永遠に失われしもの 第4章
朝食後もすぐ書庫にこもるシエルに
セバスチャンが食後の紅茶を運んでくる。
「またこちらに?」
「ああ・・」
開いていた本を閉じて、
シエルはセバスチャンに目をくれる。
「本日のご予定は如何なされますか?」
セバスチャンは白い手袋に包まれた手で
砂時計をひっくり返している。
「魔剣の在り処を突き止めなければ・・・」
「では各地の古書を調べますか?」
「いや、まずバチカン図書館からだ。
法王庁の図書館ならば、
その手の本は沢山ありそうだからな・・」
「御意」
シエルにティーカップを差し出した
セバスチャンは、行く末を見据えるような
そんな目つきをしている主を見遣る。
「ここは、幸いバチカンから
そう遠くは無い場所にございます。」
「どこなんだ?・・ここは?」
「北イタリアのベローナとマントバ
の中間あたりですが?
それでは早速出かける準備を
することに致しましょう」
ティーカップに口をつけるシエルに
楽しげな様子で
セバスチャンが付け加える。
「図書館で調べが済みましたら、
夜はローマで、演奏会を
楽しまれるというのは如何です?
丁度今夜はサラサーテが
サンサーンスを弾きますが--」
「物見遊山に行くわけじゃない」
「教養を高めるのも大事ですよ」
セバスチャンは少し
落胆したような表情をしている。
「それを聴きたいのは、むしろお前の方
じゃないのか?」
「ええ、私は美しい音楽を
愛でておりますので。
それにぼっちゃんのヴァイオリンの為
にも、聴いておいても損はないかと」
「ふん!好きにしろ!」
「有難うございます。
それでは、手配しておきます」
明らかに上機嫌になったセバスチャンの
後ろ姿に、シエルは小声でつぶやいた。
「酔狂な悪魔め・・」
作品名:永遠に失われしもの 第4章 作家名:くろ