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永遠に失われしもの第5章

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 馬車の中、シエルは窓に寄りかかり
 外を見るとも無く目を馳せている。

 街道沿いにどこまでも続くオリーブ畑が
 恐ろしい勢いで過ぎ去っていく。

 揺れ一つ無く、まるで滑るかのように
 進み続けたかと思うと、
 突然何の前触れも無く、馬車が止まった。

 御者席から音も無くひらりと飛び降りた
 セバスチャンは、馬車の扉をあけ
 シエルにふわりと手を差し出す。

 「そろそろ
  ローマのアウレリアヌス城壁です。

  人目につきますので、ここからは
  町馬車を拾うことにしましょう」

 差し出された手に体を預けて、
 シエルは馬車を降りた。

 揺れる町馬車の中で、セバスチャンは
 暇をもてあましている体のシエルに
 話しかけた。

 「私が酔狂な悪魔なら
  わが主は悪魔界の変り種、
  異端児でいらっしゃる
  こと、この上ありませんね」

 「聞こえていたのか。
  地獄耳とはよく言ったもんだ。
 
  で、何が言いたい?」
 
 苦虫を噛み潰したような顔で
 シエルはセバスチャンに尋ねた。

 「いえ、
  カトリックの総本山である
  ローマ教皇庁に、
  悪魔が2人のこのこ出向くのも、
  いささか妙な光景だと思いまして」

 「ふん。
  人間の悪魔祓い師ごときを恐れる
  お前ではあるまいに」

 「ええ、
  人間などを恐れたりはしませんが--

  人間であったときは、
  私のような悪魔と契約し
  さらに悪魔にまでなられてしまった
  ぼっちゃんみたいな方ほど、
  バチカン巡礼が似合わない方も
  そうはいらっしゃらないのでは?」

 「ただ情報を得るために行くだけだ」

 --変なものに
  出くわさなければいいのですが--
作品名:永遠に失われしもの第5章 作家名:くろ