踊りましょう
「え!?」
エリザは戸惑う。
その手をギルはなにも言わずに引っ張って歩きだす。
「ちょ、ちょっと、行くって、どこに行くの……!?」
引っ張られて歩きながら、エリザは問いかける。
けれども、ギルは答えず、エリザの手首を引っ張って廊下を歩き続ける。
わけがわからない。
だから、エリザはギルの手をふりほどこうとした。
でも、ふりほどけなかった。
エリザの手首をつかんでいるギルの力は、強い。
男と女の力の差だ。
それを感じて、昔は自分は男だと思いこんでいてギルとは男同士だと思っていた頃のことを思い出して、少し寂しくなった。
あの頃には、もどれない。
しかたのないことだけれど。
やがて、エリザはギルに引っ張られて大広間に足を踏み入れた。
大広間にいたひとびとのあいだから、ざわめきが生まれる。
それはギルを見てではなく、エリザを見てのことだ。
ローデリヒも演奏をやめ、戸惑いの表情をエリザに向けている。
場違いなのだ、自分は。
そうエリザは痛感した。
「ギル、手を放して」
まわりのひとびとに聞こえないよう小声で頼んだ。
だが、ギルはそれを無視して、どんどん歩き、大広間のど真ん中まで進んだ。もちろん、エリザをつれて、である。
「おい、坊ちゃん!」
ギルは立ち止まると、ローデリヒに呼びかけた。
「なんで、演奏、やめたんだ? これから俺様が華麗に踊ってみせてやるってときによ」
「ちょっと、ギル、なに言ってんのよ!?」
あくまでも小声でエリザは文句を言った。
すると。
「だーかーらー、華麗に踊ってみせるって言ってんじゃねぇか」
やっと、ギルがエリザのほうを見た。
「俺と、おまえで」
「はぁ!?」
思わず、エリザは大声を出してしまった。
しまった、と思った。
だが、出してしまったものは、しかたない。
こうなったら、もう遠慮はしない。
「なにバカなこと言ってんのよ!? 私の格好を見なさい! この格好で、ここにいて、しかも踊ったら、変でしょう!?」
「どこが変なんだ? ああ、わかった、昔みたいに男の格好がしたいんだな」
「ぜんっぜん違うわよ! この格好じゃあ、ダメだって言ってるの!」
「なんでだ?」
ギルは首をかしげた。
さらに。
「似合ってるんだから、いいじゃねぇか」
あたりまえのように、そう続けた。