ぱぴぃらぶ!!
ぱぴぃらぶ!
僕の兄で三兄弟の次男坊のボーレとミストの結婚の日が決まったのは戦争が終わってからだった。
よく分からなかったけど、分かったのは簡単に言えば二人は愛し合ってるということだった。本人達は少年少女のようにふざけ合ってる仲なので、そんなこと人前では一言も言わないけれど結婚を決めたというのは、そういうことだった。
「盛大な結婚式にはしないよ、何てったって貧乏傭兵団だしね。」
ミストは夕飯のしたくをしながらとびきりの笑顔でそう言っていた。
むしろこじんまりとやる方がいいんだよと言いたげに見えた。そして心底幸せそうだった。僕はうんうんと表面だけで頷く。
その表情を曇らせるようなことはしたくなかったから否定するようなことは言わず、とにかくおめでとう、良かったね、をたくさん言った。
・・・それじゃあ、本当は思っていないのか、そうでもないけれど周りの皆ほど心からのおめでとうを言うことは僕にはまだできなかった
・・・ところで実はいっぱしに僕も戦争に参加していたのだ。
弓を扱っていた。今も仕事で時々手にする。それで、それについての師がいて、シノンさんという。
そんな結婚を数日に控えたある夜、皆の見ぬ隙に傭兵団の食卓のテーブルを囲んでシノンさんとその舎弟みたいな、友人ガトリーとが酒をあおってるのを僕がぼんやりと眺めている時だった。
僕は二人の飲む酒の匂いに飲まれていた。・・・恥ずかしい話、僕はお酒に強い方ではないらしいんです。
そして、酒に酔っ払うと理性がふっとび、言おうかな、どうしよう、と戸惑う暇もなくあらゆることが口からこぼれ出る。
だから僕は言ったのだ。
「僕ね、ミストが好きだったんだ」
丁度、ガトリーが恋愛に関する愚痴を言っていたときだったと思う。
ずっと黙ってテーブルに突っ伏していた僕が急に発言したので二人ともさぞ驚いたであろう。けれど遠慮なく僕は続けた。
「告白はしてない。でも、いつからかな、二年前からは少なくともだね。とにかく好きでたまらないくらいは好きだった。実をいうとね、ミストといつも本当の意味で親密だったボーレには嫉妬してたよ。会えばムキになっていた。」
シノンさんは黙ってコップに入った酒を飲んだ。ガトリーも黙って僕の方を見ていた。真剣な目で見ていたかどうかは覚えていない。
ただ、二人とも黙って聞いていた。覚えているのはその肌につく妙に緊張したような静けさだった。いや、緊張していたのは僕の方だったのかもしれない。
「ミスト、誰にでも優しかった。僕に対しての優しさは恋には繋がらないものだった。それに気づいたときから、僕はボーレとミストの親密さを羨ましがった。あの二人はよくふざけては笑いあっていた。そのときのミストの笑顔は眩しかったな。僕に向ける笑顔はとてもあんな風じゃなかったよ。」
そこから言葉はでなくなった。シノンさんはずっと僕でない方向を見つめていた。ガトリーは酒をごくごく飲みながらうんうん、と頷きたがっていた。
「切実な片思いだったんだな・・・。」
ガトリーは先輩みたいな調子で、だけれどちょっぴりしんみりと言った
切実な片思い。そうなんだけど。そうだよ。そうだけれど。でも。
その通りなんだよ。だけれど。何故僕はこの言葉を頑なに飲み込もうとしないんだろうか。
「おい、がきんちょ」
シノンさんが、僕を呼ぶ。今度は僕に視線を落として。
僕は、もうがきじゃないもん、ともごもごと口の中で呟く。
「お前はもう諦めついたのか」
シノンさんは、呆れたとも、哀れみともいえない調子で言った。
「諦めつくとかじゃないんだよ。諦めなきゃいけないんだよ。だって・・・」
また、酒が言葉を流しだした
「僕は、負けたんだから。」
言いながら僕は情けないなあと思った。僕は今世界で一番ちっぽけで情けなくて哀れな惨めな、がきんちょ以下の存在に思えた。
好きな人がいたのに、分かっていたのに、怯えて逃げたばっかりに、何もけじめをつけないままとうとう終わりがきてしまった。
もしボーレと僕が、もしもだけれど全く逆の立場ならどうだろう。きっとボーレは僕に正々堂々とぶつかっただろうし、ミストに不器用ながらも思いを伝えたに違いない。そして気持ちよく振られ、終わっていたのだろう。
僕はどうだ。
「おいおい」
今度は間違いない、呆れたようにシノンさんが言った
「まさか、お前もう言うのは手遅れだなんて思ってんじゃねぇだろうな。」
僕は驚いた。
「だって・・・今言ったらミストの気持ちを曇らせちゃうじゃんか!」
関係ねぇ、という風にシノンさんが言った
「いつでもいいじゃねぇか。」
「むしろ当日にてめぇにそんなしけたツラで居座られたらいい気はしねぇだろうがよ。馬鹿だなおめぇは。」
馬鹿だなおめぇは、をまともに食らい、そのひりひりを感じながらそうかなと僕はぼんやりとなった。そうかもしれない。ミストやボーレのためにも、僕はけりをつけなきゃいけないのかもしれない。
きっとこのまま心の奥底で諦めない気持ちを持っているのに、それから目を背けてうずくまっていてはは駄目なのだろう。
・・・・言わなきゃ、まだ手遅れじゃない。そうだ、もう叶う叶わないは問題じゃない。僕がこんなじゃ、それこそ二人に悪い。伝えなきゃ。けじめをつけなきゃいけないんだ
僕は初めて、この気持ちを前向きに向かわせかけることができた気がした―――――