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輪が廻る

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伊達軍と戦になったのは果たしていつごろだったろう。いや、何故だったろう。真田の旦那が書く文を懐にときおり奥州を訪ねること、それは俺様の休日の(休日と呼べるのかどうかはわからないが)習慣になっており、俺はそのたびあの男と体を触り合い微笑みあった。そこにあるのは愛なんてあたたかなものではなく、ウチの旦那がいなければけっして成立しない関係で、けれど俺もあの男もそれを当たり前のように受け入れていた。いつか刃を交えることになることなんて理解しきっていたのに。


あの日、そうあの日だ。
あの日俺様と旦那は別の軍の先鋒に奇襲をかける予定だった。気づかれぬよう森の中を歩いていたときだ、奇襲をかけようとするこちらを、伊達が狙っていると情報が入った。伊達の狙いは旦那だ、俺様は旦那に先に行くように言った。「しかし、」と止めようとした旦那に「大丈夫、すぐ戻ってくるよ。それよりちゃんと任務遂行するのが先でしょ?」と笑いかけて背中で手を振った、あれが最後になるなんて思いもせずに。いつのまに俺様はこんなにも甘っちょろく蕩けてしまっていたんだろう。けれど信じていたんだ、この戦が終わったらまた同じようになんでもなく旦那と縁側でだんごが食べられる日が来ると。今までどおりの日々が待っていると。だって旦那は、その為に戦っているんだから。すべての人の生活が変わらないように、すばらしい毎日が待っているように。そして俺様はその場を後にした。旦那を置いて、独眼竜のいるであろう麓へ。

「Hey,久しぶりじゃねえか武田の忍。真田はどこだ」
「教えるわけないでしょーがそんなの」
「ハッまあそうだな。だがてめーが出てきたってことはこの先に真田幸村がいるってことだ。YouSee?」
しまった。だが気にしてる暇なんてない。俺はとにかくこの男をできるかぎり食い止めないと。できれば旦那がこの男がすぐには追いつけないところへ行くまで。
どれくらい時間が経ったんだろう。俺様は水際に倒れていた。あちこちが痛い。いや、冷たくてもうあんまり感覚もないけど。ぼやける視界の中で真っ赤な血が水の中を泳いでいくのが見えた。旦那。そうだ旦那だ。真っ赤な彼を思い出す。彼の腕が奮う二本の槍を。紅く燃え上がる炎を。
「…旦那、」
「まだ生きてんのか」
大嫌いな声が聞こえる、彼を奪うあの声が聞こえる、いやだ、彼が、奪われる。
「……行かせるか」
男の思ったよりも細い足首を掴む。わかってる、こんなの時間稼ぎにもならない。
だけど。
「…てめえも大概あきらめが悪ィなあ」
「………」
「アイツは俺の獲物だ」
誰にも渡さねえ。そう言った男はあの笑みを見せた。瞳がぎらぎらと輝く。きっとその瞳には彼の姿が映っている。
「…いやだ…」
男の瞳が俺を見る。ぐい、と引きずりあげられるのを感じた。そのまま放り投げられる。起き上がろうとすると、ばしゃばしゃと音を上げながら男がこちらへ歩いてくるのが見えた。きらりと刃が光を反射して瞬き、ざくりと俺の体に突き刺さる。
「じゃあな」
もうピクリとも動いてくれない体に言葉が投げかけられる。音がまだ生きている鼓膜を伝わって俺の脳髄に響く。
「…だんな、…いやだ………」
言葉にしたつもりの音は声にならなくて、ただヒウヒウと風のようにくちびるから漏れて流れた。俺を殺した刀を振って、ざくざくと足音が去っていく。暗い中に光る三日月に見下ろされて、俺は紅く燃える太陽を想い、瞳を閉じた。



作品名:輪が廻る 作家名:坂下から