遠く遠く
霧雨の降る午後。シャアは一人、エアカーを走らせている。
細い小道をゆっくりと林に向かって道なりに奥へと進んで行く。ゆるいカーブを抜けた先は視界が開けて一軒家が見えてくる。その脇に建つガレージに車を入れて、助手席に置いてあった買い物袋を手に持ち、傘も差さずに玄関へと向かう。
春物の薄いコートを羽織っていたので服に雨が染み込む事も無く、玄関先で雨粒を手で軽く払い落してから扉を開けた。
「ただいま」
薄暗い家の中はシンと静まり返っていた。
「・・・まだ寝ているのか?」
誰に問う訳でも無く、ぼそりと呟いた。
ダイニングテーブルに荷物を置き、袋の中から小さめの紙袋を取り出す。それを持って階段を上り、二階にある寝室に向かった。ドアを開け中に入ると、予想通りベッドに膨らみがある。
「昼はとうに過ぎたぞ。そろそろ起きないか?」
シャアはベッドの住人に声を掛けながら窓辺に向かって歩いて行く。雨で日差しが弱いため、カーテンが閉められたままの部屋はかなり暗かった。そのため、カーテンを開けて外の明かりを取り込むと、アムロはベッドに仰向けに寝たままこちらに顔をだけを向けていた。
「起きてるよ。ただ、体中が痛くて動きたくないんだ」
拗ねた様な台詞がようやく返って来た。
「君はもぅ少し自分の体力を考えて、計画的に行動した方がよいな」
「でも、早くしないと間に合わないと思って」
「私達には時間はいくらでもある。体調を崩してしまったら元も子もない」
「分かってるよ。だけど、二・三日は雨が続くって予報だったしな。どうしても昨日までに掘り起こしておきたかったんだよ」
「苗はポッドに入ったままでも成長するし、心配なら添え木でもしておけばよい。何も慌てて畑に植え直さなければならない事はない」
シャアが窓の外を覗くと、庭の一角に茶色の土が見えている場所がある。
大小さまざまな石がその周りを囲む様に置かれいるのは、アムロが昨日、一日かけて掘り起こした際に出て来たものだろう。
「このぐらい平気だと思ってたんだから、しょうがないじゃないか」
「『まさか筋肉痛で寝込むとは』かね?君は以前も、花壇を作った時にも同じ事をしているぞ」
「あの時は・・・初めてだったから加減が分からなくてさ。でも、今回は身体が楽に動けたから楽勝だと思ってたんだ」
「それにしても、まさかたった一日であの広さを片付けるとは思わなかったよ」
「だって、たくさん苗を貰ったんだ。トマトにナス、ピーマン、カボチャにコーン。あとはキュウリと何だっけ? とにかく!頑張って生きている夏野菜達を枯らすのは勿体無いだろ・・っう!?」
アムロはベッドの上で身動ぎながらも力説した。その時に腰に痛みが走ったらしく、今度はうつ伏せになって顔を枕に沈めて唸っている。
シャアは少しだけ肩を竦めてからアムロの傍に寄った。
「無茶も程々にしたまえよ。湿布を買って来たから貼ってやろう。腰と背中だけでいいか?」
「・・・スマン・・っと、ありがとう。ついでに二の腕も頼む」
「了解」
アムロは顔を横にずらし、苦笑いを浮かべて追加注文した。
紙袋から湿布を取り出したシャアは、アムロの上着を慎重に脱がして、痛む箇所すべてに湿布を貼ってやった。
「腹が減っただろう?サンドイッチでも作ってくるから、待ってなさい」
「ああ、悪いな。助かるよ」
アムロはシャアの手を借りて服を着直すと、ベッドヘッドに枕を立てかけて、そこへ身体を預けて座った。
「待っている間、これでも読んでいたまえ」
「何?」
シャアは懐から真っ白い封筒を取り出してアムロに手渡す。
「アルティシアに渡された。君宛だ。いいかい “大人しく” 読んでいなさい」
まるで悪さをした子供に言い付ける様、念を押したシャアは寝室から出て行った。
残されたアムロは、宛名も差出人も書かれていないその封筒を不思議に思いながら、封を切り中の紙を取り出した。
