その声も、唇も
*
夏休みに入ってからも、氷帝学園テニス部の練習は毎日行われていた。
この夏は全国大会への切符を取り逃がしたため、心機一転、技術・身体・精神のすべての面において鍛え直さなければならないと、日吉を初めとする二年生たちの誰もがそう思っていたのだ。
来年こそは、絶対に勝って全国へ──。ただ一つの、強い目的を掲げながら、練習に打ち込んでいた。
そんな矢先に、ひょっこりと舞い込んだ『全国大会出場』の知らせだった。
開催地枠というおこぼれに預かる形ではあったけれど、負けの悔しさを晴らせるのならなんだって構わなかった。それぐらい、勝つことに飢えていたのだ。
プライドの高い跡部を説得し、氷帝は再び戦いの場へと舞い戻る。
勝利の味を味わうために、悔しさを晴らすために。そして何より、氷帝の強さを全国に知らしめるために。
全国への切符を逃した責任も感じていた日吉は、リベンジの機会をもらえたことを本当に感謝していた。
──絶対に、優勝する。
氷帝学園が頂点へ立つにふさわしい学校であることを、全国の連中にアピールしてやるのだ。日吉の心の中は、その一心に燃えていた。
「おい、ジロー」
「なに? 跡部」
まだしばらくは試合ができる喜びにハイテンションをキープしていたジローは、跡部の呼びかけにニコニコと振り返った。
「あのな……」
珍しい内緒話でもあるのか、耳元の近くまで顔を寄せてきた跡部は、こっそりとある提案を持ちかけてきたのだった。
*
「着いた! ここだ、ここ!」
目的地の案内看板を指差して、ジローは大声をあげる。
電車を乗り継いでやってきたレジャー施設に、日吉と二人で遊びに来たのだ。
理由は単純。今日はテニス部の練習が休みなのである。
「全国大会出場が決まったからな。明日はコート整備のためオフだ。せいぜい、身体を休ませておけ」
という突然の決定事項に、日吉は肩透かしを食らった気分だった。
たくさん練習をして、それこそ休む間も惜しんでテニスに打ち込んでいたかったのに。強くならなければという、脅迫にも似た使命感を抱えている身には、オフなんか時間の無駄だとしか思えなかった。
けれど。
「オフなんて、きっと全国大会が終わるまで取れないよ。なぁ、ひよ。つーわけでさ、貴重な明日の休みにさ、二人で遊びに行かねぇ?」
ポッカリ空いた明日の予定をどうしようと悩む日吉に、ジローはいいタイミングで声をかけたのである。もう少し早くても遅くてもダメだった、まさに絶妙といえる間だった。
「……いいですよ。暇ですし」
「おお、やったー! あのさ、チケットがあるんだ、二枚」
そう言って鞄の中からゴソゴソ言わせて取り出したものが、現在遊びに来ているレジャー施設の無料招待券だった。
夏休みに入ってからも、氷帝学園テニス部の練習は毎日行われていた。
この夏は全国大会への切符を取り逃がしたため、心機一転、技術・身体・精神のすべての面において鍛え直さなければならないと、日吉を初めとする二年生たちの誰もがそう思っていたのだ。
来年こそは、絶対に勝って全国へ──。ただ一つの、強い目的を掲げながら、練習に打ち込んでいた。
そんな矢先に、ひょっこりと舞い込んだ『全国大会出場』の知らせだった。
開催地枠というおこぼれに預かる形ではあったけれど、負けの悔しさを晴らせるのならなんだって構わなかった。それぐらい、勝つことに飢えていたのだ。
プライドの高い跡部を説得し、氷帝は再び戦いの場へと舞い戻る。
勝利の味を味わうために、悔しさを晴らすために。そして何より、氷帝の強さを全国に知らしめるために。
全国への切符を逃した責任も感じていた日吉は、リベンジの機会をもらえたことを本当に感謝していた。
──絶対に、優勝する。
氷帝学園が頂点へ立つにふさわしい学校であることを、全国の連中にアピールしてやるのだ。日吉の心の中は、その一心に燃えていた。
「おい、ジロー」
「なに? 跡部」
まだしばらくは試合ができる喜びにハイテンションをキープしていたジローは、跡部の呼びかけにニコニコと振り返った。
「あのな……」
珍しい内緒話でもあるのか、耳元の近くまで顔を寄せてきた跡部は、こっそりとある提案を持ちかけてきたのだった。
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「着いた! ここだ、ここ!」
目的地の案内看板を指差して、ジローは大声をあげる。
電車を乗り継いでやってきたレジャー施設に、日吉と二人で遊びに来たのだ。
理由は単純。今日はテニス部の練習が休みなのである。
「全国大会出場が決まったからな。明日はコート整備のためオフだ。せいぜい、身体を休ませておけ」
という突然の決定事項に、日吉は肩透かしを食らった気分だった。
たくさん練習をして、それこそ休む間も惜しんでテニスに打ち込んでいたかったのに。強くならなければという、脅迫にも似た使命感を抱えている身には、オフなんか時間の無駄だとしか思えなかった。
けれど。
「オフなんて、きっと全国大会が終わるまで取れないよ。なぁ、ひよ。つーわけでさ、貴重な明日の休みにさ、二人で遊びに行かねぇ?」
ポッカリ空いた明日の予定をどうしようと悩む日吉に、ジローはいいタイミングで声をかけたのである。もう少し早くても遅くてもダメだった、まさに絶妙といえる間だった。
「……いいですよ。暇ですし」
「おお、やったー! あのさ、チケットがあるんだ、二枚」
そう言って鞄の中からゴソゴソ言わせて取り出したものが、現在遊びに来ているレジャー施設の無料招待券だった。