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永遠に失われしもの 第9章

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レオ・アウグスト・オレイニク公爵
 ポーランドからの亡命貴族で
 現住所マントヴァ郊外

 ・・・・・

 ラウロ警部は軽々と、
 ディンギルテッラホテルの最上階である
 六階まで階段で上る。

 まだその肉体は
 三十代の若さを健康的に保っているし、
 日々の鍛錬にも勤しんでいる。

 さすがに、シエルたちの泊まる
 エグゼクティブスィートルームの前では、
 一度大きく息をついたが、
 もう平然とした様子で、
 栗毛色の髪を整え、服を直して、
 扉をノックした。


 中から「どうぞ」という
 美しいテノールの声が聞こえて、
 扉を開くと、
 ラウルは驚嘆してその場に立ち尽くした。

 まさに、
 それは一枚の絵画のようだったのだ。


 金髪で海の底を思わせるような青い瞳の
 繊細な美貌と可憐さを持ちながらも、
 何処かしら物憂げな雰囲気を持つ少年が
 椅子に深く腰掛け、肘掛に肘をつき、
 頬杖をつきながら、こちらを見ている。
 
 その傍らには黒い燕尾服を身につけた
 黒髪の青年執事が立っているが、
 その妖艶で耽美的な美しさは、
 見ている者に寒気すら
 感じさせる程だった。


 なにも言えずに唾を飲み込むラウルに、
 表情一つ変えずに
 漆黒の執事が話しかけた。


 「ローマ警察のラウル刑事さんで
  いらっしゃいますね?

  今先ほどフロントから
  連絡がありましたが、
  こんな夜更けに如何なる用事で?」


 事件のことを思い出し、
 気圧されてる場合じゃないと、
 内ポケットからメモを取り出しながら、
 ラウルは答えた。 
 

 「失礼ですが、今日の午後の
  エット-レ枢機卿の謁見記録に
  オレイニク公爵のお名前を
  拝見しましたので・・・

  ぜひその際のお話を
  お聞かせ願えればと思い」


 「どのようなことが
  お聞きになりたいと?」


 「単刀直入に聞きますが、謁見の目的は 
  何でしたか?」

 
 「教えられないな」


  シエルが不敵な表情で微笑しながら、
  ラウルに答えた。


 「貴殿、令状はとっているのか?」


 「いえ、令状を取ってまた出直して
  貴方にご足労願っても良いのですが、
  お互い、それでは面倒でしょう?」


  ラウルも負けじとばかりに
  微笑み返している。


 「貴殿の所属は?」

 「ああ、申し遅れました、
  私はローマ警察凶悪犯罪課の
  主任刑事を勤めています
  ラウル・カネッティと申します。
  ラウルで結構です」

 
 「ラウル刑事か、
  貴殿のように若い時分に、
  そのような役職につけるというのは、
  さぞかし大層なコネがありそうだ」

 「ええ、まぁ」

 「そのコネを使えば、
  この後すぐにでも令状を取り直して、
  また来るというわけか」

 「遅くても今晩中には」

 
 シエルは、セバスチャンを見上げて
 目配せした。