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ガラスの靴

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 ガラスの靴が生まれたのは、お城の舞踏会が始まるほんの少し前、義侠心あふれる魔法使いのおばあさんがかわいそうなシンデレラに同情して「ビビデバビデブー!」と呪文を唱えてあげた時でした。
「まあ、信じられない!」
 嬉しそうにくるくると回り、煌めくドレスに感激するシンデレラ。その足に、ガラスの靴はありました。実はこの時すでに、ガラスの靴は特別な存在であったことに気づいた人は何人いたことでしょうか。馬や執事に変えられたのは、普段からシンデレラに良くしてもらっているネズミたちです。馬車は、庭先にあったカボチャでした。煌めくドレスは継ぎはぎだらけのボロでした。では、ガラスの靴は? そう。ガラスの靴だけは、違ったのです。ガラスの靴はまやかしの術で作られた幻想ではなく、魔法使いのおばあさんが気合をこめて「ビビデバビデブー!」と練成術で作った本物だったのです。
 え、なぜ全部本物にしないのかって? そりゃ、あなた。ネズミたちを人間のままにするなんて可哀そうすぎますし、ガボチャも生き物なのですから、馬車にしたままなんて迷惑千万でしょう。服全部を一から作るなんて時間もかかりますし、たくさんの魔力も必要です。魔法を使わないで手で作る方が、時間はかかりますが、しっかりしたものができるのですよ。
「おばあさん、ありがとう!」
 シンデレラが走っている馬車から身を乗り出して、魔法使いのおばあさんに手を振ります。おばあさんも軽く手を振った後に、杖を一振りして消えました。よく勘違いされるのですが、これは姿が消えただけで、どこかにワープしたわけでは決してないのです。そんな便利な魔法はありません。つけ加えると、魔法で姿を消したわけでもありません。額に傷がある魔法少年の物語でとても有名になった魔法具、透明マントをかぶっただけです。
「ああ、夢のようだわ……」
(おかあさん、僕、頑張ります!)
 馬車の中で、あこがれのお城へ行けるという夢のような出来事に、シンデレラは胸をときめかせています。一方ガラスの靴も、己に与えられた使命を果たさんと、決意をあらたにしていたのでした。
 大して整備されたわけでもない道を猛スピードで駆け抜けている割に、馬車は全く揺れません。それもそのはずで、一見、どこぞのお姫様か、と思われる夢のような馬車は、本当はまやかしで、魔法使いのおばあさん以上の実力を持った魔法使いが見れば、ネズミ達が必死に走る真似をしていて、カボチャの上にボロを着たシンデレラが乗っている姿が見えたことでしょう。そして、魔法使いのおばあさんがこめかみをピクピクさせながら、自身もシンデレラを追いかけつつ、全力の浮遊の術で浮かせて走らせているのも見えたことでしょう。その中で唯一、まやかしでもなんでもないガラスの靴だけは、きらりと確かに光っていました。
(おかあさん、頑張って!)
 ガラスの靴には、後ろで頑張っている魔法使いのおばあさんに声援を送ることしかできませんでした。
 この後、シンデレラは遅ればせながら舞踏会に参上し、王子様の目にとまり、一緒に踊ることになります。実はこの時が、ガラスの靴に任された最大の使命を果たす時だったのです。何と言ったって、ガラスの靴はガラス製です。本来であればショーケースの中にでも飾っておくべきデリケートな代物なので、これをはいてワルツなんぞ踊った日には、持ち主は血が出るような痛い思いをした挙句に周り中の笑い物になってしまいます。魔法使いのおばあさんは、ガラスの靴を自ら作り、魂を与えることによって、ガラスの靴で踊るという暴挙、いや、難題をクリアーしようとしたのです。
(ふうふう、ひいひい)
 ガラスの靴は悲鳴をあげながらも、なんとか夜の十二時まで、持ちこたえることができました。ガラスの靴は使命を果たしたのです。しかしシンデレラと王子様は、本当に踊りが下手でした。素人のシンデレラはしょうがないとしても、王子様がこれではおいそれと社交の場に出られないでしょう。もしガラスの靴に魂がなければ、王子様は三十九回ステップを間違えて、シンデレラを二十一回、転ばせていたでしょう。しかし本当にガラスの靴に魂がなかったら、そのことが起こる以前に、ガラスの靴は粉々に砕けてシンデレラの足にぐさぐさと刺さって悲惨なことになってしまっているでしょうが。
 夜の十二時になって、シンデレラは魔法使いのおばあさんの言葉を思い出し、慌てて王子様から姿を隠します。
 その時にコロッとシンデレラの足から脱げてしまったのは、本当にうっかりしたことだとガラスの靴は思っていました。というのも、今まで頑張ってきた魔法使いのおばあさんがお城の庭で力尽きて倒れてしまって──もちろん、透明マントで透明になっていました──ガラスの靴はそちらに気を取られてしまったのです。
(ああ、僕は何て失敗をしてしまったんだ……)
 王子様の手の中で、ガラスの靴は海よりも深く悔やんでいました。ですが、次の瞬間には王子様の一言で救われました。
「これであの女性を探せる!」
 力尽きて倒れ伏している魔法使いのおばあさんが──もちろん透明です──ガラスの靴に、ナイスプレー! と親指を突き出していました。偶然なのですけどね。
作品名:ガラスの靴 作家名:小豆龍