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Shall we dance ?

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初夏の遅い夕暮れが始まった頃、待っていた相手がようやく屋敷にやってきた。
エリザベータ・ヘーデルヴァーリはその知らせを聞き、来客が案内された部屋へと向う。
この広くて立派な屋敷はローデリヒ・エーデルシュタインのものである。
エリザはこの屋敷で召使いとして働いている。
だから、慣れている。
けれども、いつもとは違って落ち着かない気分で、長い廊下を歩く。
しばらくして、エリザは平静を装いつつ部屋に足を踏み入れた。
部屋には来客がいる。
ギルベルト・バイルシュミットだ。
「お」
エリザが来たのに気づいて、その眼が向けられた。
だが、エリザはギルの顔をあまり見ないようにして、まくしたてる。
「まえにも言ったけど、改めて言わせてもらうわ。今夜あんたと行くことにしたのは、あんたと行きたかったからじゃない。他に誘える相手のいないあんたに同情したからよ」
可愛げのない台詞だ。
しかし、言わずにはいられなかった。
なんだか気恥ずかしくて。
エリザはいつもの召使いの服装ではなく、華やかなドレスを着ていた。見事な刺繍がほどこされたドレスは、胸元が大きく開き、腰のあたりは引き締まり、そこから下のスカートはふんわりと広がっている。
これから舞踏会に行くのである。
舞踏会の主催者は、フランシス・ボヌフォワだ。
陽気で派手好きの彼は、ギルの悪友でもある。
フランシスはギルを舞踏会に招待した際、注文を付けた。
必ず女性をエスコートしてくること、と。
後日、ギルはためらいつつも招待状をエリザに見せて、おずおずした様子で、一緒に舞踏会に行ってくれないかと頼んできた。
しょうがないわねえ、とエリザは言って、引き受けたのだった。
そんなわけで、眼のまえにいるギルも舞踏会に行くのにふさわしい格好をしている。
ギルは黙っている。
なにか言い返してくると思ったのに。
エリザはいっそう落ち着かない気分になった。
いつもとは違う華やかな格好をしている自分は、ギルの眼にどう映っているのだろうか。
少し不安だ。
なにか言ってほしい。
だが、ギルは黙っている。
反応のなさにイラだちも感じ、エリザは思い切ってギルの顔を見た。
「なにか言ったらどう?」
「あ、ああ」
無言でエリザをじっと見ていたギルは、ハッと我に返ったような表情になった。
「えー…、あ、と、俺は、なにを言えばいいんだ?」
そう歯切れ悪く問い返されて、エリザはあきれる。
「あんたねぇ」
この男に期待したのが間違いだったらしい。
似合ってる、と言ってくれるとか。
褒めてくれる、とか。
ああ、でも、そんなことを期待していたなんて、言いたくない。
だから、エリザは別のことを口にする。
「あんたの悪友の招待につき合ってあげる私に対して、お礼を言うのが筋ってものじゃないの」
「あっ、礼か。ああ、そういえばそうだな」
「でも、お礼は、相手に言われてするものじゃないと思うわ」
エリザは言い終わると踵を返し、部屋から廊下へと出た。
もちろん、ギルは追ってきた。
すぐに追いついて、エリザの横に並ぶ。
「……すまねぇ」
ぼそっと、小声で謝った。
さらに、その腕を肘を少し折って、エリザのほうに差しだしてくる。
「わかればいいのよ」
本当は、わかっていない。
自分が言わなければ、わからないのだ。
でも、自分は言うつもりはない。
だから、しょうがない。
エリザは胸のうちで、ため息をつき、それから、差しだされたギルの腕を取った。









作品名:Shall we dance ? 作家名:hujio