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世界が色付く日

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 ちなみに、その天の啓示的ソレが降りてきたのは一人でソファに正座してテレビを見ている時だった。先にも言ったように別にそれっぽい恋愛番組とかやってた訳じゃない。見ていた番組はかぶき町ラーメン大特集で超特大ラーメンを十分以内で完食すれば十万円というもので、銀ちゃんに言ったら喜んで連れて行ってくれそうだと真剣に見ていた。
そうしたら唐突に、本当に唐突に、あ、私は銀ちゃんが好きなのかもと思ったのだ。仮定はあっという間に確信に変わった。自覚したその後は、一度ゆっくりと首を右に傾けてから元に戻すと、のろのろとソファから立ち上がりテレビを消した。のろのろと小さい鞄を斜めにかけてタオルを頭に巻きサングラスを装着。やっぱりのろのろと靴をはいてのろのろと万事屋を出た。


 それが太陽の南中するより少し手前のお話。今はもう太陽が空のてっぺんを通り越して西よりに傾いている。
「はぁ、もう万事屋には帰れないネ……」
 かぶき町に繰り出し、まずは駄菓子屋をひやかしがてら酢昆布の補充。その後は特にする事も目的もなく、パトロールよろしく町をぶらついて今はお気に入りの神社の石段に腰掛けている。
 これではいつもと変わりない。でも、散歩に飽きたからといって万事屋には帰れない。銀ちゃんと話なんてできない、顔も見れない、声だって聞けない、同じ空気すら共有できない。どんな顔をして会えばいいのだ。戻れないという事実が、いつもの事柄を日常から弾き出す。
 せめて定春も連れて来ればよかったと悔やんだ。そうすれば淋しくなかったのに。
 傘の下に見える空を流れる雲をぼんやりと眺めると、パッと見ただけではわからないが、じっと見ているとゆっくりゆっくり動いている事がわかる。流れながらも緩やかに形と色を変えていく。
「あっ、こんな所にいた」
 ビクッと身体が震える。振り返らなくても声でわかる。ちっ、なんでこんな所に。
「もー、探したんだよ神楽ちゃん」
「ひ、人違いネ。私、神楽いう名前じゃないヨ。カグリーナ三世言うネ」
 バレないように、その為に変装しているのだ。大丈夫。
「何言ってるの、神楽ちゃん。昼ご飯になっても帰って来ないから心配したんだよ。銀さんも待ってるから、帰ろ」
 違うと言ってるのに人の話を聞かない男だ。だからモテないんだ、このダメガネ野郎め。空気ってもんを読みやがれ。
 今私の眉間には非難の証として皺が寄っていると思うが、大きいグラサンのせいで新八にはわからなかったらしい。それでも身体から滲み出る不快感は拭いきれていない筈だが、気付いていないのか気にしていないのか。全くメガネはこれだからメガネなんだ。
 ほら、帰ろうよと言って手を差し伸べてくるので、傘を持った手に少し力を込めて僅かに前屈みになり、拒絶を意を表して返事とする。
「神楽ちゃん?」
 ようやく私の様子が少しおかしい事に気付いたらしい。この決意の格好をいつものごっこ遊びか何かだと思っていたのだろうか。年だってそんなに変わらない、出会った頃の自分と同じくらいの私の事をいつまでガキ扱いするつもりなんだ。
 まぁ、勝手に想像してムカついてるのも気の毒かと思い、何とか怒りをおさめる。今だって自分を制御する事ができて、ほら、こんなにもオトナ。
「お腹すいて倒れちゃうよ、帰ろう?」
 左手で傘を押し上げ、反対の手で私の手首を掴まれた。繋がった皮膚から流れ込む新八の体温は、不思議と心に染み込んで私を驚かせて、早くもホームシックになりかけていた事を気付かされた。
 私が一瞬の懐かしさに支配されている間に、そうするのが自然だと言わんばかりにグイっと引っぱられて思わず立ち上がってしまって、そのままゆっくりと黙って階段を下りた。段差がなくなり、平坦になった道を少し歩いた所でピタリと足が止めると、つられて私の手を引いていた新八も止まる。
「神楽ちゃん?」
 私は視線を自分の足元にできた黒い影に落としているので新八の表情はわからないが、声からして不思議そうな顔をしているんだと思う。新八はまっすぐだから。
「帰りたくないの?」
 まっすぐに投げられた質問にはまっすぐ答えなければいけない気がして、小さく頷いた。
「銀さんと喧嘩でもした……?」
 二回顔を横に振って否定する。銀ちゃんと喧嘩なんてしてないし、むしろ悪いのは私の方だ。
 新八は気付いてたんだろうか? もし、そうなら新八にだって悪い。私達は三人で一つ。三人で万事屋なのに。でも、怖くてといより恥ずかしくてそんな事聞けない。
「全く、あのバカ……デリカシーがないから……」
 ブツブツとこぼす新八の声が聞こえる。どうやら新八は銀ちゃんが私に何か酷く配慮のない行為を働いたんだと勝手に納得したみたいだった。
「万事屋に帰りたくないんだったら今日は僕ん家においでよ。姉上も休みだからさ」
 とりあえず帰ろうよと言うので、私はまた小さく頷いた。
 掴まれた手首を開放されて、心地よかった体温が少しだけ名残惜しかったけど、黙って前を歩く新八に続く。
「……ありがと」
 聞こえるか聞こえないかといった大きさだったので、新八に聞こえたかどうかはわからない。新八は何も言わなかった。聞こえなかったら何も言いようがないが、きっと聞こえていても何も言わなかったと思う。だから、どっちでもいいのだ。
「だいたいそのサングラスなに? 今日は何ごっこのつもりなの?」
 明るい声でほんわかと話しかけてくる新八はやっぱり新八だ。どこまでいっても。さっき考えた事と大差ないではないか。せっかくオトナになって許してあげたのに。気を利かせてくれたのかなと思えなくもないけど、あんまりだ。
 でも柔らかな無神経発言にちょっとだけ心が軽くなったので、鉄拳制裁はナシにしてあげよう。ああ、なんてオトナになってしまったんだろう私ってば。





2006.10.11
作品名:世界が色付く日 作家名:高梨チナ