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「いつか」の終わりを知っている

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『苦しみを共にするのではなく、
喜びを共にすることが友人をつくる。』

ニーチェ


「もう、君ね、帰っていいよ。」

僕が、君にそう言った時に、君は、一瞬、変な顔をした。

その顔は、快楽に歪んだ時の愉悦の表情より、僕の中に酷い薄暗さを灯して酷く心を騒がせた。


紅玉のように赤く染まる瞳は、驚きと不審で酷く汚れて見えた。

まるで、雪の中に咲き誇る綺麗な赤い薔薇のようだ。
昔から、北での、僕の国は冬でなくても凍える寒さで、いろんなものを凍らせてきた。
人には、飢えを、心には畏怖を、寒く凍てつく風の吹雪の中で、寒くて、いろんな国に、その寒さを埋めるように手を伸ばしたけれど…それは、支配と言う名の形でしか、相手との関係は築けず、いつでも、僕の回りでは、僕の顔色を伺っている連中ばかりが集まる。別に、友人が欲しいという訳ではないけれど、全部がそんな相手だと、飽きてくる。怠惰に過ごしていく日常で同じ刺激は、やがて孤独でしかないように。それは、更に僕の心を冷えさせていくだけだった。人が増えても、その孤独は変わらない。

そんな中で、そんな僕の顔を伺わず、でも、力で、それを贖いない。そんな関係で君と出会った。

元から、何かと争う近さにいた国だった。

何度となく、ぶつかり、やがて陥落した君は、酷くボロボロだったね。まるで、ゴミみたいで、思わず踏んだら、その踏んだ足先からもう、空砲しかでない銃口を、まっすぐと僕の額を目掛けて打ち放してきた。鈍く流れた衝撃は酷く可笑しくて、その場で、意識が無くなるまで、蹴りあげたのは、らしくなく興奮したからだった。

『北でも雄の孤高の黒鷲は、プライドだけは人一倍だね。』

そんな言葉で、蹴る僕の靴に唾を吐くのすら、酷くゾクゾクと背筋に走ったのは、歓喜の声に呼応しての事だった。

そして、君は、僕の支配下に落ちても、やっぱり、その赤い瞳で、反抗的な態度しかとらない。

始めは、それすら楽しかった。

そんな態度を、この僕にとる奴がいるなんて知らない。

僕の国とは果てに位置する大国のアルフレッドだって、そんな態度は、僕にはとらない。お互い、笑顔で、腹を探る様な事しか言わないのに。でも、属国の君は、そんなの頓着もせずに、嫌な事は厭だと噛みついてくる。そして、彼の兄弟の話をして、しぶしぶ、黙り込む。そんな態度に、苛々して、いろんなことを強要しても、その瞳が涙や怒りで曇ることはあっても、けして、屈することなく、まっすぐと僕の瞳を見返すことは辞めなかった。

『プライドだけで、生きていける程、世の中は甘くないよ。』

そう言って、辱めた時も、声を切らして啼くのに、辞めろと泣かずに、『許さない』と怒る。

何度も交わる中で、『僕のモノになってよ』って言っても、噛みついて、拒否する。

その瞳を見ると酷く楽しくてね。
何となく、手を伸ばすのを辞められなかった。

でも、何にも必ず終わりが訪れる。


「どういうことだよ。」
まず、君が発したのはそんな一言。

「言葉通りだよ。君の弟は、約束を忘れてなかったみたい。だから、君を取り戻すのを条件に出した僕との約束をちゃんと守ってね。自国を整理したみたいなんだ。既に統一宣言は発せられたようでね、君を返してほしいって昨日、申し出があった。」

そう広い窓から見えるシンシンと振りゆく雪を見て、彼の顔を見ずに言うと、そんな僕の声に、息を呑むのが空気で判る。

「ヴェスト…」
「よかったね、もう、表に迎えに来てるんだ。昨日の夜中に連絡したのに。君と一緒で弟もせっかちだよ。」
そう淡々とした口調で言う僕に、君が、何も言わず、立っているのにすら、酷く、変な焦燥しかわかない。

結局、僕のモノにはならなかった。
今まで、どんなものでも、そんな僕のモノになったものはない。

力でねじ伏せて、服従させても、それは、その力が無くなれば解消されるものだ。

「…なんか言ってよ。ギルベルト」
思わず、だから、苦い沈黙に耐えられずに、そんな言葉を発するのは、なんでだろう。
「君は、僕に言いたいことが山ほどあるだろう。しばらく逢う事もないんだ。餞別に、恨み事くらい聞いてあげるよ。」

そして、そんな僕のソファーで膝を抱えてそっぽ向いた後ろで、君が静かに近づく足音に、殴られるのか、笑われるのかと覚悟をしていた。

初めから、君には嫌われていたから、
僕は、きっと、どんな罵りを受けても仕方ない。

君が、殴ってきても、いくらでも、悪態をついて言い返すつもりでいた。だって、僕にできる事は、今は、そんな事しかない。

『飽きたんだ』
『生意気な態度の君がいなくなってせいせいするよ。』
『初めから、君の事が、嫌いだったから、いなくなってもどうってことないよ』
『やっと、面倒から解消されて、ほっとするね。』

どんな酷い言葉でも言えると思っていた。

でも、君は、そんな背を向けて座る僕に身体を、ただ、ゆっくりと抱きしめてから、髪に静かに口接けしてから。

「イヴァン、世話になった。あんまり、ウォッカ飲み過ぎんなよ。…ありがとう。またな。」

そんな言葉を残して、君は、そのまま静かに、ドアを開けて、出て行った。

聞いた言葉はスローモーションのように、僕の耳を犯してから、その場に、ただ頬を流れる涙だけを僕に残す。

好きだった。
たぶん、初めに、睨む視線を僕にまっすぐと向ける君が。

何しろ、僕には、そんな意識で接してくれる相手が一人として周りにいなくて…酷く憧れた。

どうして、屈しても、心がそんなに自分に真っ直ぐなんだろう。

『軍人だからな、そういう花とか、綺麗だとは思うが、そんな飾った言葉はよくわからん。』そういって、前に、トーリスが、花を愛でて言う言葉に、笑って言う声すら、何処か快活で、心に酷く不器用だけれど、暖かい気持ちになった。


そんな性格も、声も、姿も好きだった。

だけれど、既に、君には、虚勢しか出さない僕は、そんな君に好きだよって、普通に告白する事すら困難で、うまくできやしない。うまく、君に、自分の心をさらけ出すことが出来なかった。


『イヴァンは、不器用だなぁ。愛してほしければ、
「愛してるーー」ってはっきり言ってやったらいいのさ。』
そんな事を言うアルフレッドの言葉を聞いても、それを相手に言う事が出来もしない。

そんなこと言って、嫌いって言われたらどうするのさ。

僕は、そんな怯えと逃げばかりが頭に合って、
うまく、できない。君に、そんなことを言えもしない。

本当は、力で誤魔化さないと、
自分のアイデンティすら認めて考えられない。

本当は臆病で弱虫な子供なんだ。


『苦しみを共にするのではなく、
喜びを共にすることが友人をつくる。』


僕は、君と、友人になりたいと思ってたわけじゃないけど、できたら、親しく話すような、そんな存在になりたかった。


初めて、見た、あの春の花の吹きさぶる風の中で、君と出会った時から、僕は、君からずっと目を逸らせずに、佇んでいた。

もし、あの時に出会って、ただ、笑って、手を差し出したならば、僕は、君と、今、こんな別れをせずに、今も、その横で笑えていたのだろうか。