細い小道をゆっくりと林に向かって道なりに奥へと進んで行く。ゆるいカーブを抜けた先は視界が開けて一軒家が見えてくる。その脇に建つガレージに車を入れて、助手席に置いてあった買い物袋を手に持ち、傘も差さずに玄関へと向かう。
春物の薄いコートを羽織っていたので服に雨が染み込む事も無く、玄関先で雨粒を手で軽く払い落してから扉を開けた。
「ただいま」
薄暗い家の中はシンと静まり返っていた。
「・・・まだ寝ているのか?」
誰に問う訳でも無く、ぼそりと呟いた。
ダイニングテーブルに荷物を置き、袋の中から小さめの紙袋を取り出す。それを持って階段を上り、二階にある寝室に向かった。ドアを開け中に入ると、予想通りベッドに膨らみがある。
「昼はとうに過ぎたぞ。そろそろ起きないか?」
シャアはベッドの住人に声を掛けながら窓辺に向かって歩いて行く。雨で日差しが弱いため、カーテンが閉められたままの部屋はかなり暗かった。そのため、カーテンを開けて外の明かりを取り込むと、アムロはベッドに仰向けに寝たままこちらに顔をだけを向けていた。
「起きてるよ。ただ、体中が痛くて動きたくないんだ」
拗ねた様な台詞がようやく返って来た。
「君はもぅ少し自分の体力を考えて、計画的に行動した方がよいな」
「でも、早くしないと間に合わないと思って」
「私達には時間はいくらでもある。体調を崩してしまったら元も子もない」
「分かってるよ。だけど、二・三日は雨が続くって予報だったしな。どうしても昨日までに掘り起こしておきたかったんだよ」
「苗はポッドに入ったままでも成長するし、心配なら添え木でもしておけばよい。何も慌てて畑に植え直さなければならない事はない」
シャアが窓の外を覗くと、庭の一角に茶色の土が見えている場所がある。
大小さまざまな石がその周りを囲む様に置かれいるのは、アムロが昨日、一日かけて掘り起こした際に出て来たものだろう。
「このぐらい平気だと思ってたんだから、しょうがないじゃないか」
「『まさか筋肉痛で寝込むとは』かね?君は以前も、花壇を作った時にも同じ事をしているぞ」
「あの時は・・・初めてだったから加減が分からなくてさ。でも、今回は身体が楽に動けたから楽勝だと思ってたんだ」
「それにしても、まさかたった一日であの広さを片付けるとは思わなかったよ」
「だって、たくさん苗を貰ったんだ。トマトにナス、ピーマン、カボチャにコーン。あとはキュウリと何だっけ? とにかく!頑張って生きている夏野菜達を枯らすのは勿体無いだろ・・っう!?」
アムロはベッドの上で身動ぎながらも力説した。その時に腰に痛みが走ったらしく、今度はうつ伏せになって顔を枕に沈めて唸っている。
シャアは少しだけ肩を竦めてからアムロの傍に寄った。
「無茶も程々にしたまえよ。湿布を買って来たから貼ってやろう。腰と背中だけでいいか?」
「・・・スマン・・っと、ありがとう。ついでに二の腕も頼む」
「了解」
アムロは顔を横にずらし、苦笑いを浮かべて追加注文した。
紙袋から湿布を取り出したシャアは、アムロの上着を慎重に脱がして、痛む箇所すべてに湿布を貼ってやった。
「腹が減っただろう?サンドイッチでも作ってくるから、待ってなさい」
「ああ、悪いな。助かるよ」
アムロはシャアの手を借りて服を着直すと、ベッドヘッドに枕を立てかけて、そこへ身体を預けて座った。
「待っている間、これでも読んでいたまえ」
「何?」
シャアは懐から真っ白い封筒を取り出してアムロに手渡す。
「アルティシアに渡された。君宛だ。いいかい “大人しく” 読んでいなさい」
まるで悪さをした子供に言い付ける様、念を押したシャアは寝室から出て行った。
残されたアムロは、宛名も差出人も書かれていないその封筒を不思議に思いながら、封を切り中の紙を取り出した。