踊りましょう
空は漆黒、数えきれないほどの星がまき散らされて小さく強く輝いている。
屋敷の中は明るい。
灯りのせいだけではない。ひとがたくさんいて、にぎやかで、明るい雰囲気に満ちている。
今夜はこの屋敷でパーティが開かれている。
楽しそうな話し声や音楽も聞こえてくる。
演奏しているのは、屋敷の主のローデリヒ・エーデルシュタインだ。
美しく、それでいて軽やかな演奏である。
あの曲に合わせて踊ったら楽しいかもしれない。
そうエリザベータ・ヘーデルヴァーリは庭で思った。
けれども、エリザは踊らない。
たくさんのひとが集まっている大広間に行くこともない。
大広間にいるのは、華やかに着飾ったお客様。
自分はこの屋敷の召使いで、地味な色の服に白い前掛けという格好だ。
立場が違う。
今は、同じ屋敷内にいても、大広間には行けない。
しかたない。
でも、それでいいのだ。
気を取り直して、エリザは仕事にもどろうとした。
しかし。
「そんなところで、なにやってんだ、おまえ」
背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。ケセセセという笑い声つきだ。
確認しなくても、だれだかわかった。
だから、エリザは振り返りながら相手をにらみつける。
「なにやってたかって、仕事に決まってるでしょう?」
そこにいるのは、もちろん、ギルベルト・バイルシュミットである。
「仕事? してたようには見えねぇなー」
ギルはニヨニヨと笑う。
真面目な表情をしていれば男前の部類に入る顔立ちであるのに、そんな奇妙な笑い方をすれば台無しになる。
とはいえ、エリザはギルに忠告してやるつもりはない。
顔立ち自体はいいなんて褒めてやりたくない。
「あんたこそ、なにしてるのよ。招待客なんでしょう。ここはお客様の来るところじゃないわ」
素っ気なくエリザは言った。
眼のまえにいるギルは招待客らしく正装している。
それが似合っている。
格好いい。
なんて、絶対に、言いたくない。
「……あ〜、俺か、俺はだな」
ギルの歯切れが悪くなった。表情も気まずそうだ。
その様子に、エリザはピンときた。
「わかった。あんた、また、みんなに相手してもらえなかったんでしょう。それで、寂しくなって、ここに来たんでしょう」
「バッ、バカ言うんじゃねぇ! だいたいなぁ、ひとりは楽しいんだぜ!」
「またまた、そんな強がり言って。私には全部お見通しなのよ?」
エリザは笑う。
もちろん、からかうように、だ。
「なにが全部お見通しだ! ぜんぜん違うっての!」
「どこがどう違うのよ?」
「あ〜!」
ギルはイライラした様子で、ほえた。
そして。
「行くぞ」
強い調子で告げ、いきなりエリザの右手首をつかんだ。
屋敷の中は明るい。
灯りのせいだけではない。ひとがたくさんいて、にぎやかで、明るい雰囲気に満ちている。
今夜はこの屋敷でパーティが開かれている。
楽しそうな話し声や音楽も聞こえてくる。
演奏しているのは、屋敷の主のローデリヒ・エーデルシュタインだ。
美しく、それでいて軽やかな演奏である。
あの曲に合わせて踊ったら楽しいかもしれない。
そうエリザベータ・ヘーデルヴァーリは庭で思った。
けれども、エリザは踊らない。
たくさんのひとが集まっている大広間に行くこともない。
大広間にいるのは、華やかに着飾ったお客様。
自分はこの屋敷の召使いで、地味な色の服に白い前掛けという格好だ。
立場が違う。
今は、同じ屋敷内にいても、大広間には行けない。
しかたない。
でも、それでいいのだ。
気を取り直して、エリザは仕事にもどろうとした。
しかし。
「そんなところで、なにやってんだ、おまえ」
背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。ケセセセという笑い声つきだ。
確認しなくても、だれだかわかった。
だから、エリザは振り返りながら相手をにらみつける。
「なにやってたかって、仕事に決まってるでしょう?」
そこにいるのは、もちろん、ギルベルト・バイルシュミットである。
「仕事? してたようには見えねぇなー」
ギルはニヨニヨと笑う。
真面目な表情をしていれば男前の部類に入る顔立ちであるのに、そんな奇妙な笑い方をすれば台無しになる。
とはいえ、エリザはギルに忠告してやるつもりはない。
顔立ち自体はいいなんて褒めてやりたくない。
「あんたこそ、なにしてるのよ。招待客なんでしょう。ここはお客様の来るところじゃないわ」
素っ気なくエリザは言った。
眼のまえにいるギルは招待客らしく正装している。
それが似合っている。
格好いい。
なんて、絶対に、言いたくない。
「……あ〜、俺か、俺はだな」
ギルの歯切れが悪くなった。表情も気まずそうだ。
その様子に、エリザはピンときた。
「わかった。あんた、また、みんなに相手してもらえなかったんでしょう。それで、寂しくなって、ここに来たんでしょう」
「バッ、バカ言うんじゃねぇ! だいたいなぁ、ひとりは楽しいんだぜ!」
「またまた、そんな強がり言って。私には全部お見通しなのよ?」
エリザは笑う。
もちろん、からかうように、だ。
「なにが全部お見通しだ! ぜんぜん違うっての!」
「どこがどう違うのよ?」
「あ〜!」
ギルはイライラした様子で、ほえた。
そして。
「行くぞ」
強い調子で告げ、いきなりエリザの右手首をつかんだ。