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柳生医院のおはなし

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男の人は左の小指を出したので、女の子も左の小指を出して、ゆびきりをしました。柳生先生のことをこの男の人が約束するのも変な気がしますが、この人は嘘は言わないと女の子は信じていましたし、この人が信じている人なら自分も信じてみよう、と女の子は思ったのでした。男の人が満足げに笑った、と、その瞬間に、うしろから知らない人の声がしました。

「仁王くん、」
「おー、おつかれ柳生」

女の子が振り向くと、白衣を着て眼鏡をかけた、髪の茶色い男の人がいました。紺色のつなぎの男の人を仁王くんと呼んだので、女の子はこのお兄さんの名前は仁王さんというのだな、そして仁王さんは白衣の男の人を柳生と呼んだので、この人が柳生先生なのだなとわかりました。柳生先生は、女の子のほうをみて、にこっと笑いました。

「こんにちは」
「…こんにちは、」

柳生先生は仁王さんのようにきちんと挨拶してくれました。先生は床に座っている女の子と仁王さんに合わせてしゃがんでくれ、こんなところで二人してなにしてるんですか、と言いました。女の子と仁王さんは顔を見合わせて、一緒に吹きだしてしまいました。

「あんなあ、ゼロ・グラビティ練習しとった」
「……マイケル・ジャクソンですか」
「おー。この子がな、こう、倒れ具合を測定してくれとって、な!」
「ふふ、うん、そうなの、あ、なんです!」
「そうだったんですか」

先生は女の子をみて笑って、丁寧な言葉が使えてえらいですね、と頭を撫でてくれました。女の子は、柳生先生は怖くないという仁王さんの言葉を信じていましたが、それでも、いまに先生が注射の話を出すのではないかとどこかで怖く思っていました。それで、言われるまえに自分から謝ろうと思って、仁王さんと話している先生に声をかけました。

「せんせい、」
「はい、どうかしましたか?」
「あの、……ごめんなさい、あの、わたし、…注射が、」
「はい」
「注射が、」

怖くて、という一言が言えずに、女の子はまた泣いてしまいました。仁王さんは柳生先生を見ましたが、柳生先生は女の子を見つめているままでした。女の子は、ごめんなさいを繰り返していましたが、柳生先生が女の子の頭にぽんと手のひらをおくと、女の子は驚いて顔をあげました。

「注射が怖かったんですか?」
「はい、」
「怖いことが嫌だったんですか?」
「……はい、」
「そうですね、確かに、注射を怖がらない子は褒められるし、あなたのように怖く思う子は注意されることが多いですが、私は、注射を怖がらないことをえらいとはあまり思わないんです」
「……えっ?」
「注射というのは、少なからず痛いものです。どうして人の体に痛いという感覚があるか知っていますか?」
「ううん、…わかりません、痛いのは…いやだし、」
「それです」
「…?」
「痛いのは嫌なことですね。そして痛く思うのは、怪我をしたり、病気をしたときです。もし痛いという感覚がなかったら、あなたは怪我に気が付けないかも知れません。痛く思うのは、自分の体の不調に気付くためのサインなんです」
「あ、そっか…!」
「だから、痛いのを怖がるのは当然のことなんですよ。怪我や病気を怖がるのと一緒です。注射を怖がらないのは、大袈裟に言えば、怪我や病気を怖がらないのと同じことです。それは、とても危険なことなんですよ」
「…だから、」
「そうです。まあ注射は体の不調を治すためとか、調べるためにするものですが、体に穴をあけるのには変わりありませんからね」

女の子は、先生の「体に穴をあける」という表現にすっかりちぢみあがってしまいました。仁王さんはそれをみてあちゃあ、という顔をして、柳生先生の頭をはたきました。

作品名:柳生医院のおはなし 作家名:たに