東方無風伝 多分7
「くそっ」悪態を一つ。
辺りは信じられない程に暗い。ルーミアが生み出した闇は太陽の光を受け入れないために、闇しか此処にはない。自身の身体すら見えない程だ。
それでも耳を澄ませば風が木々を揺らす音が聞こえる。
空間転移に巻き込まれたというわけではなさそうだ。それには少し安堵。
わざわざルーミアが自分の間合いに入れてくると言うわけは、逃げる気なんて更々なくて、今この場で俺を仕留めようということか。
視界が完全に殺された今、不利でしかない状況。
さて、どうしたものか。
「貴方は私の闇から逃れることが出来て?」
ルーミアの声が闇に響く。
その声のおかげで一つ解ったことがある。それはこの闇が質量を持たないということ。
もしこの闇が、質量をもち壁をも作れる程ならば、俺はこの闇から脱出することが出来ずに、嬲り殺されることだろう。しかし、彼女の声はトンネルさながら反響することがなかった。見たところ彼女の力は強いわけではない。ただ走り抜けば、闇から脱出することは容易だろう。
「なぁルーミア。あんたは何処にいるんだい?」
「さぁ何処かしら」
ルーミアの楽しそうな声。この闇の中ならば自分が有利と思っているようで、彼女は本当に楽しそうにしているようだ。
確かに眼には見えないが、それでも気配は感じ取れる。特に、風、強いては空気の流れを操ることが出来る俺は尚更だ。
「わくわくしない? こんな深い闇の中で、生死を賭けたかくれんぼなんて」
「おーにさーんこーちらー、てーのなーるほーへー」
「うふっ。面白いわね」
ルーミアの笑い声に、遊びじゃないんだと突っ込んでやろうかと思ったが、悪乗りした自分がいるので、言えたことではないと気付いて止めた。
「それじゃ、鬼は人間を追いかけましょう」
ルーミアの声が消える。彼女の声と同時に、なんだかすぐ傍にいた彼女が消えたかのような錯覚を覚える。今まですぐ近くに立っていて、突然離れたみたいだ。
もしかしたら、そうだったのかもしれない。彼女は遊んでいるのだ。
さて、こちらはこちらで、お遊びは終わりとしよう。
彼女の気配を肌で感じながら、刀を構えた。



