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ヨギ チハル
ヨギ チハル
novelistID. 26457
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IGNITION, SEQUENCE, START

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「何だ、ネフェル。賭け事禁止なんて優等生ぶるなよ」
「そうじゃない。私も入れろ」
「アキラに賭けるのか」
「まさか」
にぃ、とネフェルのルージュを引いた唇が弧を描いた。
「少佐に決まっているだろう」
「それじゃあ賭けにならねぇ」
呆れたように両手を上下に下げると、イェーガンは溜息をついた。



「一番なじんでいる機体というのは、身体が覚えているものでな」
グラハムは独り言つと、迷うことなく機体を選んだ。
漆黒の機体にオレンジに偏光するフェイス。ここにいる誰もが知る機体。ユニオンを代表するフラッグ系統のごく初期の型。GNドライブはもちろんついていない。
「隊長、その機体は」
ユニオンフラッグカスタム。グラハム・エーカー専用機!
常に先頭を飛んでいた、今となっては伝説の機体。その度外れなチューニングのせいで汎用機であったフラッグにもかかわらず、グラハムのデータの殆どは後の機体に活用できなかったという噂さえある。あまりにもパイロットに負荷がかかり過ぎるのだ。グラハムしか乗りこなすパイロットがいなかった、だから【グラハム専用機】となった曰くつきの機体。
「すまんね、手が勝手に動いた」
「俺、ブレイヴで行きます。いいですか」
「もちろん」
機体だけの性能で比べれば、間違いなくブレイヴの方が上である。安定性も攻撃力も。パイロットの腕前はともかく、通常通りならばブレイヴが勝つにきまっている。アキラだって、身体がなじんでいる機体だ。それなのに。
なんだ。このプレッシャーは…!
ディスプレイに映し出されるのは現実には存在しない、ただの映像にすぎない。それなのに、正面から押しつぶされるような圧力がかかるのをアキラは感じた。
フラッグの。いや、隊長の、か。
何度シミュレートしても一度も勝てなかった相手が、疑似とはいえ目の前にいる。興奮する胸とは反比例するように、手のひらは酷く冷えていた。つう、と背筋を汗が伝った。
ディスプレイに映し出される風景は、よく見慣れた、今は無きMSWADの演習場だった。一対一のMS戦など、それこそ模擬戦でなければ現実には起こり得ない状況だった。
『オペレーション開始します。いつでもどうぞ』
ネフェルの音声が終わると同時に、ディスプレイ中央に文字が流れる。
 

〈SVMS-01E〉
PIROT: Graham Aker
〈GNX-Y903VS〉
PIROT: Akira Takei
Virtual operation start   00:00


「さて…。見せてもらおうか、ソルブレイヴスの実力とやらを」
 ディスプレイの隅に計測タイムが走り出す。模擬戦が開始したのだ。コントロールスティックを握りしめる。点滅するセンサーの光。唸りをあげるモーター音。
「こないのか、アキラ。ならばこちらから行くぞ!」
「くっ」
バパパパッ
一歩踏み込むフラッグを、寸でのところで機体を反転させて回避する。
しかし無駄弾を撃つばかりではいられない。ブレイヴの加速をあげて、思い切って自らフラッグの懐に飛び込み、接近戦に持ちこもうとする。ディスプレイ上を彷徨っていた照準が、グリーン表示になる。
―――ロックオン出来た!?
「いけるか!」
モニタ中央に映る漆黒のフラッグに向かって、アキラはグリップのスイッチを押しこんだ。が、衝撃があったのはアキラの方だった。
「ぐっあっ」
フラッグカスタムの足がブレイヴの胴体部分を思い切りけり上げたのだ。上下左右にコクピットは激しく揺れた。シミュレーターといえども衝撃はリアルタイムにつながる。ヴァーチャルといえどもこれはけしてゲームではないのだ。もちろん程度は低く設定されているが、当たりようによってはシミュレーターで失神する者もいる。
「不用意に、近づくなっ」
「っ、まだまだ!」
耳元でブレイヴの損傷率を読み上げるネフェルの声が聞えるが、内容までは頭に入らなかった。
ブン、と鈍い音を立ててアキラはGNビームサーベルを抜いた。
蹴りの態勢のあとは必ず隙ができるのだ。いくら人型とはいえ、そう簡単にMSはバランスを直せない。蹴り技自体普通なら反則ものだ。グラハムでなければありえない。
「くそ、速いっ」
サーベルは空を切るばかりで、すでに態勢を整えていたフラッグにはかすりもしなかった。フラッグの方はといえばサーベルを抜きもせず、ロッドを形ばかり構えるだけだ。
その様子をモニタで見ながらルドルフは、やっぱり、という顔をした。
「あれじゃあ、アキラがかわいそうだぜ」
「手加減してやる方がかわいそうさ。少佐はあいつが本気なの、よくご存じだよ」
「しかし、始める前から結果が分かる試合っていうのもなぁ」
「フラッグに勝てないようなら、私たちは用済みだ」
インカムのマイク部分を少し放して、モニタを眺める三人に向かってネフェルは言った。
「だがな」
ドリンクのボトルに刺さるストローをルドルフは噛んだ。
「何に乗ったって、少佐には勝てんさ」
好き放題言うソルブレイヴスの面々に向かって、アキラは声を張り上げた。
「お前ら、聞えてるぞ!」
「無駄口を叩く暇があるなら前を見たまえ!」
ドッ、ドッ、ドッ。
間隔をあけた音を立ててフラッグのリニアライフルの弾が、ブレイヴの右側を掠めていった。フラッグカスタムが連射を得意にしていないのは知っている。ホバリングで後退し、再度態勢を立て直すと、アキラはフッと短く息を吐き切った。
一か八か、やってみる価値はある。
グラハムがブレイヴを正面に見据える。
来る!
正面から向かってくるフラッグを避けずに、ブレイヴも向かっていく。
「不用意に近づくなと言った!アキラ!」
ギィァアアアアン!
金属同士のぶつかり合う音と衝撃。パワーでは五分か、幾分ブレイヴの方が上か。ブレイヴが押し上げる勢いを借りるかのようにドウ、とフラッグがバーニアを吹かして飛び上がる。
「ちぃっ」
「遅い!」
フラッグのプラズマソードが斬りかかる。上からブレイヴを抑えにかかるつもりなのだ。だが、グラハムの思いどおりにはいかなかった。
「でぇやぁああああっ!」
「なにっ!?」
一瞬の、間。
そして反転。
「―――……」
轟音を立てて倒されたのは、フラッグの方であった。
「な…巴投げ!?」
「おいおいおい!MS相手に柔道なんて、実践で使えるわけがないだろ!」
「見ろよ、画面」
ズズン、という地響きにも似た音が静まった時、ディスプレイにはアキラの勝利が表示されていた。


Virtual operation over 08:26


「はっ、はぁ、はぁっ」
フシュッと音を立てて圧が抜けると、シミュレーター機のハッチが開いた。最初に開いたのはアキラの乗る二号機だった。息が整わないまま一目散に一号機のハッチの前に飛んでいくと、中から豪快に笑うグラハムが出てきた。
「す、すみませんでした、隊長!」
「はっはっは!実にあっぱれだ。いっそ清々しいよ。いや、なに、MSに乗って投げられたなんて今までパイロットになってから初めてだからな」
ひとしきり笑って、グラハムはアキラの背中を叩いた。
「それにしてもあれは何だ、ジュードーか?」
ひとまずグラハムが怒っていない様子であるのに、アキラは安堵した。