花畑の約束
すると突然後ろから声がした。
「……イタリア?」
はっと後ろを向いた。どんなに待っても、ここに誰かが現れるなんてことはなかったのだ。
そこにいたのは…神聖ローマではなく、ドイツだった。
「…え?ドイツ……!?」
ドイツは涙でぐしゃぐしゃになっているイタリアを見て、
「お前…オーストリアの演奏会断ったと思ったら…こんなとこにいたのか!!」
「ヴェっ…ごめんなさい…」
びくりと肩を震わせてイタリアはあやまった。
が、内心混乱していた。
ここは俺と神聖ローマしか知らない場所。
なんでドイツがいるの!?
ドイツはオーストリアさんの演奏会にいったんじゃないの!?
「もしかして…心配してくれてたの…?」
「ま…まぁな…お前なんか様子がおかしかったし…その…」
見破られてた。毎年この日は頑張って明るくつとめていたつもりだった。
また、涙が出た。
「お前!!なんで泣いてるんだ!?というかここは何処だ!?なんでこんなところいるんだ!?」
「ヴェ…」
心配そうな顔でドイツがイタリアを見る。
心配してくれるのは凄く嬉しい。だが、神聖ローマのことは言えない。
二人だけの、約束だから。
ずっと黙りコクってるイタリアを見てドイツは、
「言えないなら無理して言わなくてもいいが…大丈夫か?」
頷くことしか出来なかった。
するとドイツの目に、イタリアが持ってる作り途中の花冠がうつった。
状況はよくわからないが、とりあえずその花冠をとると、
「すこし雑だな…ここをきゅって結ぶとうまく繋がるぞ」
そう言った。
「――!!!」
同じ。神聖ローマがあの時言ってきた言葉と同じ。
声にならない悲鳴があがった。
「イタリア?」
考えるよりも先に体が動いていた。
そのままボフッとドイツの胸に飛び込み、顔を擦りつけた。
「ど…どうしたんだイタリア!?」
顔を赤らめてドイツが言った。
「ずっと…待ってたよ…ずっと…」
来てくれた。待ち続けていたあの人が来てくれた。
姿が変わってしまっても、ここにちゃんといた。
「おめでとう…神聖ローマ…」
花冠をドイツの頭にかぶせた。
もしかしたら、ドイツには神聖ローマの記憶がないのかもしれない。
姿だって変わってしまった。
でも、ここを知っているのが、何よりの証拠。
そしてあのアドバイス。
約束を…守ってくれた。
やっと…祝えた…
「ごめん…意味わからないよね…俺が泣いてる理由も…」
ぎゅっと手に力を込めた。
「でも…ありがとう…大好きだよ…」
ドイツは少し困惑していたが…
イタリアを抱きしめて、頭をなでた。
「よくわからないが…ありがとう…イタリア」
待ち続けた人と守れた約束。
いつまでもこの温もりをわすれないように、
ずっと…抱きしめていた…。
fin .