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【サンプル】【大人組】ラウンド・アンド・ラウンド

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最初に寝た日、逸人のベッドには淡いクリーム色のパイルシーツが引かれていた。それはかつて、彼の具合がひどくなり始めた時期に、三途川先生が差し入れてくださったものだった。質のよい、柔らかいパイルで、洗っても乾きが早い。彼のことだから、ずっと大事に使ってきたのだろう。
そのパイルにわたしはボディピアスを引っ掛けた。お臍の、ほんの小さなピアスだったけれど、淡い緑のクリスタルを止めるプラチナの爪が、パイルの糸を引っ張ってしまったのだった。細い糸が絡まって、外すのに骨が折れ、シーツの真ん中にはほつれが残った。
「ごめん」
「ごめん」
彼は赤くなったわたしのお臍を、わたしはほつれたシーツを眺めながら互いに謝った。あんたが謝ることじゃないでしょうと言うと彼は黙ってしまった。シーツとの格闘を経て、わたしたちの昂りはだいぶ落ち着いてしまい、以降セックスが成立しないのは、もしかしたらそのせいかもしれない。
その件があったので、次に行ったとき、わたしはつるつるして突起のない銀のピアスをお臍につけていた。逸人のベッドには真っ白で平滑なシーツが掛けられていた。おろしたてのようにつやつやしていて皺一つない。逸人は素知らぬ顔をしていたけど、ちょっぴり得意気だった。服を脱いだわたしのお臍を目にすると彼はすこしばかり口角を下げた。その次もわたしはシンプルなボールのピアスをつけて行き、ベッドのシーツはやっぱり皺がなく真っ平らだった。
四度めにわたしは、金の台座に色とりどりの小さなクリスタルをはめ込んだ、凝ったデザインのピアスをして行った。逸人はそれを気に入ったようだった。儀礼的に愛撫もどきをやったのち、わたしは枕に半身を乗せ、逸人がわたしのお腹に向かい合う格好で、ふたりで横になっていた。彼はわたしのお臍をしげしげと眺め、人差し指でピアスを突っついたり撫でたりした。わたしは頬杖をついてその様子を眺めた。
「お前は」
「なあに」
「どうしてこういうのつけようと思うの」
つまらないことを言う奴だと思った。
「あんたに弄ってもらうためじゃないわね」
わたしたちがたいして動くことをしないせいで、ぴんと張ったシーツには皺のできようもない。せともののように平滑で真っ白なシーツの上に、同じだけ白い逸人の体が転がって、白い頭がわたしのお腹をいっしんに覗き込んでいる。
(保護色)
つむじにくしゃりと掌をのせた。ややあって逸人が身を起こす。膝立ちになってベッドの傍の棚に手を伸ばした。体温計。これは彼の趣味だ。
逸人はさっきと同じ位置に、今度は仰向けに寝転がった。脇の下に体温計を挟むと、お腹の上で軽く手を組み、天井を見つめて黙った。最初にわたしの前で測ったときも、こんなふうに静かにしていた。三分ほど経ってブザーが鳴ると、なにを聞いてもいないのに、彼はひとこと、わたしに言ってきたのだった。
「これ、十分くらい測らないといけないんだ」
「そう」
その後のおよそ七分間も彼は沈黙していた。まるでなにかのお祈りみたいだった。実際、それはほとんどお祈りなのかもしれなかった。
今日の彼はいつもとちょっと違っていた。ブザーが鳴った後、顔だけ横に向けて、もう一度わたしのお臍を眺めた。たくさん石がついているせいで、偏光の色がくるくる変わるから、目に楽しいのかもしれないと思った。
それから逸人は不意に口を開いた。
「……教師になりたいと、思うんだけど、僕は」
「?」
「友達がいないんだ。大学に」
「……教師になりたい友達がいない、ということ?」
「いや、友達全般がいないということ」
「……」
「そういうのは、よくないことかもしれないって思っていた、教師になる人間としてはね。でも、最近思ったんだけど、学校にはいろいろな子供がいるわけでしょう、だから友達がいない子供だって当然いるんだ、そうしたら、学校で友達がいない経験っていうのも、無駄ではないのかもしれないわけで」
(どうしてこう)
わたしは少々眠たくなってきていたので、
(どうしてこの人は、こう脈絡のない、返しづらい話を唐突に、わたしのお腹に向かって一生懸命話したりするんだろう)
思ったけれど言葉にするのが面倒で、ああそう、とだけ返した。
逸人はぱたりと言葉を止めると、首の向きを元に戻した。そうして憮然とした声で言った。
「独りになるなみたいなことを言ったのはそっちじゃないか」
「―」
「だから、僕だって、すこしはちゃんと自分のこと話そうと思ったのに」
「―ああ、そうね、悪かった、聞くわ、」
「……三十四度三分」
体温としては低い温度を、口の中で呟く声が聞こえ、見下ろすと、逸人が体温計をケースにしまっているところだった。そのままケースを傍らに置くと、彼はそっぽを向いてしまった。しばらく話の続きを待ったのち、顔を覗き込んでみたら、穏やかな顔ですやすやと眠っていた。
わたしは面白くない気持ちになった。なんだか目もさえてしまった。素っ裸の逸人の姿が目に付かないように、頭まですっぽり布団で覆ってしまってから、ベッドを降りてシャツだけ羽織った。机の上の本棚を物色してみたけれど、教科書の類ばかりで、読んで面白そうなものはなにもない。冷蔵庫の中には大学生協の印がついた飲みかけのミネラルウォーターが一本、あとはキャベツと卵とお肉くらいしかなかった。座布団に腰を下ろしてミネラルウォーターを開けて飲んだ。暇を持て余して、携帯なんか弄っていた。