だぶるおー 天上国 王妃の日常2
「わかっている。今日は何もしない。だが、おまえらは帰れ。伴侶の居るヤツは、伴侶の許で休むものだろう。」
「今日は、俺がニールと一緒に休むから、おまえこそ、王の間に帰れ。」
「俺も、兄さんの看護するつもりで、アニューに言ってきた。」
ライルとティエリアも退かない。どうあっても、ゆっくりと休ませるために自分たちが陣取ると言う。モレノには見慣れた取り合いだから、ほどとぼにしとけよ、と、注意だけして帰っていく。ジョシュアは、どこで仲裁に入るかなあーと考えていたら、当事者のニールがパンパンと手を叩いた。
「わかったわかった。ティエリアとライルは帰れ。刹那が看病してくれるんなら、おまえらは必要ない。」
えらい厳しい選択するなあ、と、ジョシュアは呆れているが、当人がそう言うのなら口は挟まない。
「じゃあ、俺は引き取るぜ? ニール。」
「おう、お疲れさん。ほら、おまえらも帰れ。」
ジョシュアの後に、ライルとティエリアも渋々と出てくる。さすがに、ニールに命じられると逆らえないらしい。
三人が出て行くと、刹那も着替えて布団の端に座り込んだ。まだ寝る時間には早いのだが、寝るつもりの支度だ。
「歯は磨いたか? 」
「ああ。」
「あのさ、刹那。完治させなくてもいいから、もうちょっと動けるようにだけしてくれないか? これじゃあ、トイレも一人で行けないんだ。」
「イヤだ。あんたがトイレに行きたいなら運んでやるから安心しろ。」
ニールの周りに居座っているハロたちは、刹那がご無体を働かないようにと周囲を固めている。ハロは、刹那よりニールが優先だ。
「けど、これじゃあ、俺は動くどころじゃないぞ? 手でやってやるくらいしかできないけど、いいのか? 」
毎晩毎晩、攻め立てられているニールからすると、こんなマグロ状態では、刹那が楽しくないだろうと思うわけで、そう提案する。その程度で済むはずがないのは、わかっている。だのに、刹那のほうは、今日はしない、と、言う。
「いいのか? 」
「たまには、一緒に寝るだけでいい。」
「我慢できんのかねぇーこの利かん坊は。」
あははは・・とニールのほうは笑って、背中からクッションを取り出して、横になる準備をする。それを見て、刹那のほうも手伝ってくれる。背もたれから身体を浮かして、静かに横にしてくれた。
「孤児院の設計のことで、今日、最初の打ち合わせをした。」
「うん。」
「最初は、五人くらいから始めて、最終的に五十人くらい収容するつもりだが、建物は、まずは二十五人分の大きさのものを建てる。そこから、増築できるような建て方にして、人数が増えたら順次、建物も広げるというやり方にした。」
今日の打ち合わせについて、刹那が説明をする。ニールも、それは楽しみにしていることだ。刹那のように戦いで孤児になったものを収容できる場所があれば、寂しい思いをさせなくて済む。
「三ヶ月ほどかかるらしい。それで、来月の終わりぐらいに、ニールに俺が見つけた子供を保護してもらいたいと思っている。」
最初は、刹那の遠見の能力で見つけられる妖精の血が入った子供を引き取ることにしている。それを保護してくるのは、ニールとライルの仕事だ。周囲で、ちゃんと保護されているものはいいとして、そうでない子供を優先的に引き取るつもりだ。
「男の子なら、俺が担当ってことだな? 了解。」
「それから孤児院の手伝いも頼みたい。」
「ああ、そっちも大丈夫だ。俺は、おまえさんやティエリアて慣れてるから、大概の子供なら世話できる。」
「あんたの忍耐力はすごいからな。」
「いや、おまえさんの場合は、野生の獣を慣らすって感じだったぞ。」
「俺は、あんたほど綺麗な生き物を見たことがなくて、ドキドキした。」
「あーまーなあー、なんせ、おまえさんの養い親はアリーだからなあ。」
赤い髪の汚いおっさんしか見たことがなかったんだから、あれよりは、誰だって綺麗だろう、と、ニールは笑っている。そうじゃないんだが・・・と、刹那は反論しつつ、ニールの額にかかっている亜麻色の髪を掻きあげてみる。そこには孔雀色のふたつの瞳があって、それに自分が写っている。
「あんたが一番綺麗だ。」
「おまえの美的センスを、ちゃんと磨くべきなんだろうな。美術書でも勉強しようか? 刹那。」
「茶化すな、ニール。」
「茶化してない。綺麗という形容詞は、主に女性に対してつけるべきものだ。俺につけるのは間違い。おわかりですか? 陛下。」
「俺は間違ってない。」
「じゃあ、ライルにも、その形容詞をつけないとならないんだぞ? 」
ニールとライルは一卵性の双子だから、そっくりだ。親や妹でないと見分けられないほど瓜二つで、ふたりが、それぞれを演じたら、今でもわからなくなるほどだ。
「ライルになんかつけられるか。」
ふたりを見分けられる刹那は、けっと舌打ちした。刹那にとってはライルとニールでは、まったく違うのだ。
「俺としては、ティエリアは綺麗だと思うよ。男だが、あそこまで整っていると、綺麗という形容詞もつけられる。」
「ティエリアは綺麗じゃない。ただ整っているだけだ。」
「うーん、やっぱり、おまえさん、綺麗の意味を取り違えてるんじゃないか? 」
「俺が、綺麗だと思うのは、エクシアとダブルオーとあんただけだ。」
綺麗と称されているのが、刹那の愛馬とニールというのが、微妙だ。確かに、刹那の愛馬たちは美しいが、ニールと並べて評価するものではない。
「初期教育の失敗かなあ。馬と人間は並べちゃいけません。」
「俺は、それでいい。」
「まあ、いいんだけどさ。でも、人に言っちゃダメだぞ? 」
いや、すでに、刹那は言いまわっているし、周囲は、惚気ていると理解しているから問題なかったりする。ハロは、それ以上に刹那が近寄るのを邪魔するように、刹那とニールの間に入り込んで座り込む。
「こら、ハロ。足元へ行け。刹那が横になれないだろ? 」
ハロハロハロと、ハロたちはニールに手で避けられているが、動く気はないのか、避けられても戻って来る。精霊だから軽くてふわふわと周囲に浮かびもする。それを手で払おうとして、いてててっ、と、ニールは腰を擦る。捻るのはまずいらしい。
「痛いのか? 」
「痛いですよ? 陛下。」
「痛みだけ止めてやる。」
「有り難き幸せ。」
ちゅっとキスすると、痛みがなくなる。やれやれと、ニールも身体を動かした。今日一日、この痛みで難儀した。この痛みさえなければ、動ける。
「さて、やりますか? 」
「やらない。」
「いいのか? 」
「いい。たまには、あんたと話をして眠りたい。」
「話? どんな? 」
「俺があんたのことを、どれくらい愛してるのか説明したい。」
「はいはい、お聞きしましょうね、陛下。」
子供をあやすように、ニールが微笑んで刹那の頬を撫でる。むっとしたものの、刹那もニールの横に潜り込む。万事がこんな調子だ。ニールにとって、自分は、まだ子供の扱いだ。
「俺は王になるほどの魔法力があった。だから、あんたの能力に惑わされることはない。」
「うん。」
「だから、最初に目を奪われたのは、一目惚れというもので、たらされたわけじゃない。それはわかるな? ニール。」
「ああ、わかってるよー。」
作品名:だぶるおー 天上国 王妃の日常2 作家名:篠義