だぶるおー 天上国3
主寝室から、ロックオンを移したら、少し気分が楽になったのか体調も戻った。やれやれ、と、ジョシュアは午後のお茶を飲んでいる。
「見晴らしいいんだな? びっくりした。」
「ああ、ここから先は、人家もない国境地帯だからな。背後に村があるんだ。」
ここから先は、AEUとの境だから、相手の陣地までは無人地帯だ。今は小競り合いもないので、長閑な風景が広がっている。
「また講義は受けるか? 教授が尋ねておいてくれって言ってたぞ? 」
「うん、受けたいな。」
女物の寝巻き姿も、すっかりと慣れた。目に毒ではなくなっている。ロックオンのほうも諦めたのか、それは大人しく着ている。部屋には、たくさんの花が飾られているし、どこから調達したのか、鳥かごに小鳥までいて、綺麗な声で鳴いている。まさに城主の奥方の部屋といった感じだ。だが、ロックオンの纏う空気は沈んでいる。
「あんた、故郷に女房がいるのか? 」
「女房はいないが、弟や養い子やらはいるよ。俺の養い子は心配性なんで、こういうことがバレると後が怖い。」
「あははは・・・確かに間抜けっちゃー間抜けだろうな。」
「俺、結構、しっかりしてるつもりなんだけど、あいつら、俺がすること、一々小五月蝿く小言言うんだぜ? 心配されるのはわかるけどさ。そりゃもう、ねちねちとさ。」
水を向けると、ロックオンは、そう言って笑っている。たぶん、その子供の顔なんてものを思い出しているのだろう。少し表情が明るくなる。
「ケガが治ったら王都には行くのか? 」
「ああ、目的だけは達成してこないとさ。・・・・いや、そういや、俺の荷物って、どうなってんだ? 路銀とか剣とかさ。」
「どっかにあるとは思うけど、グラハムが隠してるんじゃないか? 」
ロックオンの私物というのを、ジョシュアも見たことがない。まあ、おそらく、あのKYな隊長が隠しているのだろう。逃亡されないために。
「てか、服もだよな? うーん、どうしたもんかなあ。」
「どうしたもこーしたもねぇーだろ? それ、くっつかないことには、どうにもならないぞ。」
二の腕をぽっきりと折っているので、これが完治するには、数ヶ月は入り用だ。アバラだけなら、固定すれば動けるが、右腕はそうもいかない。
「俺、治りは早いほうだから、もうちょっとだと思う。」
「はあ? 医者は三ヶ月って言ってたぞ? 」
「そこまではかからない。」
一月近く経っているが、後二ヶ月はかかるはずだ。それを、いとも簡単そうにロックオンは言うので、ジョシュアは呆れる。
「まあ、いいけどよ。じゃあ、エイフマン教授には、明日からって言っとく。」
「ジョシュア、悪いんだが、新しい本を貸してくれ。」
「おう、それも持ってくる。とりあえず、ちょっくら仕事してくる。」
ジョシュアも、何もしていないわけではない。連兵場での訓練の指導なんて仕事も有るから、それには顔を出している。部屋を出てから、うーんと考え込む。どう考えても、あれは、そうはならないだろう。
パタンと閉じられた扉を見て、ロックオンも大きく息を吐いた。これは、かなりまずい。王都までの往復と役目を考えたら、一月仕事ぐらいのことだ。そろそろ、行方を調べられているかもしれない。
・・・・泣かないでいてくれよ? 俺は大丈夫だからさ。・・・・・・
どうも泣かれるのは苦手だ。もう養い子という年ではないし、立場も変ったが、それでも、ロックオンにとっては、可愛い養い子という感覚だ。怪我をして苦しんでいたら、ものすごい勢いで泣かれたことがある。ダメだ、ダメだ、と、縋りつかれて困った。すぐに治るから、と、言ったのに、とんでもないことをしてくれた。だから、今、その養い子は国を護る立場になった。それは誇りにも思うことだが、それだけに、ロックオンのことなんて気にしないで欲しいのだが、どうも妙な執着があるらしい。
・・・・刹那、刹那、俺は大丈夫だ。おまえ、お姫様とうまくやってるか? その手を取ればいいんだ。それで、おまえは完璧なんだよ。・・・・・
内心で養い子の名前を呼んで、呟く。声に出してはいけない。それはやったら、さらに、とんでもないことになる。だから呼ばない。それが許されるのは、今、傍にいるはずのお姫様だからだ。
その心配されている刹那は、居城の一室で、その手を取れと言われているお姫様と対峙していた。
「用件があったので、出向きましたが・・・・またですか? 刹那。」
