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【マギ】傷口-KIZUGUCHI-【シンジャ】

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 触れ合った肌が熱い。傷が熱を持っているのかもしれない。
 水を持ってこなければ。体を冷やして、水分を取らせて。
 そう思うのに体が動かない。こうしていると伝わってくるシンドバッドの鼓動に安堵の息が漏れ、体の力が抜けていく。
 寝台に隣り合って座りシンドバッドに抱き寄せられジャーファルが思考を巡らせる。
 今この手で手当てをしたばかりの怪我人を相手に何をしているのか。こんな風に体を預けてしまって重くないだろうか、傷に響かないか。
 自分の方が慰められているようなこの状況も落ち着かない。居心地が悪い…はずなのに動けない。

 宥めるように肩口を撫でていたシンドバッドの手が。
 手が。いつの間にかゆっくり下がっていき、背中から腰へ…そして、ジャーファルの尻を撫でていた。

「……何してんですか、あんた」
「いや…ナニって……」
 気のせいかとも思ったが、さすがに何度も尻を撫でまわされてジャーファルは身動いだ。
 上目遣いに窺えば悪びれた様子もなくシンドバッドが笑っている。どこか含みのある笑みは嫌というほど見覚えがあり、何を考えているのかと責めるように視線を向ける。
「まさかとは思いますが…しませんよ、傷に障ります」
「えー…」
「えーじゃない。動けないように縛り付けて欲しいんですか」
 声のトーンを落としジャーファルがきっぱりそう告げると、「そういう趣味か?」なんて冗談めいた口調で答えながらもシンドバッドは尻を撫でていた手を離した。
 どこまで本気なのかわからない。
「…今日はもう、休んでください……シン」
 それが本心ではあったから、今度は心配と懇願の入り混じった声色で呟いたジャーファルに、ああ、と頷いたシンドバッドは…しかしその腕を緩める気配がない。
 肩口に顔を埋めてしまったシンドバッドの表情はわからない。力任せに振りほどくことも出来ず、その胸に身を預けるしかなかった。
 体が熱い…のは、傷のせいばかりではないのだろうか…?
 首筋に掛かる吐息も、熱い。そんなことを考えてしまって、ジャーファルはシンドバッドの腕の中でますますいたたまれなくなる。
 それ以上何も言わないシンドバッドに、ジャーファルが戸惑いがちに口を開いた。
「シン……あの…、く…口でしましょうか…?」
 顔を上げ驚いたように覗き込んでくるシンドバッドと目が合うと、ジャーファルはすぐに後悔した。が、言ってしまった以上は腹をくくって視線を逸らすことなくシンドバッドを見つめる。
「――んー…」
 真剣な眼差しに、一瞬考え込むように視線を彷徨わせたシンドバッドは、曖昧な笑みを浮かべるとジャーファルの体を抱いたままふいに寝台へと倒れ込んだ。
「……!?」
「いや、いい……代わりに、しばらくこうしていてくれ」
 服が乱れるのも構わず半ば強引に横たえられ、腕の中に抱き込まれてしまったジャーファルは急な展開についていけず再び固まってしまう。呆けているうちに、シンドバッドの手があっという間に頭の布を剥いで放り投げ、文句を言う間もなく顔が近付いてきた。

「おやすみ、ジャーファル」

 ――ありがとう。
 吐息と共に付け足された言葉は重なった唇へと落ちる。
 触れ合った温もりを感じるそばから、それは小さな寝息に変わっていった。
 規則正しく聞こえてくる呼吸に我に返って間近にあるシンドバッドの顔を見つめる。さすがに、疲労も限界に達していたのだろう。面食らったジャーファルもようやく力を抜いて大きく息をついた。

 いつだって、この人に振り回されてばかりいる。
 ずるい人。

 礼を言われるようなことは何もしていない。
 傍にいられなかった、何も出来なかった。思い出せばまた、胸の奥を抉られるような痛みが疼く。
 堪らなくなってジャーファルは自分を抱き締めたまま眠るシンドバッドに身を寄せた。
 触れる腕が、肌が熱い。
 白い布に覆われた傷口にそっと触れる、冷え切っていた指先にもいつのまにかシンドバッドの熱が移ってしまっていたようだ。

 あつい。

 ああ、水を…持ってこなければいけないのに。

 もう一度そんなことをぼんやりと考えながら、でも今は――。
 伸ばした指は、こうしてシンドバッドに触れることが出来る。力強い鼓動に耳を傾け、熱を持った体に抱かれて溶けていく思考を手放し、ジャーファルは目を閉じた。
 


END