輪が廻る
「佐助!」
変わらぬ愛しい少しかすれた声が俺を呼ぶ。玄関のドアーを乱暴に開ける音がする。
「おかえりー、旦那。…って、どしたのそれ、びしょぬれじゃん!」
「うむ」
「いやいや『うむ』じゃないって!あーあーもう!そのまま家上がんないで!!」
「それより佐助!」
「いやだからそれよりじゃなくて、…あ」
独眼竜。
その声は自然に漏れた。当たり前だ。何百回、何万回と夢に見た男が、そこに、何事もなかったかのように、いや、何事もなく、ただごくごく自然に、立っていた。
「伊達政宗殿だ!」
旦那の声が遠く聞こえる。
「…はじめまして。邪魔しまーす」
片側を眼帯で隠した荒削りな顔の中で、鋭く形の良い吊り上った瞳が、こちらを見詰め、薄いくちびるがすうと笑みを形作るように動き、ちいさくささやくのが聞こえた。
(…やっと、会えた)