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みとなんこ@紺
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無駄な特技 その2

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*無駄な特技2







「お疲れ様です」

司令部から出てきた上官を出迎え、回してきていた車の後部座席の扉を開けば、乗り込もうと背を屈めたかの人の背中が一瞬止まった。
「コレが何故ここにいる」
いや、そんな恨めしそうな顔で振り返られましても。
だって乗せろ、と言われれば拒否権ないですもん。オレ下っ端だし。
と、即答えられないでいると、ちゃっかり中で陣取っていたヒトから抗議の声が上がった。
「コレ言うな。これからお疲れの親友殿を送ってやろうってオレの優しい心遣いじゃねぇか」
「ハボック」
「無理ですって。オレだって早く帰りたいんです」
へらりと笑うもう片方の上官を遠慮なく指差しての、己の上官の「どこか捨ててこい」という無言かつ無茶な指示には即Noと返し、そそくさと運転席に逃げる。
彼の人はしばらく思案していたようだが、やがて諦めたのか、ちっとあからさまに舌打ちして後部座席に滑り込んだ。
「随分ご機嫌斜めじゃねぇか」
「お前の顔見るまでは普通だった。何故ここにいる。明後日じゃなかったのか」
「毎度恒例抜き打ちってことで。準備はいいわけ?」
そう問えば、ふん、と鼻で笑い飛ばしてくださった。
「懲りないな、あの御仁も」
「なら問題ねーじゃん。てことでハボ、飯だ。この通り右に抜けて3ブロック先左折」
「家と方向違うだろうが」
「あいさー」
「お前も素直に言う事聞くんじゃない」

だって逆らうだけ無駄ですもん。

とは流石に口には出さなかったが、言いたい事は筒抜けなんだろう。バックミラー越しに中佐と目が合えば、にやりと笑われた。
お手柔らかに。本気で臍曲げられても困ります。明日あたり最終的にやつ当たられるの大抵オレなんで。


・・・・・・。


・・・自分で思っておいてアレだが、がっかりだ。
その想いが通じたかは定かではないが、それ以上煽るのは止めて頂けたようだった。



「はいよ。ご所望のブツ」
ペロリと差し出された封筒を見遣った大佐の目が僅かに細められる。
・・・しまった。代わりにもっとヤバイトコに放り込まれたかもしれない。
そう思ったが、この狭い車内に逃げ場はなく。ハンドルを握る手は耳を塞ぐ事も出来ない。あたりまえだが。
ちらりと視線を振れば、ミラーに映った己の上官の纏う気配が、す、と冷えたものになったような気がした。
先程までの仏頂面は消え失せ、代わりに眇めた目でそれを見下ろす。
封筒から無造作に引き出した書類にざっと目を通すと、彼はクスリと小さく笑った。
「面白いな。どこで見付けてきたんだ?」
「たまたまらしいぜ。吹っ掛けられただけはあるといいな」
ちなみに俺のオススメはこっち。
…なんて、まるで何かのメニューでも選んでるような口振りだが、内容は微妙に不穏な気配。


ああヤだなぁ帰りたい。


いくらお膝元とはいえ、何処に目があるか分かったものじゃない所では、確かに車は密室談義に丁度良いだろう。それは判る。
それは判るんだが、これだとホントに一蓮托生って感じで。
そう言えば今更だろう、と一刀両断されるのは判っていたが。
後ろにも聞こえるようにあからさまに溜め息を落とすと、ピタ、と後部座席の物騒なじゃれあいが止まった。
・・・しまった。矛先が来る。
「何だ何だ、暗いなぁ少尉。またフラれたのか?」
「…ハンドル操作過って良いですかね」
「やだ」
言うに事欠いてそっからなのか。つかどこの子供ですか、というツッコミが口から出るのを寸でで抑えるというオレの努力を余所に、後ろは何やら大盛り上がりだ。
「お前責任とってやれよ」
「何で私が」
「またこいつの気になってる子にちょっかい掛けたんじゃねぇの~?」
「そんな事はしていない」
「…たぶんそう思ってんのはお前だけだぞ」
「真顔で言うな。お前に言われると余計腹立つ」
んだそりゃ!とか中佐がぶーぶー言ってるようだったが、もう背後でじゃれてるのはいつものノリなのでそれ以上は聞かない事にする。
・・・つーか、さっきまでの不穏話はもう良いんだろうか。
完全に話は逸れていて戻る気配もない。いや別に戻って欲しいわけではないけど。

・・・こんな人らに狙われてる上も可哀想に・・・。

堂々と影で好き放題やっている若造どもに手を焼いているようだが、誰が思うだろう。蓋を開ければ実体はこんなのだなんて。何となく、マジメに色々仕組もうとしているんだろう上の方が気の毒になってくる。
もちろんそんな事を考えているなぞ露と知らない2人は絶賛無駄話中で、何やら名前を指折り数えている。
「花屋のセシリア、パン屋のベル、カフェのラナに受付のミリィ女史?」
「って、ちょっと待って下さいなんで中佐が知ってんですか!!」
そのラインナップには物凄い覚えがあって、運転中というのを忘れてぎゅりんと背後を振り返る。流石に片方から前を見ろ!と怒鳴られたが、それも右から左へ流れるほどの衝撃を受けた。
ああもうハンドルにかじり付きたい。こーんな事をこーんなトコへバラすと人と言ったら自ずと限られてくる。こーゆー人の繊細な心を抉るのが大好きな性格の悪い上司とか根性の悪い上司とか!
「あんた何で中央くんだりそんな情報まで流してんですかー!」
信じらんねー!と叫べば、おのが上司はフンと偉そうに鼻で笑って下さった。

「私な訳がないだろう。第一お前のフラれたリストまで一々覚えていられん」





・・・・・・。





「ああ、ハボ。判ったから突っ伏すな。前向いてちゃんと運転しろって。こいつには後でキツーく言い聞かせとくから。な?な?」

・・・・・・涙で前が見えねぇよチクショウ。

が、謂われのない非難を一撃でたたき落としたついでに、人をどん底に突き落とし直して上から石まで落としてくれたご本人様は、元凶の癖に我関せずを貫く姿勢のようで。仕方がないのでもう片方を恨みがましそうな目でじっとりとミラーで見遣ると、悪びれずに笑って片手を上げてひらりと振った。
「ま、ソースはホントにこいつじゃないから」
「ほんとっすか~?」
「イイ友人を持ったな、ハボック」
・・・あのヤロウ・・・!
犯人は人の悪い同僚だったらしい。さらっとバラされたソースを忘れぬよう噛み締め(明日は報復戦だ。今日残してきたファイルも視察も巡回もあいつの隊に回してやる)、八つ当たりのようにアクセルを踏み込む。
急な切り替えに派手に車体は揺れたが、後部座席に陣取る佐官2人は気にした風もなく、逆にご満悦のご様子だった。
世の中には人の不幸で喜ぶ人種がいるが、この人達は絶対そっち側だ。間違いない。


「しょうもない情報だとかいって雑談なめんなよー。どんな些細な事でも手掛かりになるかもしれねぇんだから」
「捜査の基本だな」
「…だからってオレの戦歴が関係あるとは思いませんけど」
「そこはそれ、趣味の問題で」
「悪趣味だ・・・」
上機嫌の2人組の帰路はまだもう少し続く。
…何で今日送迎引き受けちまったのかな、なんて我が身を嘆いても始まらないが、どうしてこう軍きっての若手エリート兼問題児が2人も揃ってる時に。
「まーまー。ほら、普段からそうやって雑談に紛らわしておいた方が真っ当な情報も隠れやすくなるだろ」