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シュレーディンガーの猫・白に映える銀

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「あれ?沖田君コレ、目釘浮いちゃってるよ」

 緊張感の欠片も無い矢鱈とのんびりした声で、そう指摘された。
 けれどそれにはもう随分前から気付いていたので、然程驚く事でも慌てるべきでもなく。

「マジでか。そろそろとは思ってやしたけど…でもこれから仕事だし、当分手入れは無理ですかねェ」
「…なんなら今、ウチでやってく?」
「良いんですかィ?」
「別にこっちは構わないけど。えーと待ってろ、確かこっちに道具一式が…」
「それなら旦那、お願いしまさァ」

 予想外の申し出に、それなら序でにと刀をずい、と眼前に突き出した。

「え?何。何なのその手は。若しかしてそれって、銀さんがやれって事?銀さんにやれって事?」
「他に誰が居るってんですかィ。旦那なら慣れたもんでしょ」
「まあ確かにやれねー事はねぇけど。でも沖田君、そうそう簡単に他人に刀を触らせるモンじゃあねぇと思うけど?」
「それは旦那だからでさァ」
「あ、そ」

 そういってぼりぼりと頭を掻きながら、奥の和室へと入って行く銀髪の男の背中を、すうと目を眇めて見送った。
 本来なら、男が云う様に半身とも云える刀を、他人に触らせる様な真似などしない。
 けれどただ単純に、そう、まっさらで無垢な子供の様にただ純粋に、興味を抱いた。
 この男が、どんな形であれ刀を扱う姿を、見てみたいと思った。
 ただ、それだけの話。




 武骨な手が淀み無く動いて、鈍く鋭い光を放つ刃身が姿を現した。
 天井から降り注ぐ人口の光を浴びて乱反射する刃を、それを持っている人物を見て、沖田はうっとりと目を細めて眺めた。
 ―――随分とまあ、様になっているものだ。
 自分の刀がまるでこの銀髪の男のものの様に、そう映る程には、男に刀は合っていた。
 (きっとこの男は、それを厭うのだろうけれど)
 手際良く作業を進めて行く男を盗み見ながら、勿体無いと、純粋にそう沖田は思った。
 何の捻りも皮肉も無く率直に、唯ひたすら真っ直ぐな想いで、残念だと。

 (ああけれども、それこそ彼が、)


 そうして沖田は、背ける様にそっと目を伏せた。


end.