二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

DDFFパラレル(IF):ルゴルの酒

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

「そりゃ悪かったな……咽せもするって」
彼の肩を軽く叩いて、おれは幾つかの料理の名を酒場の店主に告げた。
「バッツ?」
「小腹もすいてくる頃だろ? 何かつまみながらゆっくり飲もう」
不思議そうな顔をしている彼は、あの神々の戦場でおれ達を励まし導いてくれた彼と同じ人物だとは思えないほどあどけない。
――記憶を失っていてもおれ達が今までやってきた経験まで失うことはなかったのに、どうも彼には戦い以外の日常的な経験というのも完全に抜け落ちている節がある。
(もしかして――彼は記憶を失っているのではなく、本当に何も知らないのかもしれない……)
ティーダがそんな事を言っていた。
戦闘に対して素晴らしいセンスを見せ、揺るぎないリーダーシップを見せる彼だが、日常的な事に関しては全く頼りない。
街に入って人の多さに驚いている様子からどんな田舎の出身だと思ったけれど、もしかしたらこんな街に来ることも初めてなんだろうか。
あくまでも推測でしかなく、確かめようもないことだけれど――。
「はい、出来たよ」
店主から差し出されたパンを受け取り、一つを彼に差し出す。
「ここの店のは美味いんだ。食べてみな?」
「だが……それは君が注文したものだろう」
「あんたの分も一緒に注文したんだから、食べてくれないと困る」
そう言うと彼は「そうか」と素直にパンを受け取った。
ちぎって口のなかに入れたとたん、彼は顔をほころばせた。
「……確かに、うまい」
「だろ?」
おれはグラスを手に取り、中身を半分ほど喉に流し込む。
「……強いんだな」
「んー、そうでもないけど……」
ここに座っていると思い出す――今はもういない人のことを。
彼からこの村の酒は美味しいのだと教えて貰った――。
「――バッツ」
黙ってしまったおれに何か感じたのか、彼が声をかけてくる。
「ここは、良い村だな」
静かにそう告げる彼に、おれは笑みを浮かべた。
「だろう?」
グラスを置き、ランプの光の中煌めく液体を見つめる。
――と、彼がおれの髪にそっと手を伸ばして触れてきた。
そのままなでなで、と撫でられる。
「……リーダー……?」
「ここは君にとって思い出深いところだったのだろう? 私たちが来てしまって……良かったのだろうか」
何か明後日な方向の心配をしているらしい彼に、おれは苦笑を浮かべた。
「嫌だったら連れてきてないさ。みんなに見て欲しい、知って欲しいから連れてきたんだ」
「……それなら、いいのだが」
ほっとした表情になった彼に、おれも安堵の笑みを浮かべる。

これが彼の新たな記憶となっていくなら、こんなに嬉しいことはない。





「……ここにいた」
そんな声がして振り返ると。
「ベッドにいないから何処に行ったのかと探しちゃったよ」
セシルとクラウドが酒場に入ってくるのが見えた。
「特に用という訳ではなかったんだが、姿を消したのが珍しい取り合わせだったからな」
そう言いつつクラウドがおれの隣に座る。
セシルはというと、光の戦士の彼の隣に腰を下ろした。
「……こいつらと同じものを」
躊躇無く注文するクラウドにおれはぎょっと視線を向けた。
「え、まさか」
「当然、おまえのおごりだろう」
クラウドは更にメニュー表を手元に引き寄せてたりする。
――確か、夕食しっかり食べてたよな、クラウド?
「……決定事項?」
そう言いつつセシルの方を向くと。
「バッツ、ごちそうさま」
セシルに笑顔で言われておれは撃沈してしまった。
「……私の分は自分で払うが……」
おれががっくり来ているのを不憫に思ったのか、彼がそんな事を口にする。
「――いいさ、ここに連れてきたのはおれだしな。全部奢ってやるっ!」
――クラウド、無言で拍手をするのはやめてくれ。




結局、宿代もおれが全部支払う事になってしまった。
「……バッツ、利子は高いぞ?」
さすがにレナやクルルにお金を借りると国に借金するという事になりそうだったので、ファリスに足りない分を頼る事にしたのだけれど。
「……お安めにお願いします」
「幾ら仲間でもそういうとこは甘くしないぜ?」
優しい仲間たちに涙が出そうだ。

皆を案内して回る間、一体どれだけの借金を作るのだろう――という事を想像して、立ちくらみを感じそうなおれだった。





END