キスで元に戻して!
魔術師が集まる街、怪しい人々が行き交い異様な雰囲気を放っている。
その中を一人白い外套でフードを深くかぶった小柄な人物がきょろきょろと周りを見ながら歩いていた。
「どうしよう....道迷っちゃった...ヒノカくん心配してるかなぁ.....はぁ....」
アキはこの怪しい街付近に監視役のヒノカと採取に来ており帰路モルトカまで遠いためこの街に立ち寄り一休みしていこうというところだったが、
周りの異様な雰囲気に目を奪われている間にヒノカと離れてしまったのだ。どこを見渡しても危険なにおい漂う人々が自分を見ているような気になり、アキは
不安と恐怖でさらにフードを深く被った。
(うぅ.....怖いよぉ.....)
とその時
ココダ.....
聞いたこともない誰かの声が聞こえた。というより頭に響いたような感覚だった。
(な!何!?...今の誰....?)
ココダ........ハイルガヨイ......
「え?」
気がつくと一瞬にして回りの風景が変わり今まで外にいたはずが突然目の前には見たこともない薄暗い部屋、さまざまな液体の入ったビンが陳列した棚に不思議な
文字が書かれた本、部屋の隅にほこりの被った机の上にライトが小さな明かりを灯していた。
「何.....これ....どういうこと....?私さっきまで外に....あれぇ...?」
まったく自分の状況が分からず混乱するアキ。
(.....あ...そういえば、来る途中ヒノカくんが此処はある意味危ない場所だって....あれって奇妙なとかそういう意味だったのかな...私とヒノカ君もいつのまにか
はぐれちゃってたし....?)
アヤツ...ヤツノ ムクナオモイ ノ イチブ....カワリニ ヤツノ ネガイ カナエル.....
「...え...奴って....?何のこと言ってるの.....っていうかあなた誰.....?」
質問したと同時に今まで気づかなかったとは違ういきなり感じた人の気配に咄嗟にアキは薄暗い部屋の一番明かりの届かない暗闇に目を凝らした。
「誰!!?」
身構えるアキの視線の先の人間がゆっくりとアキのいる明かりのほうへ近づき照らされていく。
「............アキ...?」
「え....?」
明かりに照らされたその人物は、チャコール色の髪に端正な顔立ち、引き締まってたくましい体に長い手足、アキよりかなり高い位置から切れ長の淡い亜麻色の瞳で自分を映して見つめている。
鍛えられた腕が伸びてアキのフードをゆっくりと撫で下ろす。目の前の神秘的な青年に一瞬ぼーっとしていたアキもその行動にはっとしたように一歩後ずさって警戒した。
「やっぱり、アキだ。」
優しい笑みが凛々しい顔立ちを更に眩しくし、彼は距離を縮めてぎゅっとアキを抱きしめた。
「な!!...ちょ!ちょっと!!誰ですか...あなた...離して..ください!」
広い胸に顔を押し付けられ髪を撫でられアキは真っ赤になりながらも抵抗した。
「.....あれ?....そーいえば...何か変.....アキ....小さい....」
「はぁ??あのぉ....人違いなんじゃ....私達初対面だと思うんですけどぉ....」
「.............」
そういったアキの言葉を聞いて確かめるように体を少し離すが腰に手は回したまま動けない彼女をじっと見つめる。
「.....オルタだよ....」
「!!!!!?」
「成長期....?」
「うそ!!オルタ!!??............そういわれてみると目も髪も同じ....ってそんな急に成長しないし!!何!?なんで!!?」
「わかんない.....でも俺は俺。アキの事よく知ってる」
「ど、どーしたらこんな事になるの....???」
「...........わかんない....ここの家の人が...願い叶えられるって....よく覚えてないけど変なじーさん」
「それって....何か変な術とか...かな?体は平気なの?!痛いとこない?」
「平気。アキと会えた。俺嬉しい。」
そういって無邪気に笑う笑顔はいつもの幼いオルタだとアキは感じた。
「でもオルタって大人になったらこんなにハンサムになるんだね、ドキドキしちゃった。...もう離してくれない?オルタなら逃げないよ」
正体がわかったとはいえ大人の姿をしたオルタに抱きかかえられてるのはやはり恥ずかしく思いアキは体を再度離そうとしたが...
「やだ」
「....え?」
「アキ....俺のこと見て。.....こういうの好き?」
「え....?好きって....」
両手で顔を包み込まれ顔を近づけて真剣な眼差しで見つめられると秋の顔は更に熱くなる。
「この姿ならアキに相応しい男になれる...?俺のことガキ扱いしない....?」
「な....何言って...オルタはオルタだもん.....それは..変わらないよ....」
「俺アキのこと好き.....!.....いつも思ってた....早く大人になりたいって....俺がアキ守りたいって....!」
「オルタ......っん....!」
慣れていない無理やり押し付けるようなキスは彼のもどかしさが伝わってくるように、どうにもできなかった今までの想いを必死に訴えていた。
「........っ.......や..めて!」
力いっぱい彼の体を突き飛ばすように逃げ呼吸を整える。
「オルタ....こんな風にしても私....嬉しくない....」
「何で!?俺のこの姿嫌い!?大人になってもだめなの!?」
「違う!!......違う...それは大人になったんじゃないよ.....人間はいろんなこと経験して、人と関わって、思いやりとかいっぱい学ぶことがあるんだよ...」
「........」
「今のオルタは..ただ力で言うこと聞かせようとしてる.....そんな大人になりたいの...?」
「!」
「人間が歳をとるのは止められないんだから、そんなに急いで大人になることないよ....ね?」
「...............うん、ごめん」
アキは俯いている彼の側へ自ら歩み寄りそっと抱きしめた。いつもよりも大きな体だけど不思議と今はいつもと違う違和感は感じなかった。きっと
それはオルタも同じで、いつものアキの温かみに安堵した。
「.....もしかして私がファーストキスだった?」
「!!......だったら何?!」
「ふふ、いつものオルタだ。」
ふてくされ顔を赤らめた彼の頬にアキはそっと口付けた。
「ちゃんと大人になったら、ね!実際オルタすっごくかっこいいから私ライバルいっぱいかもなぁ!ふふ」
今度はオルタがアキにしがみつくように抱きしめ赤い顔をうずめる。
「俺、アキ以外いらない」