コネタ。
<痴漢>
さわさわ。すりすり。なでなで。
「ふ・・・ん、」
畜生、と毒づきながら唇を噛みしめる。なんで俺がこんな目に合うんだしかも1週間。
電車の中で出くわしたのは俗に言う痴漢というアレ。まあ少なからずこの日本社会にもそういうのがいるのはわかる。また触りたいと思いたくなるほど可愛い子が度々いるのもわかる。ただ1番理解できないのが。
自分は男だ。
尻を撫でる手つきから察するに向こうも男で痴女というわけでもなさそうだ。なんで俺を触る。他にもいるじゃねえか。そうたとえば俺の目の前にいるのは結構な美女じゃないだろうか。
元々皮膚は敏感で幼い頃から擽られるのにそれはもう弱かったり、ある時からは皮膚を撫でられると変な声が出た。
さわさわと尻を撫でる手つきが怪しくなってきた頃、我慢の玄関が来てもう殴ってやろうかと拳を握りしめる。ちらりと皮肉っぽい眉毛生徒会長の顔が浮かんだが気にしないことにする。その拳を振りあげようと力んだその瞬間。
ふわ、と堅く握った拳を覆う暖かいものがあった。
「私の連れなので、やめていただけますか?」
低くて、艶があり、それで良く響く見事な声はひそりと痴漢の手首を握りしめていた。ち、と舌打ちをしてその細い手を振り払った親父は人混みを潜っていった。おそらく気づいたのは周りの2、3人だっただろう。
しばし唖然とする俺の手を包み込んだまま彼は先ほど変わらない調子で言う。
「あんな人の為に貴方が生活し辛くなる必要はありませんよ」
「お前・・・」
「記憶に、ありませんか?」
そう言って彼はゆるりと少し面白そうに口端を上げた。
「いや、あの・・うっすらとだな・・っ」
「それだけ聞けただけでも嬉しいです。・・・日頃、弟さんと仲良くさせてもらってますよ」
は?と耳を疑う。俺様には確かに弟がいる。すげえ可愛いんだぜ。そうすげえ可愛い、なんせまだ幼稚園児だ。その弟にこんな大きい知り合いがいるとも思えない。そういえば彼の年はいくつなのだろう。全くわからない。自分と同じ高校生にも見えるし、年下にも見える。
「きっとまた会うことがありますし、それを楽しみにするとしましょう」
彼が言うのを合図にしたようにガタン、と電車が揺れた。その瞬間、彼は落ち着き払って、よろめく振りをして俺にキスをした。
唇が離れた後、目を見開いて瞬かせていると駅に着き、それでは、と一言残して彼は降りて行ってしまった。
結局誰だったのだろうとそればかりが気になって放課後を迎えた。今日は自分の当番だから、と家とは少し違う方向の電車に乗る。
がたんがたんと少し揺られて、駅に降り立ち、数分も歩くとそこには弟の通う幼稚園。迎えに行くのが少し遅くなるとはすでに伝えてある。
そういえば朝方の彼もここで降りていたような気がする。
「おーい、ルツー、お兄さまが迎えに来たぞ」
「! にいさん!!」
遠くで誰か、植木に隠れて見えないが恐らく職員の誰かとボールで遊んでいた弟はボールを投げ出してこちらに駆けてきた。ああほんとこいつ可愛い。
ぎゅう、とハグしているとさっきの職員が教室からこいつの荷物を持ってきてくれたようで、よかったですね、ルートヴィヒ君とかなんとか言っている。
「兄さんが迎えに来てくれるからっていい子にしてたんですよ」
「そっか偉かったなルッツ。あ、すんません、持ってきてもらっちゃっ・・・」
受け取ろうと顔を上げたとき、見覚えのある顔があった。にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべている彼は間違えようもなく今朝方助けてもらった「彼」だった。
「ふふ、また会いましたね、お兄さん」
「お、お前・・ルッツの知り合いって・・・」
「知り合いでしょう?ねえ、ルートヴィヒくん」
「にいさん、キクのことしってるのか?」
きゅるん、としたつぶらな瞳で見上げてくる弟をもう一度ぎゅううう、と抱きしめた後、彼、キクの顔を見上げた。
「あの・・・今朝はありがと、な。世話になった」
「いいえ、気になさらないでください」
更に笑みを深くする彼に対して思うのは痴漢のことに限らない。なぜ、電車が揺れたときにあんな・・・。
思っただけで頬が熱くなる。不思議と嫌だとは思ってはいない。
「にいさん?」
「おや、どうしました?お兄さん」
ぽぽぽぽ、と熱を発散していくのがわかる。きっと耳まで赤いのだろう。
そのとき、助け船かと思うタイミングで少し離れたところから弟を呼ぶ声がした。きっとよく遊んでくれているフェリちゃんだろう。
「ほ、ほらルッツ、今のフェリちゃんだろ。早く行ってこいよ」
「あ、ああうん」
珍しく歯切れの悪い返事をしながら弟がそちらに駆けていく。少し離れたところにいた「キク」がこちらに1歩踏み出した。
「改めまして、本田菊と申します。この幼稚園の職員をさせていただいてます」
「・・・そんな知り合いだとは思いもしなかったぜ」
「顔が真っ赤ですが、どうかしましたか?」
「ッ・・・お前が・・!!」
「ふふ、どうやら思ったより手応えがあったようですね」
「は・・!?」
言外にどういうことだと訪ねてもふふ、と笑うばかりでそれ以上答えようとはしない。
ただこれ以降弟を迎えに行くたびに人目をかいくぐってハグされたりキスされたりするからつまり、そういうことなのだろう。困ったことに、俺はそれが嬉しいときた。
明後日の方向のリア充へあともう少し。