「ああ、俺も打ち合わせしたかったから都合はよかったんだが・・・あいつが気を回したらしい。すまない。」
どちらも孤児院のことで話し合いたいとは思っていたので、この会見は、互いに必要だったが、そこに付随されていた、ただいま行方不明の人間からの手紙だけは頂けないものだった。
「お疑いになるのは、あなたの愛情が足りないのだと思います。いい加減に、押し倒してモノになさい。」
「おまえまで、それを言うのか? マリナ。」
ここのところ、刹那は、この城の誰からも、そう焚き付けられている。ひどいのは、いい薬があるなんて、小さなガラス瓶まで渡してくる始末だ。わかっちゃいるが、さすがに、それはやりたくないのだ。気持ちの整理がつくまで待とうと思ったのも刹那自身だし、相手も、そのうち受け入れてくれるだろうと思っていた。だが、この手紙だ。マリナから見せられた手紙には、「さっさと押し倒されて、刹那とくっついてください。」 という内容のことが書かれていた。そして、書いたのは、その刹那が押し倒せと言われている相手だ。
「申し上げます。私は、あなたの友人だと何度も申し上げているのに理解なさらないのは、そういうことではありませんか? あなたの言葉より態度が重要です。今は、体格的に負けているわけでもないのだから、さっさと実地体験をさせるべきだと思います。」
「・・・・おい・・・」
「方法がわからないとはおっしゃいませんね? 刹那。」
「それは、アリーから聞いた。」
「ワセリンは? 」
「用意してある。」
「では、さっさと実行しなさい。最初は、女性の破瓜と一緒で痛いものらしいですが、慣れれば良いものだと聞いています。流されてくれれば、慣らすぐらい回数もできるはずですよ。」
目の前の清楚な妖精のお姫様の口から零れている言葉は、かなりダイレクトだ。直球で刹那にぶつけられている。刹那は、ストレートな言い方でないと理解しないから、そういうことになる。
「相手が逃げた。現在、行方不明だ。」
「追っ手は? 」
「アレルヤが出せるだけの追っ手は放した。」
「なんなら、うちの手勢も用意させましょうか? 」
「いや、そこまでしなくてもいい。・・・・それより、孤児院のほうの話をさせてくれ。その話は、もう飽きるほどに聞いているんだ。」
「見晴らしいいんだな? びっくりした。」
「ああ、ここから先は、人家もない国境地帯だからな。背後に村があるんだ。」
ここから先は、AEUとの境だから、相手の陣地までは無人地帯だ。今は小競り合いもないので、長閑な風景が広がっている。
「また講義は受けるか? 教授が尋ねておいてくれって言ってたぞ? 」
「うん、受けたいな。」
女物の寝巻き姿も、すっかりと慣れた。目に毒ではなくなっている。ロックオンのほうも諦めたのか、それは大人しく着ている。部屋には、たくさんの花が飾られているし、どこから調達したのか、鳥かごに小鳥までいて、綺麗な声で鳴いている。まさに城主の奥方の部屋といった感じだ。だが、ロックオンの纏う空気は沈んでいる。
「あんた、故郷に女房がいるのか? 」
「女房はいないが、弟や養い子やらはいるよ。俺の養い子は心配性なんで、こういうことがバレると後が怖い。」
「あははは・・・確かに間抜けっちゃー間抜けだろうな。」
「俺、結構、しっかりしてるつもりなんだけど、あいつら、俺がすること、一々小五月蝿く小言言うんだぜ? 心配されるのはわかるけどさ。そりゃもう、ねちねちとさ。」
水を向けると、ロックオンは、そう言って笑っている。たぶん、その子供の顔なんてものを思い出しているのだろう。少し表情が明るくなる。
「ケガが治ったら王都には行くのか? 」
「ああ、目的だけは達成してこないとさ。・・・・いや、そういや、俺の荷物って、どうなってんだ? 路銀とか剣とかさ。」
「どっかにあるとは思うけど、グラハムが隠してるんじゃないか? 」
ロックオンの私物というのを、ジョシュアも見たことがない。まあ、おそらく、あのKYな隊長が隠しているのだろう。逃亡されないために。
「てか、服もだよな? うーん、どうしたもんかなあ。」
「どうしたもこーしたもねぇーだろ? それ、くっつかないことには、どうにもならないぞ。」
二の腕をぽっきりと折っているので、これが完治するには、数ヶ月は入り用だ。アバラだけなら、固定すれば動けるが、右腕はそうもいかない。
「俺、治りは早いほうだから、もうちょっとだと思う。」
