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「お前のやる事は冗談に見えねぇんだよ!んなこと緑川にしろ!」
「だってさ~アツヤ君も可愛いじゃない?」
そう言って俺に向かってウインクを一つ。
鳥肌が立ったのは……気のせいじゃないな
小さく“うわぁ”って呟いて晴矢にしっかりと抱き着く状態になった。
それに気付いたのか余計きつく抱きしめられた…気がした。
少し顔を上に向ければ見える晴矢の顔。
得意げな表情でヒロトに向かって罵声を一言飛ばし
俺を引きずるようにして部屋を出て
家全体に響くんじゃないかと思 うくらいの強さで扉を閉めた。
それから一部屋向こうにある扉を開いてそのまま其処に入っていく…。
入って扉を閉めて早々また、抱きしめられて…
コイツって、こんな事する奴だったっけ?と、内心思いつつもその行動が嬉しかったりする。
「てか…何でお前もヒロトの部屋になんか居るんだよ…」
「………気付いたら居た……」
不審そうにこっちを見てくるけどな…事実だ…。
しかも、今の状況が分からない。
喧嘩して泣いてたらしい…喧嘩は、中々逢えないからするときも多いけどな…
泣くまでの喧嘩なんてした事ないぞ。
第一、人前で泣くなんて俺がする筈ないだろう。
士郎ならあるかもしれないけどな…。
まぁ、泣いても豪炎寺の前でだけとか?
でも…ああ見えて結構強いんだよな…士郎は。
ただ溜め込みやすいけどな…。
「アツヤ…何考えてんだよ…」
「何って…今は士郎の事考えてた…妬いたのか?」
「悪ぃか?…何だ?…さっきの仕返しか?何時もはしねぇーだろ…」
少し皮肉な感じで笑いかけてくると思いきや
額にキスをして髪を撫でられた。
其処までされて…やっぱりおかしいと思う。
いつも、こんなに触れて何て来ないのに…おかしい。
頭の中で色々と考えてると、唇に何か触れた…ふにって!!
意識を目の前に戻してみれば重なってるのは晴矢の唇でさっきと同じように思考停止しそうになった
けど、抱きしめられた腕を離そうと抵抗しようとする前に…
舌が…入って…
(何だこれ!!)
こんな事された事なんて無いから本格的にパニックを起こし
無我夢中で腕を振り払おうとする。
だって…此れは、士郎の身体だろ!俺のじゃない!
だから、ヒロトもあんな事したのか?
じゃあ…晴矢があんなに怒ってたのは?
やっぱり、俺じゃなかったのか?
そう思ったら苦しくて仕方ない。痛くて仕方ない。
抵抗をしながら胸が痛くなる締め付けられるくらい苦しくて
目頭が熱くなって涙が溢れてくる。
きっと止められない、止めたいとも思わない。
そんな、暴れている俺に対して晴矢は必死に抱きしめようとする。
何でそんなに必死になるんだよ…俺は要らないだろう…?
「ちょっ!アツヤっ!?」
「や、だっ…離せっ!俺は、士郎じゃねぇ!!」
「…は?…何でそこで吹雪の野郎が出てくんだよ?」
「だっ、て…これっ…士郎の身体っ…」
「……いや…何言ってんだ??……アツヤの身体はアツヤのだろ?」
その言葉にぴたりと止まった。
何言ってんだかわからない。
だって俺は…あの事故で消えた筈だ。
なのに目の前のコイツは真面目な顔で覗き込んできて言う。
しかも「大丈夫か?頭平気か?」とか言ってくるから…ムカつく…
けど訳の分からないままで
怒るのもどうかと思うから我慢しててやる。
大人しくなった俺の腕を開放して部屋の奥の方へと行ったと思ったら
少し離れた所で手招きをされたから少し不審に思いつつ晴矢の元へ
足を進めた。
晴矢の目の前には中ぐらいか?その位の大きさの鏡。
その鏡を指差して「見てみろよ」何て言うから素直に覗き込んでみれば…
其処に映ってるのは…士郎じゃなかった。
桃色の髪に蒼い瞳……。
「……は?………俺?」
「お前しか居ないだろ…?何、変なこと言ってんだよ…」
呆れた顔をして笑ってまた…頭を撫でられた。
その顔をぼーっとしながら見て、また鏡に目を向けた…やっぱりそこに居るのは…
《吹雪敦也》として存在している自分自身。
あぁ。多分きっとこれは夢なんじゃないか?
