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【スパコミ新刊】さよなら憧憬・またきて慕情【日英】

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 喧しく高い声が行き交っても、即ちアーサーにとっての煩わしさにはならない。こtrがいつもの日常であり、アーサーにも彼らにも当たり前の愛すべき騒がしさであるのだ。
 枝を傷めぬよう最後の剪定を終えると、ようやく彼ら彼女らに視線を回し、窘めるように優しく声をかけた。
 「まだあいつのことも何にもわかんねえんだ。いらないお節介はだめだぞ」
 アーサーがそうは言い聞かせても、お節介といたずらをライフワークにしている彼女たちが素直に従うとは思えない。生返事とくすくすと軽い愛らしい笑いが返されるだけだ。
 彼女たちは噂話を巻き散らかすかのよう庭中に『アーサーのお友達にちょっかいを出したらだめよ!』と高らかな声を庭中に響かせていった。

 作業もひと段落したアーサーは、そんな様子を苦笑しながら眺め、泥に汚れた手袋に手をかける。
 ツゲのトピアリーの形もくずれかけていく前に、何とか人手を用意しなければならない、そう庭仕事に思いを巡らせているところで、先ほどよりも随分控えめで微かな声がアーサーの耳に届く。
 「ねえ、アーサー」
 そんな中一人残ったサンシキスミレの妖精が、やけに神妙な顔つきでアーサーの頬をつついた。
 先程のパンジーたちよりも少し色彩の地味な彼女は、交配される前の原種にちかい花である。庭の隅に育てていたその花は、あの作家が物語を書いた頃咲いていた花である。

 「アーサーが本当に望んだとき、あの子がアーサーのこと大好きになるようしてあげるからね」
 彼女は白と薄紫のふわふわのスカートと、透き通る羽に葉の朝露さえ映していた。可憐な少女の姿をした妖精は、本当にアーサーと本田の関わりを憂慮しているのだ。伏せられる小さな瞳にアーサーは言葉を詰まらせる。

 バカ言うな、相手は本田で同盟相手だぞ?
 即座に沸いたのは皮肉と打算めいた考えで、少し言葉に迷った後、考えごとそれを撤回する事にした。
 去来する考えはあれど、それが忠告と申し出をしてくれた彼女を不安がらせる要素にはならない。アーサーはいつもより和やかな声を作るように、そう、本田と同じように障壁としての和やかさを作って彼女に提示した。

 「そうなったらお願いするよ」
 サンシキスミレの妖精は素直にアーサーの言葉を聞き入れるとほのかに笑い、小さく頷くと羽を瞬かせおしゃべりなパンジーの群に混じっていく。

 それを目の端で追いながら、酒と眠気をまだ帯びた頭の中で算段を始める。互いにこの関係に浮き足立っているのは事実だ。目に見えて浮かれる本田と不用意に疑ってみせる自分。そんなコントラストがいまこの朝に現れてしまったのだろう。
 自戒することはあれど、サンシキスミレの妖精が言うように去る彼を追い縋ろうという想いに自らの胸が満たされる日が来るとは思えない。
 「ばかばかしい」
 皮肉は一人の庭に響き、冬のバラもイチイも言葉を何一つ返さない。冬は花々も言葉の少ない、そういう季節なのだ。多弁な本田をうっすらと恨めしく思い、アーサーは一人で眉を寄せた。
 手袋を脱ぎきって手汗をシャツに擦りつけると、少し先に館に戻った同盟相手、名目上の友人を追うことにした。





 歯を見せて笑うことなんか、穏やかな友人にはないことだと思っていた。だが今はあの落ち着き振舞う姿を形骸だけにして、ベッドの上で揚々と笑い声を上げて、背をそらす。その笑い声の高さに、アーサーは不気味さを覚えながら捕まれた顎をすこし下に向けた。

 「アーサーさんお似合いですよ」
 そう言って本田は半ば無理矢理アーサーに手鏡を握らせた。
 塗られたアイシャドウはきれいににグラデーションを付けられ、ハイライトまで入れられ半円の月のようにし、おまけに睫まで黒くカールされている。リキッドのファンデーションで肌も整えられ、まるで女のそれのような面をしている自分の顔は、とても彼の言質通りに似合っていると思えない。

 この顔をしかめる事態すべてが、対面で同じように顔に色をつけて笑い転げる男の所行である。

 酔った勢いには自らにも自信があるが、今のこの男のテンションに追いつくにはまだボトル数本を追加しなければならないだろう。元からの体調もあったのだろうが、レセプションパーティでの本田の酔いの周りがたがが外れたかのごとく早く、アーサーが無理やり部屋に引き込んだ今はこうして文字通りの酔狂に浸っている。誘われた酒をきれいに飲み干し、しばらくの間は様子もおとなしくしていたのに、突如としてこのえげつない暴走を引き起こしてしまったのである。アーサーとて、多少の抵抗は試みたものの力づくで彼を抑え込む訳もいかず、彼の自由にさせておいている、そんなずるずると男の間合いに引きずり込まれた様相なのだ。
 彼がアーサーに施す化粧は、見よう見まねで手も拙い。彼が自分自身に施した化粧もアーサーの見る限り決して寝れたものではない。
 当たり前だ。この手の所作に慣れていたら、それこそこの友人の性癖を疑わなければならない。
 聞けば、最近の来訪の際にフランシスが置いていったジョークグッズの中にこの化粧道具一式が含まれていたらしく、アーサーは腐れ縁のあの男に拳の一つを食らわせることを心に決めた。
 悪戯への報復はそれでよしとして、問題は酔って奇行に走るこの男への処遇である。

 「おやおやこれは、おきれいなお嬢さんだ」
 けたけたとまたシーツの上で陽気な笑い声をあげると、衝撃で頬紅がケースから舞い上がって周りを少し汚した。もともとは今回の会議のホスト国である彼が用意した部屋であり、汚してしまっても彼の責任であるからアーサーが気に病む必要はないのだが、奇麗好きの性根が騒いでそれを横目で追ってしまう。
 「俺はノーマルだ」
 彼の奔放な仕草にそう言い放ち、二重の意味で、と付け加えると、本田のリキッドのアイラインを引く手が止まる。
 「ああ動かないでください。」
 確かにそれは神経をすり減らす細かな作業であったが、アーサーは彼の好きにする瞼だけは動かさずにじっとして置いたのである。
 では、言葉の真意は『くだらないことを言うな』といったところだろう。人間ならともかく、それに近しいが別の存在である自分たちにとっては、性別の差など大した問題ではなく、子供に等しい存在も生殖行動など通さず生れ落ちる。性愛の場に多少の形体の差は関係がないのだ。
  キャップをしたアイライナーをベッドサイドに投げ捨てた友人は、そのままアーサーのシャツ一枚の脇腹を指で薄くなぞる。綿の生地向こうから、本田の指の感触が伝わってくる。これからの接触への期待と、うらぶれた興奮にアーサーは唾液を飲み込む。まるでそこが敏感な部分に変わってしまったかのようにアーサーの血管と神経を騒がせ、熱をともしていく。
 「ほ、んだ」
 一方的に高められることに若干の不平を覚え、唇を軽く尖らせると、本田が飾られたアーサーの顔をのぞき込んできた。
 「せっかく口紅も塗ったし、キスしましょうか」
 妙案を得たように本田は言い出すが、せっかく、の意味がアーサーにはわからない。しかしアーサーはため息をはいて、彼のせっかくという申し出を受け入れることにした。