「はあ? 医者は三ヶ月って言ってたぞ? 」
「そこまではかからない。」
一月近く経っているが、後二ヶ月はかかるはずだ。それを、いとも簡単そうにロックオンは言うので、ジョシュアは呆れる。
「まあ、いいけどよ。じゃあ、エイフマン教授には、明日からって言っとく。」
「ジョシュア、悪いんだが、新しい本を貸してくれ。」
「おう、それも持ってくる。とりあえず、ちょっくら仕事してくる。」
ジョシュアも、何もしていないわけではない。連兵場での訓練の指導なんて仕事も有るから、それには顔を出している。部屋を出てから、うーんと考え込む。どう考えても、あれは、そうはならないだろう。
パタンと閉じられた扉を見て、ロックオンも大きく息を吐いた。これは、かなりまずい。王都までの往復と役目を考えたら、一月仕事ぐらいのことだ。そろそろ、行方を調べられているかもしれない。
・・・・泣かないでいてくれよ? 俺は大丈夫だからさ。・・・・・・
どうも泣かれるのは苦手だ。もう養い子という年ではないし、立場も変ったが、それでも、ロックオンにとっては、可愛い養い子という感覚だ。怪我をして苦しんでいたら、ものすごい勢いで泣かれたことがある。ダメだ、ダメだ、と、縋りつかれて困った。すぐに治るから、と、言ったのに、とんでもないことをしてくれた。だから、今、その養い子は国を護る立場になった。それは誇りにも思うことだが、それだけに、ロックオンのことなんて気にしないで欲しいのだが、どうも妙な執着があるらしい。
・・・・刹那、刹那、俺は大丈夫だ。おまえ、お姫様とうまくやってるか? その手を取ればいいんだ。それで、おまえは完璧なんだよ。・・・・・
内心で養い子の名前を呼んで、呟く。声に出してはいけない。それはやったら、さらに、とんでもないことになる。だから呼ばない。それが許されるのは、今、傍にいるはずのお姫様だからだ。
その心配されている刹那は、居城の一室で、その手を取れと言われているお姫様と対峙していた。
「用件があったので、出向きましたが・・・・またですか? 刹那。」
「ああ、俺も打ち合わせしたかったから都合はよかったんだが・・・あいつが気を回したらしい。すまない。」
どちらも孤児院のことで話し合いたいとは思っていたので、この会見は、互いに必要だったが、そこに付随されていた、ただいま行方不明の人間からの手紙だけは頂けないものだった。
「お疑いになるのは、あなたの愛情が足りないのだと思います。いい加減に、押し倒してモノになさい。」
「おまえまで、それを言うのか? マリナ。」
ここのところ、刹那は、この城の誰からも、そう焚き付けられている。ひどいのは、いい薬があるなんて、小さなガラス瓶まで渡してくる始末だ。わかっちゃいるが、さすがに、それはやりたくないのだ。気持ちの整理がつくまで待とうと思ったのも刹那自身だし、相手も、そのうち受け入れてくれるだろうと思っていた。だが、この手紙だ。マリナから見せられた手紙には、「さっさと押し倒されて、刹那とくっついてください。」 という内容のことが書かれていた。そして、書いたのは、その刹那が押し倒せと言われている相手だ。
「申し上げます。私は、あなたの友人だと何度も申し上げているのに理解なさらないのは、そういうことではありませんか? あなたの言葉より態度が重要です。今は、体格的に負けているわけでもないのだから、さっさと実地体験をさせるべきだと思います。」
「・・・・おい・・・」
「方法がわからないとはおっしゃいませんね? 刹那。」
「それは、アリーから聞いた。」
「ワセリンは? 」
「用意してある。」
「では、さっさと実行しなさい。最初は、女性の破瓜と一緒で痛いものらしいですが、慣れれば良いものだと聞いています。流されてくれれば、慣らすぐらい回数もできるはずですよ。」
目の前の清楚な妖精のお姫様の口から零れている言葉は、かなりダイレクトだ。直球で刹那にぶつけられている。刹那は、ストレートな言い方でないと理解しないから、そういうことになる。
「相手が逃げた。現在、行方不明だ。」
「追っ手は? 」
「アレルヤが出せるだけの追っ手は放した。」
「なんなら、うちの手勢も用意させましょうか? 」
「いや、そこまでしなくてもいい。・・・・それより、孤児院のほうの話をさせてくれ。その話は、もう飽きるほどに聞いているんだ。」
作品名:だぶるおー 天上国3 作家名:篠義