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だぶるおー 天上国4

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「いや、うーん、どうだろう。結構、親身になってたとは思う。」
「でも、ニールを疑ったでしょ? それは、たらされてないってことなんだ。普通は、無条件にニールを懐に入れてしまうものだからね。だから、たらされないあなたなら、護衛と話し相手に欲しい、と、王妃が指名したんだ。」
 確かに、ジョシュアは、ニールをスパイかもしれないと疑った。それに、グラハムみたいな気分にはなっていない。
「え、ってことは、エイフマン教授は、たらされたってことか? 」
「うん、ふたつ返事で引き受けてくれた。自分の弟子が王都に居るから、そちらを呼び寄せて一緒に、僕らの城へ来てくれることになったよ。」
「勘違いしてもらっては困るから、説明するが、おまえのところのグラハムの反応はおかしいんだ。あんな過剰反応は、滅多にない。普通は、すんなりとニールの頼みを引き受けてくれるという程度のことだ。」
 グラハムの反応と似たようなことだと思われては困るから、ティエリアが説明する。普通は、互いの信頼関係のようなものが、時間をかけずに築かれるのが、
たらし」能力というものだ。
「もちろん、給金も払うし、里帰りも自由だから。あなたは、仕送りしてるんでしょ? それも、うちからでもできるからね。そちらは心配しなくても大丈夫。」
 ジョシュアの事情もニールが考えてくれていたらしい。今の給金と変らない程度ではあるが、まあ、興味深い就職先だ。誰も入れない天上の城に入れるなんていうのは、ちょっと誇らしい。

・・・・なんだかおかしなことに巻き込まれたなあ・・・・


 ジョシュアは苦笑して、アレルヤと握手した。




 除隊には、それほど手間はかからなかった。元々、ジョシュアは、グラハムによって呼び寄せられただけだから、隊に執着がないことは知られている。故郷に戻って、ゆっくりするよ、と、言うだけで済んでしまった。

 迎えに来てくれたのは、ティエリアで、では、行こう、と、ふいに跳ばれた。場面転換するように、次に目に飛び込んだのは、綺麗な草原だ。そこに、灰色の馬が座っている。
「ニール、連れてきました。」
 ティエリアが声を張り上げて走っていくと、馬に凭れかかっていたらしい身体が起き上がった。
「よう、ジョシュア。」
「俺も、王妃って呼ぶのか? 」
「やめてくれ。ニールでいいよ。外では、ロックオンと呼んでくれ。」
 起き上がって握手するニールは、ちょっとやつれている。怪我は、あの場で完治していたはずなのに、と、不思議に思った。
「ようこそ、ソレスタルビーイングへ。歓迎するぜ。」
「俺が来ることになるとは思わなかったぞ。」
「あんたは、俺にたらされないし、腕も確かだ。俺が外で仕事するにも、そういう護衛は有り難い。」
 ずっと王妃として城に暮らせ、と、言われても、ニールは、そうもいかない。必要な人材や、王が遠見で見つけた相手を、気分良く誘うには、ニールは不可欠だからだ。
「すぐに出るつもりか? 」
「いや、しばらくは無理そうだ。身体が言うこと効かなくてさ。」
「どっか悪いのか? 」
 よく見たら顔色も、あまり良くない。病気でもしてるのかと続けたら、苦笑された。
「箍が外れた亭主が、毎晩、無茶してくれるんでな。」
「あーそれか。」
 そりゃしばらくは、話し相手だけだな、と、ジョシュアも大笑いする。何十年か我慢していたニールの亭主は、解禁になった途端に、毎晩、容赦なく攻め立ててくれるらしい。
「ちょっと落ち着いたら、外へも行くぜ。なんせ、うちの王は、世界から戦いを失くしたいと希望しているんでな。人材は、必要なんだ。」
 刹那の希望は壮大なものだ。これは、時間がかかる代物だが、ニールもティエリアも、同意している。世界から戦いがなくなれば、刹那のような子供はいなくなる。それに、この国も門戸を広く開けることが出来る。人間でも妖精でも、その差で変るものはない。手を取り合って暮らすという方向に、世界を変えたいのは、誰もが願うことだ。
「そりゃまた、大変だな。」
「ああ、大いにな。」
 この国の人間は、寿命が長い。だから、少しずつ変革していくことは可能だ。先代の王は周辺の平穏を望んだが、当代の王は、さらに上を行く。その国に働くのは、なかなか楽しそうだ、と、ジョシュアも大笑いした。
作品名:だぶるおー 天上国4 作家名:篠義