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【DRRR】そうして、彼は(下)【静帝/サンプル】

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「ミカド君が戻ってくるまで僕が待ってておいてあげるよ」

 口調はいつものとおりだからこそ、その物言いには腹が立つ。肩を叩かれて促されればなおさらだ。けれど日直なのだから、と静雄はしぶしぶ立ち上がった。
 自分の背丈より大きい地図を肩に抱えて、社会科準備室に向かった静雄は、普段使われることの少ない部屋の埃っぽさに思わず眉をしかめる。
 教師が地図を取りに来た時にできたのか、足跡がくっきりと埃の上に浮かび上がっていた。
 もう入口に立てかけておけば良いかと思う気持ちと、使われていないわりに整然と片付いている部屋の秩序を乱すのかという罪悪感との間で迷って、静雄は仕方無しに部屋に足を踏み入れた。
 一歩踏み出すと、途端に目に見えて埃が舞った。
 口元を覆い隠して、できるだけ静かに床に残っている足跡をたどるようにゆっくりと歩く。たどる足跡は静雄のものよりもずいぶん小さい。薄暗い室内は足元も見えにくい。ゆっくり歩いていると、足先に、こつん、と何かが当たる感触がした。

「なんだ、これ?」

 静雄がつま先で蹴飛ばした物体は、部屋の奥にある資料の収納箱に当たって止まった。

「落としもんか?」

 壊していないかと心配しながら、手の平ほどの大きさの物を拾いあげる。液晶画面に、ボタンがついていて、一見、携帯ゲームか何かのようだった。けれど、見慣れたボタンに書かれた番号の配列は、家にあるコードレス電話の端末を思わせる。
 これに似たものを以前に静雄は見たことがあった。

「うわ、やべえ――」

 ボタンをいじっていたら突然画面が消えてしまった。まさか壊してしまったか。そう思うと、それ以上は怖くて触れない。

「くそっ……」

 あとで職員室にでも持っていくか、と制服のポケットへ拾ったものをしまった。学校に持ってきたことが教師に知られて、持ち主が怒られようが静雄の知った事ではない。
 部屋の一番奥にあった収納スペースにようやく資料を片付けて、部屋を出ると制服についた埃を払って、静雄は大きなため息を吐いた。もうこれで何度目か、考えるのも嫌になってくる。

「あ、静雄さん!」
「ミカド?」

 教室に戻る途中でミカドに後ろから声をかけられた。

「あはは、寝ぐせついてますよ」
「うっせえ」

 顔を合わせて早々、頭を指差して笑われた静雄が、手を伸ばして頭を小突くフリをすると、ミカドは静雄の指を避けるように後ろに下がった。
 すみません、と言いながらミカドは笑っているが、静雄も本気で指を当てるつもりもない。というのも前に一度、軽くでこピンしただけで、気絶させたことがあるからだ。いらいらしてはいたが、まだそれくらいは自分を保っていられる。

「教室の掃除、終わりました?」
「おう、みたいだな……」

 静雄は当番だったはずだが、寝ていた間に終わっていた。人事みたいに答える静雄に、ミカドはまたくすくすと笑った。

「なら帰りましょう」

 そう言って、歩き出したミカドにつられるように静雄も歩き始める。
朝の寝坊に銜えて、抜き打ちテストに、説教、喧嘩に巻き込まれて、また説教。いらついた静雄の様子に気づいているのかミカドも特に口を開くことなく、隣に並んで歩いているだけだ。気を遣わせていると思う反面、そんな状態であっても静雄の側にいてくれるミカドの存在が嬉しかった。
 いつ何かミカドを巻き添えにするのではないかと臆病な自分は考えてしまうが、そういう時、ミカドは新羅のようにうまく立ち回っているようで、いつの間にか姿を消している。それを薄情だとは思わない。新羅も含め、そういう人間でなければ静雄の側にはいられないのだから。

「平和島静雄っ!!」

 ミカドと並んで歩いていると、路地に入ったところで、突然、大人数の男達に周りを囲まれた。静雄の名前を叫んだ男達は、どこかで見たことのある人間たちだった。

「さっきはよくもやってくれたなあっ!!」

 どうやらその口上を聞くと、昼休みに学校にやって来た連中だった。一度、静雄にやられて、敗北感どころか絶望的なまでの力の差にも気落ちすることなく、何度も向かってくる人間はめずらしい。静雄の機嫌が良ければ、もう少しましな対応ができただろうが、今日に限っては、そのしつこさにうんざりする。ましてや、せっかくミカドと一緒に帰る時間を邪魔されて、苛立ちが倍増するだけだった。
 イライラしながら向かってくる相手を殴っていると、静雄は突然、ぴたりと動きを止めた。

「ミカドっ?!」

 ミカドが男達に数人がかりで捕まって殴られているのが目に入ったからだ。

「てめえら……」
「お友達が大事ならそのまま動くんじゃねえぞ……」

 男たちは、拘束したミカドを盾にしながら、静雄にゆっくりと近づいてくる。
 緊張で身体に力が入り、息が荒くなって、頭の中がちりちりと熱くなっていく。やばい、と心のなかで思った。このまま我を忘れて暴れてミカドを巻き込んだらまずい。けれど、目の前の男達に対する怒りに自分が抑えきれない。いまにも自分を見失いそうな状況にあることがわかった。
 そもそも、なぜミカドと一緒にいるのに、喧嘩を買ったりしてしまったのか。静雄は、そのことを後悔した。ミカドなら静雄や男達の知らぬ間に逃げてくれていると過信していた。ずっと静雄と一緒にいれば、いつミカドが目をつけられていてもおかしくなかった。
 静雄自身の頑丈さは己がよく知っている。だからこそ静雄は、ミカドのことをもっと考えなくてはならなかったのだ。
 ミカドを助けて、男達だけをぶっ飛ばす。身体がその命令を聞き入れてくれることを心の底から静雄は願った。その願いがこれまで一度たりとも叶ったことがないと知りながら、それでも期待せずにはいられない。握った拳が今にも勝手に動きだしそうだった。

「静雄さん!!」

 焦った様子でミカドが叫んでいた。その声に重なって、どこからともなく何かのメロディが静雄の耳に聞こえてきた。それは耳鳴りのように耳奥で響き、次第に眩暈がするみたいに、静雄の視界がぐるぐると揺れ出した。

「な、なんだ――?」

 ぐにゃり、と目の前の景色が歪んで、静雄は思わず目をつぶった。もう一度、目を開けた時には眩暈は治まっていた。歪んでいた景色も元通りになっていが、ただ、そこにミカドと男達の姿がなくなっていた。

(中略)

 拾った携帯を届けなければと思いながら、男たちに絡まれることが続いて、その度に静雄はつい力を使ってしまった。学校までやって来る人間まで避けることは出来ないが、少なくとも放課後、ミカドといっしょにいる時間が増えた。その力の魅力に静雄は抗えなかった。

「最近、絡まれること少なくなりましたね?」
「そうか?きっと、諦めたんだろ」

 そう言う静雄にミカドもそうかもしれませんね、と頷いた。
 絡まれる頻度が減ったことで苛立つことも減って、静雄の生活もずいぶんと穏やかになった。
 携帯を落とした人間に対して罪悪感もあったが、やってることが犯罪だとわかっていても携帯を手放すことが出来なくなっていた。学校に持ってくるわけにもいかなくて、ずっと静雄の部屋に置いたままだ。

「今日はどうします?」