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【米英】Till death do us part

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 なにげなくつけたテレビをなんとなく観ていたら、無性にあの人の声が聴きたくなった。ソファの上に放り投げていた携帯を取ろうと右手を伸ばしたところで、その手にリモコンを握りしめたままだったことに気がつく。どれだけ熱心に観ていたのかと自らに苦笑する。
『アメリカか。どうした?』
 タッチパネルを操作して相手を呼び出すと、意外にも彼は二回目の呼び出し音で出た。もしかしたら着信に気が付かれないか、気づいてもスルーされるかな、と思っていたのだけれど。
「うん。イギリス、今、大丈夫かい?」
 電話に出てはくれたけど、彼――イギリスは忙しいだろう。今日は二〇一一年四月二十九日、彼や彼の国民にとっては歴史に残るほどの特別な日だ。ロイヤル・ウエディング――国民の休日となったこの日は、そう名づけられたということだった。
『大丈夫だ、ちょうど昼食会が終わったところだからな。七時からの夜会まではまだ時間があるから、ちょっと庭で休憩していたところだ』
 イギリスは電話を続けることを許可すると、ちいさく息を吐いた。時計を見ると、午前十一時ちょうど。ロンドンは今、午後四時か。朝からバタバタしていて、やっと息を抜けるときが来た、という感じなのかもしれない。
「朝のニュースで観たぞ、結婚式」
『おお、そっか。すげえいい式だったよな』
 とたんに彼は嬉しそうな声を出した。どうだ、と得意げな顔をしているのが目に浮かぶようだ。何となく素直に頷きたくなくて、そうだね、と返してから続ける。
「君のところらしく、堅苦しくて古臭くて地味でおまけに質素な式だったけどね! 今どき馬車とか乗っちゃってさ。どうせなら、オープンカーで空き缶ガラガラさせるくらいやってくれよ」
 案の定、イギリスは怒鳴りつけた。
『厳かで伝統的で慎ましいって云え、ばかぁ! それと簡素なのはしょうがねえだろ、王子の意向で、うちもまだ経済が厳しいから国民的な式をしようっていうことだったんだよ』
「ふぅん。でもまぁ、良い式だったんじゃないかい?」
『お前、褒めてんのか貶してんのかどっちだよ……』
 心の底から判断に迷ったようで、彼はため息交じりの声を出した。
「俺なりに褒めたつもりだぞ」
『そうかよ……?』
 イギリスは疑っているようだったけれど、……うん。実のところ、馬車でロンドンを回ったというのは驚いた。古めかしいことにじゃなくて、警備上の話だ。テロの心配もあっただろうに。
 護衛がいるとはいえ、俺のところとは違って、どうせたいした武器を持っていない人たちだ。一国の王子が国民の前に無防備な姿をさらけ出せるのは、やはりイギリスという国だからだろう。銃ひとつで何人もの要人が殺された俺の家ではありえそうにないことだ。
「そんな素晴らしい式典の間、もちろん君は泣いたんだろう?」
『ば、ばか。んなことねー……』
 自信を持ってたずねると、彼はぎくりとしたのが手に取るようで、どもりながら否定する。けれどそれが嘘なことを俺は知っている。
「隠しても駄目だぞ。カナダが見たって云ってたから」
 式に参列していた、そしてこれから夜会にも出るのだろう兄弟の名を出すと、イギリスは認めざるを得なくなった。
『えっ、カナダのやつ、そんなことを……だ、だって、どうしたって感動すんだろ。王子のことは生まれたときから知ってるし、ほら、色々あったからさ』
 色々、が何を差すのかは、俺にも想像がつく。王子の母親のことだ。彼女が亡くなったとき、イギリスの落ち込みはそれはひどいものだった。国民の嘆き哀しみをすべて背負ってしまっていたのだろう。そんな彼が立ち直れたのはまだ幼い王子たちの存在があったからだという。
「うん。……俺も生で見たかったな」
 ふと呟くと、イギリスは意外そうに、へえ、と云った。
『……珍しいな。お前がうちの王子の結婚式そんなに見たかったなんて……でもしょうがねえだろ、お前はうちの連邦じゃねえんだから』
(違うよ)
 俺は心の中で答える。イギリス、君は俺が王子の結婚式に興味あると本気で思ってるのかい? 答えはノーだ。
『でもそうだな、お前が英連邦にどーしても入りたいから入れさせてくださいって泣いて頼むなら、次の機会には呼んでやっても……』
「やーなこった。っていうか何だいその変態くさい条件……。それにむしろ逆で、俺が見たかったのは、君が大泣きしてる姿だぞ」
『えっ』
 イギリスはぽかんとした様子で返事した。
「君のことだから、涙でぐずぐずになってたんだろうね! それを生で見たかった、って意味だぞ」
『ば、ばかあー!』
 その顔は今は真っ赤になっていることだろう。本当に表情がころころ変わる人だ。
(ごめんよ、カナダ)
 電話口の前で怒っているイギリスにではなく、俺はカナダに謝る。――彼と最後にコンタクトを取ったのは、数週間前だっただろうか?
 幸せそうに微笑を浮かべながら泣いているイギリスを主賓席の中に見たのは、ほんの数十分前のことだ。
 液晶画面の向こうにちいさく映っていた彼は、静かに涙を流していた。それはほんの一瞬で、すぐに画面が切り替わってしまったから、その後に彼がどうしたのかは分からない。でも想像はつく。きっと満足そうな顔をして顔を拭ったんだ。
 それは奇跡のようだった。何百人、それ以上にいる中で、彼を、彼の頬を伝う涙を見た人が何人いただろう? でも俺は気がついた。そして思った。
 ――どうして彼にあの顔をさせているのは俺じゃないんだろう?
 そう思ったときには、携帯に手を伸ばしていた。
(君の隣で、泣いている君の手を握り締めたかった。もちろん、元弟としてでも元子としてでもなくね)
 ……まあ、こんなことはやっぱり云えるはずがなかった。そうして結局、いつも通りの会話だ。
「……」
 俺もイギリスも黙ってしまったから、ふたりの間に空白がよぎる。機嫌を損ねさせたかな、と次の言葉を探していると、彼はおもむろに言葉を紡いだ。
『……死がふたりを分かつまで、変わらぬ愛を誓いますか』
「えっ?」
 思わず聞き返す。けれどそれは聞き間違いではなく、式で聞いたばかりの牧師の文句だった。そう分かったのは、イギリスが感心したように云ったからだ。
『人間ってすげーよな。死ぬまで愛を誓う、とかなかなか云えねえよ』
 俺はほんの少しだけ考えた。
「そうかい? 俺は云えると思うぞ!」
『お前なぁ……』
 ハアアア、と盛大にため息を吐かれる。これだからガキは、とでも云わんばかりだ。
「ちょっと何だい、その胡散臭そうな声。俺はヒーローだからそんなの当然だよ!」
『簡単に云うなよ。死ぬまでだぞ? そうそう出来ることじゃねえだろ』
 諭すように云われ、まぁね、と頷く。
「そりゃ、楽じゃないだろうね」
『だろ? ケンカだってするだろうし、危機だってあるだろうし……』
「そうだね。数えきれないくらいあるだろうね」
『だよなぁ。それだけ相手を信じられて誓えるってすごいことだ。ちょっとうらやましいよ、あいつらが』
 イギリスの云いたいことは分かる。ましてや人間と国は生きる時間が違うから、同じようにはいかないということだろう。それでも。
「……でも、俺は云えるぞ」
『アメリカ……』