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だぶるおー 天上国3

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 マリナは妖精国のお姫様だが、子供好きだ。刹那が、ここに来た頃に顔を合わせてからの縁だが、どちらも互いに、そういう興味はない。マリナにすれば、年の離れた弟という感覚だし、刹那にしても親戚の人ぐらいのことだ。最初から、刹那は、決めていたのだから、マリナも対象外だと知っている。そして、気の長いというか我慢強いというか、まだ、選んだ相手と契っていないのだ。相手の気持ちが落ち着くまでは、と、言うのだが、そんなもの、永遠に来ないだろう。相手は、養い子だとばかり思っているのだから。
「わかりました。今回は、あなたの想いが成就するまで滞在します。あの方がお戻りになられて、まだ抵抗されるなら容赦なく、私も手助けをさせていただきますから。」
 全員が同じことを言うので、さすがに、刹那も実行する気にはなっている。あれから数十年も経っている。もういいだろうと刹那も思っていた。

・・・・・俺は、ちゃんと言ったはずだ。おまえが信じないのが悪いんだ。最初から、あの時にも、ちゃんと言った。だのに、なぜ、信じないんだ? ・・・・

 初めてオアシスに現れた時から、刹那は、ニールが好きだった。白い肌と亜麻色の髪と孔雀色の瞳。とても綺麗な生き物だと思ったのだ。普段、見慣れているのは赤い髪の汚い男だから、特にそう思えたと思う。隠れて、何度も覗いていた。だが、人間と、ほとんど接触していなかったから、どうしていいのかわからない。ニールのほうが少しずつ距離を縮めてくれた。今思えば、根気があるな、と、自分が感心するほどの亀の歩みのような時間のかかるものだったが、ニールは焦らなかった。そして、不思議なことに、自分の面倒をみていたアリーも追い出さなかった。アリーは、ニールのことを知っていたらしく、とうとう来ちまった、と、苦笑していた。
 泉の側に、芋を植えて育てて、それを金に換えたり食事にしたり、時には読書しているし、暑ければ水浴びをする。出て来いとも、呼ぶこともないのに、その存在は気になった。距離を縮めて、一緒の場所に居られるようになってからは、ずっと一緒だった。刹那にとって、ニールが世界だったのだ。何年も暮らして、いろんなことを教わって、ある日、唐突に子供を連れて帰ってきた。アリーの客だという子供は、自分と変らないぐらいの大きさだった。分け隔てなく、世話をするのだが、ニールと寝るのは刹那だけだった。時折、温度が下がって寒い日は、くっついて寝ていた。それだけだ。温かいと思った。これがずっと側にあるといいと思っていたら、ある時、また唐突に怪我をして戻って来た。背中には矢が刺さったままだ。ティエリアを庇ったのだと解って、バチンとぶったら、ニールに拳骨を食らった。
「俺が、ティエリアを一人にしたせいだから、こいつが悪いわけじゃない。殴るな。」
「あんたのケガは、こいつの所為だっっ。」
「ティエリアに怪我されるよりは、マシだ・・・」
 そこで、ニールがげほげほと咳き込んで血を吐いた。デュナメスが近寄り、ニールの身体に鼻先で触れるが、それもニールが手で離した。
「おまえは、自分の傷の治療に専念しろ。俺のほうはいい。とりあえず寝てれば、どうにか治るはずだ。」
 デュナメスは、そういう癒しの力も持っている。刹那が怪我した時も癒してもらったことがあった。
「おい、どれか肺まで突き刺さってるぞ? 」
「悪いが抜いてくれないか? アリー。」
 騒ぎに姿を現したアリーは、ニールの背中をまじまじと睨んで、傷を確認している。矢尻を身体に埋めたままでは、治りが悪くなるのはわかるが、肺まで到達した傷は簡単には治らない。
「下手すると肺が血で満杯になって窒息する。」
「片肺が無事なら、どうにかなるさ。」
「おまえ、仮にもディランディーなら、こういう傷は避けるべきだろ? 」
「しょうがなかったんだ。あの数を相手にするには、武器がなかった。」
 げほげほと咳き込むたびに、ニールは血を吐く。ニールは弓は一流だが、剣のほうは、それほどではない。買出しだから、荷物になる弓は持参しなかったし、ティエリアを連れて剣で戦うのも難しいから逃げることにしたのだ。
「おい、ひよこ、おまえは『癒し』は使えるか? 」
 真っ青な顔で立ち竦んでいるティエリアは、アリーの問いかけに、ふるふると首を横に振る。『癒し』は、魔法力の中でも、相当、力のあるものしかできない。精霊であるアリーには、その力はない。しょうがねぇーか、と、アリーは背中から突き出している矢を一本ずつ抜いていく。返しのある矢は、傷を広げる。抜けば、そこから血が吹き出てくるような状態だ。それでも抜かないわけにはいかない。
「気絶しちまえ、このあほ。」
 力一杯、容赦なく矢を抜いて、アリーが笑いながら、そう言う間に、ニールの身体は倒れた。
「ちび、傷を洗え。それから、ひよこ、火を起こせ。」
 強い酒で傷を洗い、衣服を裂いたもので傷を覆う。それでも血は止まらないが、それ以外には、どうにもならない。焚き火の横にうつ伏せに寝かせると、アリーは、そこをティエリアに任せて、刹那を奥の泉に連れて行った。
「ちび、あれは死ぬぞ? 」
 そっと静かな声で告げられたことに、刹那は唐突に胸が痛くなった。あれは、刹那にとって唯一のものだ。あれがなくなったら、どうしていいのかわからない。ニールのいない生活なんて、もう考えられない。
「あれが欲しいか? 」
「欲しい。」
「なら、おまえのモノにしちまえ。そうすりゃ、あれは助かる。」
「俺のモノ? 」
 そうだ、と、アリーは苦笑して、その方法を教えてくれた。刹那には、元から魔法力は備わっている。だが、使いたいと思うことも、必要だったことも、今までなかったから発動しなかった。アリーは、それでいいと思っていたが、今回ばかりは、それを使うしか方法がないのだと言う。
 実際は、それほどではなかったのだが、ここいらが潮時だろうと、アリーは大袈裟に言ったのだ。刹那は、それを信じた。ニールは、妖精の血を色濃く継いでいるから、人間のように簡単には死なない。しばらくは、怪我で苦しむが、それだって数日で回復に転じる。それに、デュナメスが、その力を増幅させることができる。それを知っていて、わざと、アリーは言わなかった。

 日が沈みかけた空は茜色に染まりつつある。焚き火の側に寝ているニールは、苦しそうに息を吐いている。口元からは、まだ血が流れているような状態だ。ティエリアは泣きながら、それを見ているだけだ。その前に刹那が立つ。
「ティエリア、ニールは俺のものにする。これは、おまえのじゃない。俺のものだ。いいな? 」
作品名:だぶるおー 天上国3 作家名:篠義