さわさわ。すりすり。なでなで。
「ふ・・・ん、」
畜生、と毒づきながら唇を噛みしめる。なんで俺がこんな目に合うんだしかも1週間。
電車の中で出くわしたのは俗に言う痴漢というアレ。まあ少なからずこの日本社会にもそういうのがいるのはわかる。また触りたいと思いたくなるほど可愛い子が度々いるのもわかる。ただ1番理解できないのが。
自分は男だ。
尻を撫でる手つきから察するに向こうも男で痴女というわけでもなさそうだ。なんで俺を触る。他にもいるじゃねえか。そうたとえば俺の目の前にいるのは結構な美女じゃないだろうか。
元々皮膚は敏感で幼い頃から擽られるのにそれはもう弱かったり、ある時からは皮膚を撫でられると変な声が出た。
さわさわと尻を撫でる手つきが怪しくなってきた頃、我慢の玄関が来てもう殴ってやろうかと拳を握りしめる。ちらりと皮肉っぽい眉毛生徒会長の顔が浮かんだが気にしないことにする。その拳を振りあげようと力んだその瞬間。
ふわ、と堅く握った拳を覆う暖かいものがあった。
「私の連れなので、やめていただけますか?」
低くて、艶があり、それで良く響く見事な声はひそりと痴漢の手首を握りしめていた。ち、と舌打ちをしてその細い手を振り払った親父は人混みを潜っていった。おそらく気づいたのは周りの2、3人だっただろう。
しばし唖然とする俺の手を包み込んだまま彼は先ほど変わらない調子で言う。
「あんな人の為に貴方が生活し辛くなる必要はありませんよ」
「お前・・・」
「記憶に、ありませんか?」
そう言って彼はゆるりと少し面白そうに口端を上げた。
「いや、あの・・うっすらとだな・・っ」
「それだけ聞けただけでも嬉しいです。・・・日頃、弟さんと仲良くさせてもらってますよ」
は?と耳を疑う。俺様には確かに弟がいる。すげえ可愛いんだぜ。そうすげえ可愛い、なんせまだ幼稚園児だ。その弟にこんな大きい知り合いがいるとも思えない。そういえば彼の年はいくつなのだろう。全くわからない。自分と同じ高校生にも見えるし、年下にも見える。
「きっとまた会うことがありますし、それを楽しみにするとしましょう」
彼が言うのを合図にしたようにガタン、と電車が揺れた。その瞬間、彼は落ち着き払って、よろめく振りをして俺にキスをした。
唇が離れた後、目を見開いて瞬かせていると駅に着き、それでは、と一言残して彼は降りて行ってしまった。
結局誰だったのだろうとそればかりが気になって放課後を迎えた。今日は自分の当番だから、と家とは少し違う方向の電車に乗る。
がたんがたんと少し揺られて、駅に降り立ち、数分も歩くとそこには弟の通う幼稚園。迎えに行くのが少し遅くなるとはすでに伝えてある。
そういえば朝方の彼もここで降りていたような気がする。
「おーい、ルツー、お兄さまが迎えに来たぞ」
「! にいさん!!」
遠くで誰か、植木に隠れて見えないが恐らく職員の誰かとボールで遊んでいた弟はボールを投げ出してこちらに駆けてきた。ああほんとこいつ可愛い。
ぎゅう、とハグしているとさっきの職員が教室からこいつの荷物を持ってきてくれたようで、よかったですね、ルートヴィヒ君とかなんとか言っている。
「兄さんが迎えに来てくれるからっていい子にしてたんですよ」
「そっか偉かったなルッツ。あ、すんません、持ってきてもらっちゃっ・・・」
受け取ろうと顔を上げたとき、見覚えのある顔があった。にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべている彼は間違えようもなく今朝方助けてもらった「彼」だった。
「ふふ、また会いましたね、お兄さん」
「お、お前・・ルッツの知り合いって・・・」
「知り合いでしょう?ねえ、ルートヴィヒくん」
「にいさん、キクのことしってるのか?」
きゅるん、としたつぶらな瞳で見上げてくる弟をもう一度ぎゅううう、と抱きしめた後、彼、キクの顔を見上げた。
「あの・・・今朝はありがと、な。世話になった」
「いいえ、気になさらないでください」
更に笑みを深くする彼に対して思うのは痴漢のことに限らない。なぜ、電車が揺れたときにあんな・・・。
思っただけで頬が熱くなる。不思議と嫌だとは思ってはいない。
「にいさん?」
「おや、どうしました?お兄さん」
ぽぽぽぽ、と熱を発散していくのがわかる。きっと耳まで赤いのだろう。
そのとき、助け船かと思うタイミングで少し離れたところから弟を呼ぶ声がした。きっとよく遊んでくれているフェリちゃんだろう。
「ほ、ほらルッツ、今のフェリちゃんだろ。早く行ってこいよ」
「あ、ああうん」
珍しく歯切れの悪い返事をしながら弟がそちらに駆けていく。少し離れたところにいた「キク」がこちらに1歩踏み出した。
「改めまして、本田菊と申します。この幼稚園の職員をさせていただいてます」
「・・・そんな知り合いだとは思いもしなかったぜ」
「顔が真っ赤ですが、どうかしましたか?」
「ッ・・・お前が・・!!」
「ふふ、どうやら思ったより手応えがあったようですね」
「は・・!?」
言外にどういうことだと訪ねてもふふ、と笑うばかりでそれ以上答えようとはしない。
ただこれ以降弟を迎えに行くたびに人目をかいくぐってハグされたりキスされたりするからつまり、そういうことなのだろう。困ったことに、俺はそれが嬉しいときた。
明後日の方向のリア充へあともう少し。