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陽だまりの夢

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昔むかし大昔。俺こと鉢屋三郎は、遠き室町の世で、忍者なんて因果な商売をやっておりました。
 忍術の専門学校で育った俺は、スムーズに忍者になり、スムーズに任務につき、色々後ろ暗かったり血生臭かったりする現場を経験の上、つつがなく波乱溢れる一生を終えた。
 そんな俺も、時は移ろい、今は現代、一介の男子高校生とあいなった。どういうわけだか、当時の友人たちとは雁首そろえて、また同級生をやっている。

 俺と雷蔵は、今回は双子で生まれた。竹谷とは幼稚園で出会い、兵助は小学生の時に編入してきた。お互い、記憶があることはわかっていたが、憶えている内容はまちまちだった。兵助などはかなり飛び飛びだったし、竹谷は委員会や獣遁の動物たちのことに極端に偏っている。雷蔵と俺はどの時点のこともぼんやりと記憶しているといった風で、パズルの穴埋めをするように、互いの記憶を持ち寄って話したりした。ともかくも、俺たちは人生の早い段階で出会い、それからずっとつるんでいる。忍術学園にいた頃と同じように。

 同級生の最後のひとり、尾浜勘右ヱ門だけは、合流が遅かった。当時でさえ、実に十六年の行方不明を記録した男だから、そういうめぐり合わせなのかもしれない。
 兵助は、前世にはこだわっていないように見せながら、実はかつての同室者のことを相当恋しがっていたらしい。おかげで実際に顔を合わせた時は、ちょっとした騒動になった。
 そろって地元の高校に進学した俺たちが、固まって教室に向かったあと。先に教室に来ていた生徒のひとりが、よ、久しぶり、と手を振ってきた。言わずもがな、それが勘右ヱ門だったのだ。
 兵助の反応はと言えば、そこでぴしりと動きを止めたかと思ったら、まさかのぼろ泣きだった。普段の落ち着きは何処へやら。慌てる勘右ヱ門と兵助の頭を、もらい泣きした竹谷がまとめて抱え込み、雷蔵もそれに巻き込まれ、他人のふりをしようとした俺までつかまって、結果、教室中の注目を浴びる始末になったというわけだ。
 勘右ヱ門は、驚くほど変わっていなかった。相変わらず呑気で、食いしん坊で、放浪癖がある。今生ではなんと、木下先生の子どもになったらしい。あの人ってば、相変わらず頑固で困っちゃうよ、と楽しそうな顔で話した。
 そして彼は、学園を出てからのことを、ほとんど憶えていなかった。

*
「鉢屋―、一緒にかえろー」
 その日はたまたま部活もなく、暇な放課後だった。寄り道でもするか、雷蔵を待つかと考えながら鞄を取り上げたところで、勘右ヱ門がひょいと顔を出した。
 俺たちは今生でも委員会が同じで、そのせいもあってか、一緒に下校する率はそこそこ高かった。いつも、勘右ヱ門が飽きずに誘いに来るからだ。
 学校指定の紺のタイが、くつろげた襟元にゆるくひっかかっている。少し着崩したラフな制服姿、明るいブルーのスニーカーは彼のお気に入りで、歩くたびに、きゅっきゅっと軽快な音を立てる。その後ろを少しだるそうについていく俺は、鞄も靴も、ベージュと茶系でまとめたそつのない色合いだ。私服で歩いていると、俺は大抵大学生に、勘右ヱ門は年齢不詳に見られる。こいつは俺を見て、かっこつけてるなあ、といつもおかしそうに笑う。

 近さを基準に進学を決めた高校は、最寄駅から一駅で着く。天気のいい日、気が向けば、だらだら歩いても帰れるくらいの距離だ。俺はわざわざ歩くなんて面倒なことはごめんだったのだが、勘右ヱ門は知らない小道をのぞいたり、甘味屋をひやかしたり、野良猫を構ったりとふらふら寄り道するのが好きで、俺はよくそれに付き合わされた。面倒だから他の人間を誘えというのに、勘右ヱ門はなぜか頷かない。
「だって、鉢屋に付き合ってほしいんだよー」
 午後の住宅街は、あまり人を見かけない。コンビニの前で寝転んでいる野良猫の腹をくすぐりながら、勘右ヱ門はそんな風に言った。
「だから、なんで俺に言うんだ。竹谷とかなら、喜んで付き合うだろ。あいつ動物好きだし」
「竹谷と一緒のことも、そりゃあるけどさ。いいじゃん。俺、鉢屋と一緒に帰りたいんだもん」
 ふてぶてしい顔つきの野良猫を抱き上げて、勘右ヱ門はびろんと伸びた手足を面白そうに眺めている。彼はこういう、俺から見ればどうでもいいようなことを、ひどく楽しそうにする奴だった。放浪癖が治らなくて、今生でもふと目を離すとあちこちに行ってしまうのは、いろんなものに興味をひかれて、止まれなくなるからなのかもしれない。勘右ヱ門の携帯には、彼が出かけた先で撮ってきた写真が、いつでもメモリいっぱいに詰まっていた。

 ――これ、綺麗だろ。見て、見て。

 勘右ヱ門が前触れなしにメールしてくるその写真は、彼の視線で切り取られたもので、いつも、どこかやさしい光が差していた。彼には不思議な親しみ深さがあって、ふらふらとどこへでも行ってしまうのに、何年、何十年離れていても、昔と同じ顔で迎えてくれるような安心感があった。だからこいつは、初めて行った出先でも簡単に知り合いを作れたし、そいつらと一緒の写真を送ってくることも多かった。写真の中の勘右ヱ門は、まるで最初からその土地の人間だったかのように、楽しそうに笑っている。
 勘右ヱ門が猫を地面に下ろした。猫は大きく伸びをすると、そのまま彼のことなど忘れたように、さっと走り去っていった。勘右ヱ門は、それを寂しがるでもなく見送っている。なんとなく、似たもの同士という感じだった。
「まあ、どっちかっていうと、猫より狸っぽい顔だけど……」
「え、なにが?」
「いや。お前、木下先生に仔狸って呼ばれたことあるだろ」
「へっ。鉢屋、なんで知ってんの」
 ぽかんとする顔がおかしい。こいつは実際はそうでもないのに、作る表情はあきれるほど子どもっぽいところがある。
「狸って、寂しがりの習性とかあったっけ」
 俺が半ば本気で呟くと、勘右ヱ門は不満そうにふくれてみせた。
「なんだよそれ~。俺は、べつにさびしーから、誰でもいいから付き合ってほしいってわけじゃないの」
 それこそ、なんだよそれ、だ。俺は横目で、拗ねたようにそっぽを向く勘右ヱ門を見やる。
 それじゃあ、お前は他の誰かじゃなくて、俺に一緒にいてほしいのか?
 ……まさか。俺は胸の中に浮かんだ考えを、自分でかき消した。
作品名:陽だまりの夢 作家名:リカ