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娘娘カーニバル! 序章~翔(2)~

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劉備ガンダムは信じられないまま鏡を見詰めた。
(ちょっと待てーーーーー!いや、おかしいだろ!なんでふわふわ生物に、しかも女になってんだ!)
「劉ちゃん大丈夫?顔色がすごく悪いよ」
そっと桃花が劉備ガンダムの頬に触れてきた。距離が近づき甘い香りが強くなる。
桃花が近づいたことに気付いた劉備ガンダムは至近距離で見た彼女に胸が高鳴った。
(可愛いな。いや、ときめいてる場合じゃないだろ。どうすんだ、俺!)
内心の葛藤のせいで言葉を発することのできない劉備ガンダムの耳が複数の足音を聞き取った。
そして鉄の擦れる、武器を持つ者独特の音も劉備ガンダムは拾い上げた。劉備ガンダムは我に返る。数は4。
(もし、敵なら今の俺に勝ち目はない。それどころか桃花を巻き込んでしまう)
反射的に劉備ガンダムは桃花を押し倒した。
「悪い桃花!」
「えっ、きゃあ!」
桃花に覆いかぶさるようにして劉備ガンダムは地面へと伏せた。その時に桃花に衝撃が行かないように気を付け自分の腕を下敷きにする。
「劉ちゃん?」
「しっ、少しの間静かにしていてくれ」
戸惑いながらも素直に頷く桃花に劉備ガンダムは笑いかけ、彼女を守るように抱きしめた。
息を殺す二人の元へ足音はだんだんと近づき、声も大きくなる。
「姉上ー!全く、どこに行かれたのだ」
「桃花おねえちゃーん!どこなのだー!返事をするのだー!」
「困りましたね。最近は三頭身の鉄の人形が歩きまわっているから一人にならないでくださいと約束したのに」
「全くだ。我らに心配を掛けたのだから後でメンマを奢ってもらうぞ!」
「星、まだメンマの買い置きは十分残っているだろう」
「何を言うか、愛紗!私のメンマはあと3日しか持たないのだぞ」
「星さん…。確か2日前に買ったばかりですよね。そんなことだと紫苑さんに叱られますよ」
「朱里の言う通りなのだ!星はほんとうに食いしん坊なのだ」
「それを貴様にだけは言われたくないぞ、鈴鈴。この間璃々の飴を盗み食いしていたのを見たぞ」
「二人とも、紫苑殿に怒られて来い」
「ひどいのだあー!」
コミカルな会話を続ける一行に劉備ガンダムは顰めていた息を吐きだした。
武器を持っているが幼い子供の声もしたし、纏っている雰囲気が柔らかい。見つかっても悪いようにはされない気がする。
「劉ちゃん、もういいかな?」
くぐもった声を掛けられ劉備ガンダムは抱きしめていた桃花を急いで離した。
「ご、ごめん!もし、山賊とかだったら今の俺じゃ守れないと思って!決してやましい気持ちじゃなくて…」
わたわたと理由を並べる劉備ガンダムに桃花がくすくすと笑い始める。
「劉ちゃんって面白い。女の子なのに男の子みたい」
「どうして俺が女だって…」
「だって、さっき抱きしめてくれてたでしょ。その時に胸が当たっちゃたから。でも。『俺じゃ守れない』とか男の子が言うセリフだよ」
柔らかく笑い続ける桃花に劉備ガンダムも釣られて笑いだした。
「まあ、桃花を守りたい気持ちに嘘はないさ。そういえば、さっきの一行が桃花の名前を呼んでたけど知り合いか?」
「うん。愛紗ちゃんに鈴鈴ちゃんは私の妹で星さんと朱里ちゃんは同じ義勇軍の仲間なの。
他にも紫苑さん、翠ちゃん、えんやちゃん、あと璃々ちゃんもいるよ」
「へえ、俺も昔兄弟や仲間と義勇軍をしていたんだ。あの頃はただがむしゃらに戦ってた気がする」
董卓を倒そうとして、復讐心で袁紹を倒そうと走って、赤壁で曹操と互いの正義をぶつけ合った。
