたそんな時
部屋の扉が開いたしかも…勢いよく。
この部屋、寧ろ扉壊れるんじゃないかって思うくらい大きな音を立てて。
入ってきたのは血相を変えた晴矢。

「ヒロトっ!てめぇーっ!!!ふざけっー………」
「あーぁ…邪魔入っちゃった…残念」

その状況に心底残念そうな表情で晴矢を見つめるヒロト。
俺はといえば混乱してるし訳が分からなくて
ヒロトにはキスされそうになるし…
かと思ったら晴矢が現れるし…固まる…と言うか思考停止。
そんな俺を無視して頬にヒロトが軽くキスをおとす…
その瞬間に罵声が聞こえて近づいてくる足音
腕を掴まれて転ぶんじゃないかって位に視界が揺らいで
倒れると思った途端に思わず目を閉じた…けど身体に衝撃なんて
来なくてゆっくりと目を開いた先に広がる赤。
何が起こったのか分からなくて横を見てみれば
頬を摩って苦笑いをしているヒロトの姿…

「ったく!ふざけんなよな…」
「そんな、殴らなくても良いじゃない?冗談だし…ね」
作品名:if 作家名:霞蓮城