二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

たまゆら

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 





 からり、と玄関を開ける。普通なら声もなく玄関が開くことに不信感を抱くが、それもなく部屋はしん、と静まりかえっている。それだけ、この家がいかに無用心か、というところなのだが。
 行儀よく草履を脱いで、するすると床を摺るようにして歩く。いつもあるであろう複数の人の気配はなかった。否、家の者が居ないだろうという時を狙ってきたので、それは計算通りだ。入ってすぐ、ソファにぎょろりと目を動かすも、そこには定春がぐぅぐぅと気持ちよさそうに寝ているだけだ。近寄って、ふかふかとその頭を撫でてやると、眠そうに目を開けたが、心地よかったのだろう、一つ大きな欠伸をするとまた眠りについてしまった。頭をふあふあと二、三度撫でてやり立ち上がる。
 障子を、開ける。そこには湿布やら包帯やらを体に巻きつけて、布団に寝ている銀時がいた。傍らには、ジャンプが放り出されていて、恐らく寝ている途中に眠くなってしまったのだろう。腹を出して寝る癖は、昔からずっと直っていない。
「銀時、」
 見下すように視線を眠る銀時に落とすが、銀時は起きる気配すらなかった。熟睡している。高杉は枕元に向かい合うようにしてしゃがみ込むと、銀時の肩口の包帯に触れた。ふと、万斉が漏らした言葉を思い出す。
『白夜叉の左肩を攻撃したが、馬鹿をした。利き腕を狙えばよかったのに、久しぶりの高揚感に判断を誤ったでござる』
 昨晩の閨で、珍しくへそを曲げた風に、ぼつりとつぶやいて高杉を組み敷いていた。若さだろうか、万斉の包帯はとうに解けて、今では何のこともないようにかつての通り西へ東へと忙しくしている。ようやく大きな仕事が上がったと、久しぶりに高杉の元へ訪れて、体をひらいたのだった。
 万斉と夜を共にすることは、嫌ではなく、むしろ楽しささえ高杉は感じるようになっていた。まだ、高杉自身が万斉の年のころに銀時と体を結んで、それにのめりこんでしまったように、万斉もまた高杉にのめりこんでいる。縋り付いてこられる感覚を、決して邪険に思わず、むしろ快感に思う高杉は、すがりつく万斉の手も体も突き放すつもりはない。無論、離すつもりもない。
 それを、前回の紅桜のいざこざに紛れて、銀時にしらしめしたのが余程堪えたらしかった。高杉が直接耳にしたことではないが、銀時は確かに万斉が、隣に居た、というのを記憶していた。興味のないことはすぐに忘れる銀時が覚えていたのだ、よほど腹に据えかねたとみえて高杉はそれだけで満足であった。
 が。
 やはり実際目にしたいと思うのが人情である。そのために、こうしてはるばる万事屋に足を運んだ。明日には京へ舞い戻り、またしばらく潜伏しなければならない。
 微塵も起き出す気配を見せない銀時に、不貞腐れたようにため息を漏らして、銀時の顔をのぞきこみながらごろん、とその場に腹ばいになった。足をぶらぶらとさせて、いかにも退屈そうである。いっそ、嫌がらせ程度に唇の一つでも重ねてやろうか、と思ったが便乗してそのまま頭を押さえられて仕舞いそうになるのを恐れて、即座に却下した。
 退屈にまかせて、散々見てきた顔も飽きてしまい、畳に手をついた上に顎をのせる。みよん、みよん、と面倒な方向へ曲がっている髪を一筋、つまんで指先でぐるぐると遊んでみる。昔、こうして遊んだものだなぁと懐かしさに口元が緩んだ。
「ぎーん、」
 手入れをしてもらったばかりの爪で、しばらくそうしていると、細かなくすぐったさにゆるゆるとぐずりながらも、ようやく目を覚ました。
