二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【サンプル】【大人組】ラウンド・アンド・ラウンド

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
体温をこまめに測ることが癖になっていた。正確に測るには、脇の下におよそ十分間挟んでいなければならない、つまり、ブザーが鳴った後もしばらくじっとしていなければならないのだった。けれどそうすると、おい、もう鳴ったぞと言われ、説明すれば律儀な奴だと言われる。お前みたいにちゃんと測る奴は見たことがないと。
三四・四度。僕の平熱はこのあたりを行ったり来たりしている。経一が俺もやってみるかと言い出し、十分後、体温計は三七度を記録した。三六度から七度、ふつうのひとの体温が僕には微熱の域にあって、すこし辛い。経一の体はよけいに熱い。
あの熱さが僕を苛立たせるのだろうか。
「触れられるのは嫌い?」
嫌いかどうかで問われると戸惑ってしまう。即座に嫌いと言うのはためらわれるけれど、嫌いでないと言えば、それは触れても構わないという意味になるのだろう。触れてもよいかどうか、そう問われたとしても僕は戸惑うほかなかった。わかりません。そう答えられるような疑問ではないはずだ。よいのか、いけないのか、答えは僕が自分で決めることであって、他のどこにも用意されてなどいないのだから。それなのに、触れられるようになってしばらく経った今でも、なんと答えたものか、見当もつかない。
わかりません。
答えるより先に、もう触れたり触れられたりしている。僕は僕の体が硬くて冷たいことばかりを知る。自分の体が好きではなくて、けれどそれは仕方のないことだから、どうにかしようとは思わないし、誰かにどうにかしてほしいとも思わない。そのことを説明するのも面倒だから、できれば、なにも言葉にしないで済ませてしまいたい。
経一は会話を止めることが上手だった。無言でひとのお腹に軽くキスをする。いくつも。不思議な安らぎがあって、それで、なんとなく誤魔化されてしまうのだった。僕も同じようにすればいいのだろうか。けれど、キスするのも触れるのも僕はちっとも得意ではなかった。
「してごらんなさいよ」
鈍がそう言って白い手の甲を僕の唇に寄せてくる。してみた。鈍はなにをされているのかわからないといった様子で眉をしかめた。それからおもむろに僕の手を取ってくちづけた。
彼女の唇はふっくらと厚くて、湿っていて、そのせいか、経一のように穏やかな心地はしない。
「なんかちがうな」
「なにが」
なにが、なのかを探ろうとして、僕らはお互いの腕や肩にキスの試みを繰り返す。そのうち飽きてしまって、横になる。
「あんたなんかの横で寝なきゃならないなんて」
「女の子の家にでも行けばよかったじゃないか、ほら、この間言ってた、後輩の」
「ふられたのよ」
「……へえ、お前でも、ふられることなんてあるんだな」
「なによ、馬鹿にしてるの?」
「そうじゃないけどさ」
「ほかに好きな人がいるんですって」
「……ご愁傷様」
「嫌な奴」
わずかに言葉を交わした後、僕は電気のスイッチが切れたみたいに眠りに落ちる。夢も見ないで深く眠る。鈍がどうなのかは知らない。彼女はあまり眠らないのかもしれない。眠っているところをきちんと見たことがない。
けれど、考えてみたら、鈍と寝るときがいちばん深く眠れるのだった。

****

経一からその話を聞かされたのはほんとうに何気ないタイミングで、お料理なんかしていたときだった。
彼が逸人と会っているというのが、一緒に寝ているという意味も含んでのことであると理解するのにすこしばかり時間がかかった。もちろん単に一緒に眠っているということではない。
「なにがどうしてそうなったの」
「うーん」
経一はかちゃかちゃと卵を溶きながら首を傾げた。
「流れで?」
だからどういう流れかを訊いているのだが。とはいえ、あまり問いただすと経一は余計なことまでぺらぺら喋りかねないと思ったので、やめた。よそのベッドの事情なんて詳細に知りたいことでもない。
「ていうかさ、その、これ訊いちゃいけないかもしれないんだけど」
「なによ、訊いちゃいけないと思うんなら訊くのやめなさいよ」
「鈍ちゃんは逸人とはやってないの」
「……なによそれ、やってるわけないじゃないのよ」
「やってないの!?」
 経一は頓狂な声を上げて驚いた。びっくりしたのはこっちの方だというのに。
「やってないわよ、第一、会ってもいないわよ」
えええ、またあ、そんなこと言ってえ、などと言いながら経一はフライパンにバターを落とす。ふわりといい匂いが漂ってきた。
「鈍ちゃんもそのうち寝ると思うよ」
フライパンの中にじゅうじゅうと湯気をたてながら呟く経一の顔は、冗談の類を言っているようにはすこしも見えなかった。その様子にわたしは結構苛立った。けれど、わたしがあの男と寝るなんていうことを具体的に考える方が余程、よほど不愉快だ、と思ったので、その件にはもう突っ込まないことにした。
わたしはコーヒーを淹れていた。朝だった。経一と寝た後の朝、とても天気のよい、気持ちのよい朝。洗面所から洗濯機の回る音がしていた。