永遠に失われしもの 第9章
「先輩もう、行っちゃうんすか?」
ベッドに寝たまま、天井から足を片方吊られて、窮屈な姿勢ながらも、
上体を起こしているロナルドが、
立ち去ろうとするウィルの背中に向かって呼びかける。
「庶務課の女のコに、
差し入れ持ってくるよう、
言っといてくださいね~」
「有給休暇の手続きはして
おきましたので、貴方はゆっくり休んで、
早く戦線に復帰してくださいね。
ただでさえこの人手不足に、
これ以上の人員不足はたまりませんから」
「了解ッス!」
ロナルドの病室をでて、死神派遣課協会に
戻るウィルは、考えていた。
・・すみません、ロナルド・ノックス。
あれは、私のミスでした。
私としたことが、あの害獣から一時でも
目をそらすとは・・
アレには必ず、このつけを
支払っていただければなりませんね・・
獣を仕留めるにはエサでおびき寄せ・・
・・・・・・・・
「ウィル、戻ったのォ~~?
ロナルドの様子どうだった?」
紅いコートを靡かせながら、
風に揺れる枝のようにしなやかに、
グレルはウィルに近づいて話しかけた。
「ちょっと、貴方、これじゃ通りませんよ、
ちゃんと書式は守ってください」
ウィルの机に置かれた、グレルの報告書と
始末書をグレルに突っ返しながら、
ウィルは眼鏡の奥から睨んだ。
「ェェエ~~もう一回書き直し???」
グレルはがっくりと、
紅いコートからはみ出た白シャツ
に包まれた肩を落としている。
「それから、
セバスチャンがかすめとった魂の
一連の詳しい報告書も、
明日朝いちで、お願いします」
「ヒ~~~~、無理ョッそんなのッ
徹夜はお肌に悪いんダカラッ!!」
「ロナルドに任せていたのですが、
彼はいないので」
「・・・今度ウィルがデートしてくれるなら
やってあげてもイイけどサ・・」
「死神管理情報処理の試験勉強くらいなら
つきあってあげます。
同期で、受かってないのは
貴方だけですからね」
グレルは、眼鏡を中指であげるウィルの
周りを、じゃれつく子犬のように
喜びながら小躍りして回った。
「さて、新しい作戦を展開しますので、
貴方は出かける準備をしてください。
飼い主を先に捕まえて、
アレをおびき寄せます」
「ラブリーなアイデアじゃナイ?
ァ~・・・でもあのガキのために
命を賭けて、助けにくるセバスちゃん・・
嫉妬の炎で、アタシ燃え尽きソウ・・」
「くれぐれも、飼い主は囮ですから、
捕まえるだけでお願いしますよ。
私情をもちこんで、狩らないように!」
「ファーイ」
手を上げ、背筋のストレッチをしながら、
グレルはウィルに答えた。
作品名:永遠に失われしもの 第9章 作家名:くろ