だぶるおー 天上国 王妃の日常2
刹那の頭を腕枕して、背中を擦っているニールは、刹那の滔々と説明する言葉に相槌は打っているが、だんだんと怪しくなってくる。仕舞いに、背中を擦っていた手が止まって、刹那が視線を上げると、ニールは目を閉じている。聞いちゃいねぇーだろーーっっ、と、刹那は苦笑して、そのまんま、部屋の灯りを消した。疲れているので、これぐらいしか無理なのはわかっていた。昔からニールは寒がりで体温の高い刹那よく抱き締めて眠っていた。刹那も、程好いニールの体温が好きで、よくベッドに潜り込んでいた。
・・・気長にやるしかないか・・・・
とりあえず、ちゅっとニールの唇にキスして、刹那も目を閉じる。この体温を自分のものに出来た。後は、気持ちも自分のものにすればいい。それは、時間がかかるかもしれないが、そのうち理解させるつもりだ。
ぐっすりと眠っていても、ニールも刹那も、人の気配には敏感だ。戦場を駆けていた人間というのは、そうでないと生き永らえない。控えの間の扉が開く音に、刹那は気付いた。気配は、城のものではないから、身構えようとしたら、動きを止められた。
「待て、刹那。部屋に侵入されたら、灯りをつけろ。たぶん、教授の助手だ。」
耳元で囁かれて、気配を確認したら、確かに魔法力のない人間のものだ。この城には魔法力のないものも暮らしているが、この気配は新しい。ゆっくりと、足音が聞こえて、扉が開く音がする。ろうそくを持っているから、顔は確認できた。見知らぬ顔だから、助手だと、ニールもわかった。刹那は、今日の午後に顔を合わせている。
天蓋からたらされたカーテンを開けて侵入してきたので、刹那が魔法力で周囲の灯りをつけた。
うわっという声と共に、ビリーが目をこすっている。午後前の騒ぎは、報告されていたが、まさか、今日の今日で夜這いに来るとは、豪胆だ。
「王妃の寝室に、何か用か? ビリー・カタギリ。」
目の前に刹那が現れたので、ひぃっと叫んで畏まる。王妃が、自室に引き取ったのは確認していた。だから、王妃ひとりだと思ったらしい。
「王妃の体調が思わしくないとお聞きしたので、お見舞いに。」
もっともらしいことは言うが、この真夜中に、お見舞いも何もあったものではないだろうと、刹那でも呆れる。
「王妃は休んでいる。迷惑だ。」
「申し訳ありません。では、失礼いたします。」
そそくさとビリーは、部屋を出て行く。それを見送って、刹那は、しばし考えて、魔法力を使った。ビリーを、そのまま、国外へ跳ばした。スメラギにもちょっかいをかけていたし、夜這いに来られたことを、教授に伝えれば、国外退去でも文句は出ないだろう。昼の騒ぎの時に、シーリンも二度目はないと断言しておいたから、抗議されることはないはずだ。
「どこへ跳ばしたんだ? 」
「ユニオン領の近くにしたから、辿り着けるだろう。・・・ったく、ユニオンはおかしな生き物ばかりなのか? 」
「感受性が強いのかな。」
「そんな問題じゃない。一国の王妃に夜這いをかけるなんておかしいだろ? 」
「しょうがないよ、刹那。俺のたらし能力ってーのは絶大だからな。」
こういう被害にも、度々遭っているから、ニールは笑うぐらいだ。たらされすぎて押し倒す方向に意識が向けられてしまうことも多い。そちらの気のある人間だと、かなりの確率でこうなる。押し倒される前に逃げ出すか、相手を叩き伏せるという対処法を、ニールも使っている。こればかりは、加減できるものではないからしょうがないとしか言えない。
「目が覚めちまった。酒でも呑むか? 」
「あんたは、やっぱり、俺の部屋で寝ろ。ジョシュアの部屋も、俺の近くに変更する。」
「はいはい。そう興奮すんな。」
とりあえず、酒でも呑んで落ち着け、と、ベッドから立ち上がろうとしたニールは、どしゃりと崩れた。痛みはないが、腰自体は使い物ならないということを失念したらしい。
「痛みだけだと言っただろ? 」
「治してくれないかなあ? 刹那さんや。」
「ダメだ。俺の歯止めができなくなる。」
「別に、それは相手するぞ? 」
「今日は、あんたを休ませるんだ。」
具合が悪い相手に無茶はできない。それを理由にしないと、ニールの横に寝るのは、刹那には我慢できなくなる。ベッドの横でひしゃげているニールを浮かせて戻すと、酒とグラスを跳ばした。
「口移しで飲ませろ。」
「仰せのままに、陛下。」
これぐらいはいいだろう、と、妖精王様が命じると、王妃も微笑んで、飲ませてくれた。すぐに、王妃は潰れたものの、妖精王のほうは瓶を一本空にしてから眠りについたのは言うまでもない。まだ若い妖精王には、自制心の修行というのは、辛いものがあるから、酔って寝る方向でないと危ないと、王自身が選んだ結果だ。
作品名:だぶるおー 天上国 王妃の日常2 作家名:篠義