きっと、あんな事…考えたからこんな夢を見たんだ。
夢って言うのは願望だって映せる…だからきっとこんな夢見たんだ。
『もしも』
あの事故で自分が消えていなかったらなんて考えたから…
きっとそうだ。
試しに頬に手を添えれば掌の温かさが伝わってきた。
温かさまで夢の中は影響されるもんなんだな……。
(何でもありだな……でも、これは幸せだ)
だから、この晴矢の奴はあんな事してきたのか…
そう思うと、何だか恥かしくなった。
きっとこうやって身体が存在したのなら…
こんなにベタベタして来るんじゃないかって考えたら…余計恥ずかしくなったのは明白だ。
顔が熱くなった。
その様子を見て、不信感はコイツには生まれなかったのだろうか?
自分の顔を見て頬を触って…こんな光景見てたらナルシスト…とか
思うだろうに
何も言わずに只見ているだけ……と思ったのも束の間だ
後ろから抱きしめられて首筋辺りに唇を這わしてきたと思えば
離して頬にキスしてきた。
「は…晴矢…ちょっ…」
「んー…もー俺に構えよな…」
「は?…ちょ、うわっ!…下ろせよ!!」
「下ろすわけねぇーだろ…な?」
抱きしめるが抱きかかえるに変わり運ばれた先はベッドの上……。
いやな予感しかしないのは気のせいか…否、気のせいじゃないな。
しかも…口では下ろせとか嫌そうな言葉を言っておいて、
嫌じゃない自分は何なんだろうな
相変わらずいい笑顔で見てくる晴矢を突き飛ばそうとかそんな気は一切しなくて
半ば諦めつつ伸ばした腕を首に絡めるようにまわして
降り注いでくるであろうキスを素直に受け止めながらベッドの中に埋もれていった…。
****
「……ヤ…」
声が聞こえた。誰の声だ?
何か…怒ってる様な声………
「アツヤぁぁぁ!!!!」
「うわぁっ!!!!んだよ!ビックリするだ…ろ…?」
目の前に居たのは…晴矢だ。
で、ふと…見渡した部屋は見たことのある部屋でぐるっと見渡して納得した。
あぁ。やっぱり夢だったかと。
部屋の隅にある鏡に映る姿は《吹雪敦也》ではなく《吹雪士郎》だったから。
そう思った瞬間に生まれてきたのは軽い落胆と妙な安心。
これが現実なんだと思ったのと同時に戻って来たと言う安心感だ。
「おまえなーどれだけ寝てんだよ……お前の頭、俺の膝の上にあるんだけど…?」
「あ…そうだった…わりぃー」
「で?何かいい夢でも見てたのか?……可愛いから額にキスしといた…」
「まぁな………って!おまっ!何やってんだよ!!」
毎回のようにこんな会話ばっかり。だけど…
勝手にされて悔しいから胸倉を掴んで引き寄せて頬にだけど口付けをした。
仕返しがすぐに来るなんて目に見えてるけど…。
それはそれで良いと思う。
ほら。
不意を衝かれた瞳が一気に色気を帯びて俺を捕まえに来る。
その先はどうなるかなんてしらねぇーけど…どうとでもなればいい。
士郎に怒られるのは決定済みだ。
『もしも』
なんて考えても考えても変わらないの位分かってるだけど…
俺の事は変わらずに愛せよ?
終