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不二菊log

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11月1日



部室に入って開口一番。
目に映る白いふわふわの物体。
侮り難し、菊丸英二。
今日も今日とて波乱万丈、退屈しない日々が続いていく。


「わうん!おっはよー!不二!」
「………何ソレ英二。ハロウィンはもう終わったよ?それとおはよう」

昨日散々騒いだだろう、そんな目で見返すと、悪戯っこ代表はにやん、と笑った。
そうして一言、今日は何の日だーっ?と。

「…11月1日?」

律儀にそう答えると、嬉しそうに正解だと笑う彼に苦笑。
尻尾が本当に左右に揺れてそうだ。
目の前の菊丸は、白い犬(それでも彼に言わせれば狼らしい)の着ぐるみを被っていた。
知人から譲り受けたというそれは安物ながら手触りがよく、もさもさとした毛につい埋れたくなる程の質の良さだ。

昨日、菊丸はそれを着ていた。
お祭り好きの青学テニス部は、例に漏れずハロウィンという企画にがっついた。
何だかんだで最終難関である手塚を丸め込み、練習を早めに切り終えて、おまけに汗臭いのは嫌だとシャワー室まで借りる始末。
その騒ぎを聞きつけて、他の部活の連中すらも巻き込む大騒動となったのだ。
そんな訳で、先陣を切ってはしゃいでいた菊丸は、だから今日は流石に大人しくしているだろうと思っていた不二の予想を軽く裏切った。
まだお祭り気分が抜けないのか、彼にしては珍しい事だと思い、先程の会話の続きを目線で強請った。

「今日は犬の日なのです!」

その視線の意味をきちんと理解した菊丸は、腰に手をあて、どうだ驚けとばかりに踏ん反り返って言い放つ。
だから何だという顔をすれば、昨日使ったコレが目に入って丁度良かったから、とらしいといえばらしい、けれども理由にもならない返答が返って来る。

「手塚が来るまでに、ちゃんと脱いでおきなよ」

続々と入ってくる部員達を驚かせながら、入り口の前で待ち伏せをしている菊丸に、一応一言告げておく。
この中にちゃんと着てるから大丈夫ー、と何処か見当ハズレな答えを聞きつつ、不二は着替えに専念した。


一通り悪戯し終えたのか、スッキリした顔の菊丸を、ドアの前、入り口を開けて不二は待っていた。
案の定手塚に小言を喰らった菊丸は、それでも始終笑顔を絶やさなかった。
ぷはっと大きな犬の形の被り物を取ると、猫の様な仕草でふるふると頭を振る。
相変わらず気難しい親友だな、とぼんやり頭の隅で思いながら、今日は何を思ってこんな行動に出たのだか、と遠く澄み切った秋晴れの空を目を眇めて眺めた。

目の前の赤毛の親友は、意外と複雑に出来ている。
それを単純に面白いとも思うし、飽きないなとも思う。
大家族の末っ子らしく我侭で奔放、そして素直で柔軟なその思考は、シンプルだからこそ難解で、それがかえって不二を楽しませた。
そして同時に、ふと思う。感じる。
それは表現しようの無い、言い知れない感情だけれど、けれども決してどろどろとした、己の根底を引っ繰り返す様な全てを呑み込んでしまう様な、黒い闇の様なものではなくて。
一つ小さな溜息を溢すと、おまたせ、と菊丸が遣って来た。
あれ、洗い直さなきゃねえ、という声に、そうだねと当たり障りの無い返事を返して。
白い着ぐるみをいつまでも眺めている菊丸に、そんなに名残惜しいのかと訝しんで、けれども彼の微笑む顔に、そうではないと思い直す。

「最後だしね」

そう言ってすっと横を通り過ぎる菊丸を慌てて目で追い駆けて、その後姿に眩しいものを、みる。
目を細めて取り溢さぬ様眺めても、逆光では輪郭すら朧気だ。
それを心底羨ましいと思いながら、来年もあの着ぐるみが使われる事を不二は祈った。


end.
作品名:不二菊log 作家名:真赭