「……晋ちゃん?」
「よぉ」 
「……いつぶり?」
「さぁ。半年振りくらい?」
「いや、もっとだろ」
 普段と変わらない、死んだ目つきは起き抜けでも健在であった。ぼんやりと、目の前の視界いっぱいに広がる高杉の顔をまじまじと見つめたあとに、お約束通り、頭を引き寄せる。
「……」
 じと、と銀時が見つめていると、察したように体を滑らせて隣へと移動する。起き上がった銀時の肩に寄りかかって、高杉もぼんやりと空虚をみつめていた。
「肩、」
「んぁ?」
「相当、痛めつけられたらしいな、銀時ィ」
 ニヤ、と含みを持たせたように笑うと、寝巻きの上から左肩をさする。ざら、と包帯のかすれる感触と、銀時が傷に触れられてひくん、と体を痙攣させる様に、高杉は喜んだ。
「万斉がなァ、」
「誰、」
 上機嫌な高杉から紡ぎだされた聞き覚えのない人物の名に、眉間に皺を寄せて低く、問うた。
「おめぇにこの傷負わせたやつ」
「あぁ……あのヘッドフォン」
 あの野郎、名乗りもしなかった、と銀時がぶつくさ唱えるのを横に流し、高杉は話を続ける。
「もっと深手を負わせてやればよかった、だとよ」
「……あのシャカシャカ野郎、お前とどんな関係だよ」
 する、と高杉の身体をなでるように銀時の手が、腰に回される。視線だけを銀時へ持ち上げると、相変わらず死んだような目の銀時が、どうなのよ、と続きを催促している。
「……パトロン、利害関係の濃い同胞、あるいは俺の男、とか」
「最後の、何よ」
「砕けて言うと今彼?」
「ふん、いいご身分だこと」
 てめぇほどじゃねぇよ、ところころ笑う。細い肩が揺れて、髪の先が細かに震えた。そんな高杉をほぼ頭一つの身長差で見下ろして、なぁ、と語り掛ける。
「ん?」
「お前、あの間何してたんだよ」
「……言わせてぇのか? 野暮だなァ銀時」
 楽しそうに笑うと、銀時の首にすがった。言うつもりはないだろうことは銀時にも分かっていたが、どこかもう一つなにかを抱えたような物言いに思わず反応してしまう。しかし何が、と問うのもばかばかしくて黙っていると、何が楽しいのか口元に笑みをたたえたまま高杉が顔を寄せてきた。
「……飲んでんだろ、」
「ああ。久々にすげぇいい気分だぜ」
「銀さんはおめーの彼氏のせいで散々なんですけど」
「そーかい」
「……」
 ふれるだけの唇が、銀時の首筋を撫ぜる。ふっくりと肉付きのいいそれがくすぐったくて身をよじれば、つれねぇな、と高杉が苦笑した。
「あのヘッドフォンが彼氏なら、銀さんはおめーのなんなわけよ、」
 いつの間にか、銀時の胡坐の間に入り込んで、膝立ちになりながら、ふあふあとした頭を抱えていた高杉の胸の中で、ぼそ、と呟く。まるで子供が駄々をこねるように、まさに唇を尖らせている様を見て高杉はまた笑った。
(よく、笑うな……)
 酒が入っているのが大分きいているようで、高杉はころころと口元に手でも添えるような様子である。錦絵の、美人画のような。
(欲目すぎ、)
 さすがに今のは、銀時自身盲目すぎたと思った。
「なんだろうなぁ……愛人……はちげぇし」
愛人、と言われ不覚にも胸が弾むも、無断にも打ち消された言葉にそれは流れてしまった。興奮が冷めて、さぁと身体が冷たくなる。
「……元彼……」
「まんまな上に何のひねりもねーな……」
 虚勢を張っているようで、その実、高杉のおつむはなかなか弱かったりする。いいとこ育ちのゆえんだろうか、わがままもさることながらなかなかに無茶を通したり、考えが至らなかったりすることはよくある。昔から、そういうところは変わっていない。
作品名:たまゆら 作家名:空堀