美しい喜劇
(考えるって、何を?答えは決まっているのに。確かに僕は日野先輩に憧れていたかもしれない。でもそれは、恋愛感情なんかじゃない筈だ。だって僕は男で、日野先輩も男なんだから。男同士で付き合うなんて、ありえない。そもそも先輩は、僕のどこが好きだって言うんだろう?性格?顔?そんなの、どれをとっても女の子の方がいいに決まっているのに。先輩は、ホモなんだろうか。同性しか、好きになれないって言うのか?いや、いつもみたいに僕をからかっているだけだ。僕が真剣に悩む姿を見て面白がっているに決まってる。日野先輩は面倒見がよくて優しいけど、時々そういうことをするんだから。まったく、勘弁してほしいよ。そんな───そんな目で見つめないで。まるで、本当に僕のことが愛しいみたいに……!)
複雑な心境を喉の奥に押し留めて俯く坂上から、日野は悲しげに目を逸らした。
「食料は缶詰や乾物類だ。まあ、もって三日ってとこだな。問題は武器だ」
「まるで、僕たちに殺しあいをしろとでもいってるみたいだよ」
細田がポツリと呟いたその時だった。
【その通り。君たちにはこれから、殺しあいをしてもらおう。最後に生き残った一人だけ、そこから出してやるよ】
明らかに機械を通して発された声が、古いレコードのように途切れ途切れに宣告した。
【さぁ……死にたくなかったら、武器をとって戦え】