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だぶるおー 天上国 王妃の日常2

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午後からの孤児院建築に関する打ち合わせには、刹那とティエリアが出席した。規模の問題と、それによって必要になる資材の調達という実際的なことについての話し合いだ。イアンが、こちら側の責任者なので、その資材については受け持つ。
「設計図を引いて、それで資材を算出しないと始まりませんな。」
「規模としては、マリナ姫から最初は十人として、徐々に五十人くらいまで増やしたいとは言われておるんですが、どうですか? 」
「部屋の数も考えないとなりませんが、ひとりずつ個室にされるおつもりかな? 陛下。」
「いや、小さい頃は大部屋でいいと思う。大きくなったら、少数で一室というふうに考えていたんだが、それではダメだろうか。」
「ふむ、それでしたら、部屋も大小揃えて用意せねばなりませんな。」
「まあ、子供の数が増えれば、増築してもいい。まずは、半分の二十五人が暮らせるほどの館というところでいかがですか? 陛下。」
 イアンとエイフマンのふたりから、いろいろと提案されて、それを刹那が了承すると、ビリーがメモに書き取るというような流れで、打ち合わせは行なわれた。ティエリアも疑問点は質問する。小さな子供は、世話する大人と同室にするほうがいいだろうか、とか、食事は大食堂でいいだろうかとか、勉強する場所は、年齢別に必要だろうか、とか、そういう実際的な話し合いをしていくと、自ずと館の大きさや形は見えてくる。
「材木は伐採して乾燥させにゃならんから、まず、必要だろうと思われるぐらいは切らせておきますか? 教授。」
「そうですな。最低、三ヶ月は乾燥させなければならんでしょう。この程度の館であると・・・・これぐらいですかな。」
 過去の設計書をエイフマンが開いて、そこから同タイプのモデルを選んで材木数を割り出す。資材の調達は、先にできるだけしておこうという計算らしい。イアンのほうも、それなら、北の森から運びます、と、こちらもメモをつけている。どちらも軍事関連が専門だが、多少知識はあるから、やりだすと早い。
「イアン、マリナの部屋は大きめにしておいてくれ。」
「おお、わかってる。手伝いのものもいるから、大人用に部屋も予備を用意しておく。」
「マリナさんという方が責任者なのですか? 陛下。」
 エイフマン教授とは、まだ顔を合わせていない。マリナは、受け入れられる人数などを刹那と話し合った後、本国に戻っている。あちらも、必要なものを準備するために動いているはずだ。
「ああ、マリナ・イスマイールといって、妖精本国の姫が責任者をしてくれる手筈になっている。そのうち、こちらに来るだろうから、その折に紹介しよう。」
「妖精なのに、子育てを? 」
「マリナは、子供が好きなんだ。それで、俺の提案に賛同して手伝いを申し出てくれた。今までも取替え子たちを育てて人間界に返したりしている。」
 気まぐれな妖精たちは、取り替えた人間の子は、妖精の国に放置してしまう。それをマリナが不憫に思って保護していた。だから、ある程度の養育は経験があるのだ。
「ほおう、それはそれは。母性に溢れた方だ。そのような方が母親代わりをされるなら、良い孤児院になりましょう。さしずめ、陛下が父親代わりというところですな? 」
「ああ、そのつもりだ。うちのものが、皆で手伝いをするから父親代わりも母親代わりもたくさんいる。王妃は世話好きだから喜んで手伝ってくれるだろう。」
 そこで、ふと、何かひっかかった。だが、明確にはならなくて、刹那は、とりあえず打ち合わせのほうに集中した。ティエリアも、何か気付いたことがあったようだが、それについては指摘しない。この場ですることではないのだろうと、それもスルーする。
「王妃は、おまえさんたちを育てているから経験者だからな。いい世話係になるぞ。」
 イアンも微笑んで頷いている。刹那とティエリアを連れ帰ってからも、ニールはせっせと世話をして教育した。それを思い出したらしい。
「王妃は過保護すぎる。」
 ティエリアも微笑んでいる。されていたほうからすると、そういう意見になる。これには刹那も賛成だ。
「先代の奥方も、ああだったからな。」
「確かに、そうだった。」
 先代が、まだ、当代だった頃は、ティエリアと刹那も、奥方からも世話をされていた。猫可愛がりで、なんでも甘やかしてくれる優しい母親だったが、しつけは厳しかった。間違ったことやマナー違反は、びしっと指摘して叱ってくれた。確かに、王妃も似たようなことだったから、ディランディー家の教育方針というのは、そういうものなのだろう。

・・・・あれが、ニールの幸せの形なんだな・・・・

 ディランディー家で暮らしていた頃の光景を思い浮かべて、刹那も、あれは幸せなものだと思う。あれを、自分とニールで作り出すのが、ふたりの幸せの形だ。
「王妃はいかがですか? 陛下。」
 召還されてから、十日ばかり経ったが、教授は、まだニールと言葉すら交わしていない。姿も、今日、見たのが初めてだ。体調不良で寝込んでいると言われていたから心配はしていたらしい。
「教授に挨拶が出来なくて申し訳ないと、王妃も言っていた。二、三日もすれば、挨拶に出て来られると思うので、それまで待っていただきたい。」
「それは構いません。どうせ、これを建てるには時間は、まだまだかかります。設計するにも、一月はかかる。具合が良くなられたらで結構です。」
「それから、イアンは、うちの王立技術院の院長だ。うちの技術的なことをお知りになりたければ、そちらを訪ねるといい。武器、武具など、どんなことでもご覧になっていただいて構わない。」
 エイフマンが、ユニオンの人間であろうと、それについては断らない。基本的に、天上の城の武器や武具というのは、魔法力を持ったものが使うことを前提に作り出されているものだ。だから、ユニオンで同じものを作ったとしても使えるものは少ないし、こちらに被害はない。だから、技術提供は惜しまない。それが、召還に応じてくれたエイフマン教授へのお礼も兼ねている。もちろん、技術提供についての謝礼は別に用意しているが、隠し事をするつもりはないということを、刹那は言明した。
「それは、私が、こちらの技術を盗用してもよいとおっしゃっているのですかな? 」
「もちろんだ。それでも、天上の城の警護は揺るがないことは、あなたはご存知のはずだ。」
 天上の城に辿り着いた国はない。近くまで遠征してきても、その姿を拝む前に、敗退している。ビリーは歴史として知っているだけだが、エイフマン教授くらいの年齢だと、その戦争を実地で経験している世代だ。
「確かに、我々は、ほぼ七頭の馬と騎士によって撤退させられた。」
「あの時、俺は黒い馬を操っていた。」
 何十年も前のことだが、刹那も参戦している。その当時は次期王だったから、戦場にも出ていた。黒い馬はエクシアといって、機動性では一番の馬だったから、先陣を駆けていた。若い王だとばかり思っていたエイフマン教授は、かなりびっくりした顔をしてから苦笑した。
「なるほど、お見かけ通りの年齢ではないわけですな。御見それいたしました、陛下。」
「この国に住むと、みな、長生きをするんだ。人間でも、倍以上の寿命になる。王妃も同様だ。」