あれから翔を良くするため、民の理想郷をつくるために義勇軍だった頃と違う戦いをしている。
ただ、同じなのは傍に必ず仲間が居ることだ。でも、今は誰もいない。
込み上げてくる寂しさに劉備ガンダムは金色の瞳が滲みそうになった時、桃花の手が劉備ガンダムの手を握りしめた。
「その話、私たち義勇軍に聞かせてくれない?」
言葉に詰まる劉備に桃花は相も変わらない笑顔を浮かべたままだ。
「劉ちゃんの大切な人の話だから、私、聞きたいの」
駄目?と小首を傾げて聞いて来る桃花に劉備ガンダムは心の靄が晴れていくように感じた。
誰もいない訳じゃない。俺のことを知ろうとしてくれる、気遣ってくれる人がいる。
少なくとも、桃花は傍に居てくれている。
急に姿形が変わって、知らない場所に来ていて揺れていた劉備ガンダムの心は落ち着き始めた。
「じゃあ、聞いてくれるか?俺のこと」
「もちろんだよ。だって私たちお友達でしょ」
友達にいささか胸が痛んだが、小さすぎる痛みに劉備ガンダムは気付かなかった。
「そうと決まれば、桃花の仲間と早く合流しよう!」
颯爽と立ち上がり劉備ガンダムは桃花へと手を指し伸ばした。白い手を取り、劉備ガンダムは勢いをつけて桃花を立ち上がらせる。
しかし、桃花が軽過ぎたため(と劉備ガンダムは思っているが、実際は劉備ガンダムの力が強いため)に危うく支えきれずに倒れるところだった。
それでも意地で劉備ガンダムは踏みとどまった。
「劉ちゃんって鈴鈴ちゃんみたいに力が強いんだ♪」
「ま、まあ、毎日剣を振り回してたし、自慢じゃないけど練習だけはサボったことないんだ」
鼻をこすって照れ隠しをする。忙しくなっても練習時間だけは減らしたことはない。
「偉いね。愛紗ちゃんに会ったら試合をしてみたらどうかな?みんな強いからすごく練習になると思うし」
「そうさせてもらおうかな。ところで愛紗?だっけ、どんな人なんだ?」
何気なく言った言葉に桃花は眉を吊り上げた。
「劉ちゃん!真名を教えてもらってないのに言っちゃだめだよ!」
「えっ、真名?」
目を丸くする劉備ガンダムに桃花は恐る恐る尋ねた。
「もしかして、真名のこと知らないの?」
「あぁ。もしかして桃花の名前も真名っていうものなのか」
「うん、そうだよ。そっか、劉ちゃんの地元では真名を呼び合う習慣がなかったのかな。
真名っていうのは本人が心を許した相手に呼んでもらう名前のことだよ。
もし、本人の許しなしに真名を呼んじゃったら切られても文句は言えないくらい無礼なことになるの」
にこやかに笑いながら説明してくれているが、劉備ガンダムは引き攣った笑みしか返せなかった。
もしも、愛紗さん(本名を知らないからここではしょうがなく真名で呼ばしてもらう)の前でそのまま呼んでしまえば切り捨てられていたかもしれないのだ。
冷たい汗が背中を伝い、生唾を呑みこんだ。
「劉ちゃんの真名ってどんなのだろうね」
「いや、俺には真名はない。たぶん、桃花と同じ世界じゃ…」
言葉を続けようとした劉備ガンダムは視界に入ってきた光景に我が目を疑った。桃花も気付いたらしく大きな瞳を見開いた。
黒い塊が桃花と同じ不思議な生き物を囲っている。
不思議な生き物たちは一人を覗いて手に武器をもっているが、劉備ガンダムの目を引いたのはその黒い塊だ。
見慣れた3頭身、歪曲の刀を持った固い鎧で身を固めた鋼鉄の1つ目の集団。色は違えども間違いない。
「あれは烏丸!なんでだ、あいつらは俺が、俺たちが倒したはずだ!」
「愛紗ちゃん、鈴鈴ちゃん、星さん、朱里ちゃん!」
突然の事態に出遅れた劉備ガンダムよりも先に桃花が駆け出す。劉備ガンダムも一足遅れて桃花の後を追う。