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ヨギ チハル
ヨギ チハル
novelistID. 26457
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After the party

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 端末から聞こえた声がルーファウスのものでないことに、ツォンはいささか驚き、眉をひそめた。彼が他人を部屋に入れることなどない。友達も女もいるが、部屋に入れることなどありえなかった。ツォンでさえ、ルーファウスの自宅の中まで入る事は数えるほどでしかない。
「友達の部屋にいておかしいか」
『ルーファウス様を抱いたのか』
「まさか。友達を抱くわけがないだろう」
 ツォンの下衆な言い方にセフィロスは溜息をついた。
『ルーファウス様は』
「風呂にいる」
 バスルームからはまだ水音が聞こえる。ルーファウスが出てくるまでもうしばらくかかるだろう。
「ツォン。あいつの護衛なら、もっと近くで守ってやれ。護衛はお前たちの仕事だろう。俺の仕事じゃない」
『パーティーで何かありましたか』
「気づいていたくせに。ほうっておいたのか」
『あれもルーファウス様の仕事の一つですから。私どもが口出すことではありません』
「いけ好かんな」
『あなたと相容れることが出来ると、思ったことなどありませんよ」
 ツォンとつまらない話をしているうちに、ルーファウスがバスルームから出てきた。白いバスローブに、濡れた髪のままだ。頭にタオルを被ったまま、ペタペタとスリッパで部屋を歩き回る。冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのボトルを取り出すと、そのまま口をつけた。
「ルーファウス」
セフィロスが端末を投げると、空いている片手でルーファウスは器用に受け取った。
「なんだ。ツォン、来ていたのか」
『午前の会議に出席していただかねばなりませんので、お迎えにあがりました』
「わかった。一〇分待て。車を回しておくように」
『はい。それでは』
 必要なことだけを口にして、ルーファウスはプツリと端末を切る。
「ツォンと話したのか」
「あいさつ程度だ」
「そうか」
 バサバサと乱雑に髪をタオルで乾かしながら、ルーファウスはセフィロスに背を向けたまま言った。
「なぁ、セフィロス。お前、迎えに来いよ。必ず。昨日乗ってきた車で」
「あぁ」
「助手席、開けておけ」
「わかった」
「いつも運転席の後ろだからさ。助手席って新鮮なんだ」
「そうだろうよ」
「あと、何か音楽見つけておくよ。お前が好きそうなの」
「よろしく頼む」
 そうこうしているうちに、ルーファウスの支度が終わったようだった。いつもの白いスーツに、黒いハイネック姿。髪もお決まりのように後ろに撫でつけていた。
誰もが知る、ルーファウス・神羅の姿だった。
「先に行く」
「鍵は」
「オートロックだから閉めれば勝手に鍵はかかる。けど」
「けど、なんだ」
「スペア持っているから。持って帰ってもいいぞ、鍵。」
「なんだそれ」
「解れよ」
 ふふ、と笑ってルーファウスは軽く手を振った。
「また連絡くれ。じゃあな」
 バタン、とドアが閉まり、そのあとオートロックのかかる音がする。セフィロスの手の中にはカードキーがあった。
主のいない部屋にセフィロスはひとり残されたが、寂しい気持ちは不思議となかった。


* * *


日常とかけ離れた生活をお互いしていた。初めて出会ったのは、神羅ビル内にある研究施設の一角だった。ルーファウスは父親に連れられていた。巨大なガラス張りのケースや、得体のしれない薬品類や機材。見たこともないモンスターたちが檻の中にいて、恐ろしい唸り声をあげていたのを覚えている。その中で、似つかわしくない一人の子供がいた。銀髪の少年。それがセフィロスだった。その時はあまり話をすることもなかったが。当時のルーファウスは彼も研究員の子供かなにかだと思っていた。今思えば、親に連れられた子供というルーファウス自身がイレギュラーであり、セフィロス自身は研究対象の一つだった。だが幼いルーファウスとセフィロスにそんなことはわかりもしなかった。
あれから十数年たち、一人は会社の役員として、一人は神羅を代表する英雄とまで持て囃される最強の兵士となった。しかし実際のところは偶像という役割を背負った人形だった。本来ならば、歳相当に学生生活を満喫するだとか、もっと遊びに出るだとかしていたことだろう。環境が違うと言ってしまえばそれまでだ。立場は違えども、お互い持つ感情は同じだった。周りには黒服の男たちや、白衣の研究者たち、神羅カンパニーという巨大な化け物にかかわる大人たちしかいなかったから。ルーファウスとセフィロス。二人が近付いたことは、何の不思議もなかった。世間でいう普通とは程遠い生活をしていることを悲しいと思ったことはないが、それでも寂しさは残る。

寂しさを埋めたいわけではない。
理解をしてほしいわけではない。
ただ、そこにいてほしかった。
上司だとか部下だとか。
あるいは立場だとか、環境だとか。
そんなものはどうでもよかった。
ただ、『友達』でありたかった。
真似事だとわかっていた。
それでもよかった。
深読みもされず、裏もかかれず、
単純に馬鹿話をして笑いあえるような友達でありたかった。
本当に、それだけだった。


* * *


「次に来る時には、豆も買ってこなければな……」
そう独り言を言うと、セフィロスはカードキーをスロットに差し込んだ。



【終】

作品名:After the party 作家名:ヨギ チハル