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ヨギ チハル
ヨギ チハル
novelistID. 26457
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IGNITION, SEQUENCE, START

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「いえ、似てはいますけど。【琉球空手】っていうんですよ」
「リューキュー?」
聞いたことがない、とグラハムはアキラの顔を見つめた。
「はい。琉球っていうのは、沖縄の昔の名前です。琉球王国っていうのがあって、そこで発展した古武術って言ったらいいのか……まぁ、格闘技の一種なんです」
アキラが元ユニオンの沖縄基地に在籍していたことは、グラハムも知っていた。基地がおかれている土地ごとに、余興のプログラムが違う。地元住民との交流もある。グラハムもいつだったか催された基地でのフェスティバルで、一糸乱れぬ空手演武を見たことがあった。イベントがあるとなかなかに人気の演目である。だからグラハムにもある程度の想像はついた。
「誰に教わった?」
「じいちゃ、いえ、祖父に。タケイ家の男は皆やるものだって、ガキの頃から仕込まれました」
「【空手】とは違うのか?空手も柔道と同じように、胴着を着て畳の上で行うだろう」
グラハムの興味は尽きることがないのか、顔を近づけてアキラへ次々に質問をぶつけてきた。
「【空手】は流派にもよりますが主に突き・蹴りがメインです。対して【琉球空手】は掴みと投げが許されるんです。だから空手と比べると、武道というよりも、もっと格闘技に近いものかもしれないですね。厳密にいえば琉球空手は【手(てぃ)】で【空手】とは違うなんて言う人もいますけど。まぁ、細かいことはよくわからないです」
「ふうん、面白い。ブレイヴにも使えそうだな」
また何かこの人は思いついたのか、とアキラはグラハムを見やった。
「えぇ?でも、さっきのは、まぐれですよ」
「しかし私はその『まぐれ』に倒されたのだぞ?MSだって人型だ。人体の構造を知っていた方が、戦いにおいて有利なのはわかるだろう。特に格闘戦になれば、な」
「そういうものですか」
「そういうものだよ。他の隊員にも教えてやってくれ」
仲間が待つ場所を見やると、彼らの何か言いたげな顔がここからでもよくわかる。あそこに戻ったら何を言われるかわかったものではない、とアキラは溜息をついた。
「……でも、正攻法で隊長に勝てる気がしません」
「そうか?私はますます自信を持ったがね。君をこの部隊に呼んで、本当に良かった。期待しているぞ、ソルブレイヴス」
「あ……」
グラハムは眼を細め、白い手袋をはずすとアキラに向かって手を伸ばした。
「改めて。よろしく頼むぞ、アキラ・タケイ」



―――IGNITION, SEQUENCE, START












「隊長」
「なんだ」
 握りしめていた手を放す。数々の逸話はあれども、自分と変わらない一人のMSパイロットの、一人の男の手だと改めてアキラは感じた。
シミュレーターを離れて、グラハムとアキラは四人が待つ大型モニタの前に向かって歩いていった。ここで話していても恐らく彼らには聞こえないだろう。グラハムのあとを追いながら、彼と直接関わったならば、一度は聞いてみたいと思う事をアキラは自然と口にしていた。
「隊長は、どうしてMSパイロットになったんですか」
「またその話か?この話をするのは何度目かな」
「気分を害されたなら、謝ります」
「いや、そうじゃない」
 ふ、とグラハムは笑った。
「何か高尚な目的があって、パイロットになったのではないのだよ。本当に。君たちは何か期待をするかもしれないが、特別理由があるわけじゃない。飯を食うためさ。貧しく、学もなく、行き場もない。何がしたいではなく、何ができるかを考えたら選ぶほど選択肢などなかったよ。それでも軍が受け皿になってくれたのだから、私はラッキーだった」
「え」
「言ってなかったかな。私は孤児でね。十八までは孤児院の世話になれるが、そこから先は独り立ちしなければならない。衣食住が約束されていれば、その他のことは、なんとでもなる」
 予想していた答えとはまるで違うものが返ってきたために、アキラは返答に困った。
「君は?アキラ」
「いや、なんていうか…。隊長の話聞いていたら、恥ずかしくて言えやしない」
「どうして」
アキラは笑わないで下さいよ、と前置きをしてから話し始めた。
「俺、ユニオンの機関誌で、フラッグが正式に採用された記事を読んだんです。これが空を飛んだらどんなにかっこいいだろうって。記事にはハンガーに納まっている飛行形態の写真しか載ってなかったから」
 今でも思い出せる。鎮座するフラッグの姿。わきには設計図らしきMS形態の図もあった。そしてテストパイロットを引き受けていた、若き日の、グラハム・エーカーの姿もそこにあった。
「高校生だった俺は、絶対フラッグのパイロットになるんだって、母親や友達にまで言いふらして……。我ながら恥ずかしいです、本当」
「でも君は有言実行したじゃないか。オーバーフラッグスの隊員にも選ばれた。今はこうしてソルブレイヴスの一員だ。誇れることだよ」
「ええ。まぐれでも」
 まぐれでMSパイロットになれるなんて、アキラもグラハムも思っていない。そこには血反吐を吐くような訓練と、上下関係。それでもパイロットになりたいというただ一つの望みのために、歯を食いしばってついて行く。それを知っているから、お互い笑える。
「しかし君は、軍に入ったらまずい飯を食べ続けることになる事を考えなかったのか?」
「そんな事、全然考えたことなかったです」
「はっはっはっはっ!」
 グラハムは声に出して、さもおかしそうに笑った。
「君は素直だな。軍に入りたい者など、よほど酔狂な者か、経済的な理由のあるものかだと思っていた。どんなに美しい言葉で語っても、軍隊など暴力集団であることには変わりはしないのだから。野蛮なものだよ。逆を言えば、君は今までよく続いたな。醜悪なものを、たくさん見ただろうに」
「必死でしたから、パイロットになるの」
「君みたいな軍人が、国を、ひいては世界を守るのだろう。期待している」
 アキラを見て話しているはずなのに、グラハムはどこか遠いところを見ているように感じて、アキラはまじまじとグラハムの顔を見つめた。
「私は二度死んで、そして二度生き返った男なのだよ。今でも生き返った理由はよくわからないが……」
「……隊長?」
「何でもない。さぁ飯を食いに行こう。基地の外に行って、たまには美味いものを食べようじゃないか。私が負けたんだ。何でも好きなものを奢ってやるぞ。ほら、全員呼んで来い」
「は、はい!」
 ばん、とアキラの背中を叩いて、四人の元にアキラを走らせる。彼の後ろ姿を見ながら、グラハムはゆっくりと歩いた。
「……私は君を、いや君たちを見届けるために、生き返ったのかもしれんな」



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3,2,1 Go!!!

【終】