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サラダパン

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 好きだとか好かれているとか、そういう予兆をずっと感じ続けているのが苦ではないけれど、こめかみのあたりがずっと熱を持っていて落ち着かない。ゆっくりと溶かされているような気分だった。
「それ何食ってんの?」
「サラダパン」
 聞きなれないパンの名前に水谷は首を傾げる。
「ポテトサラダ?」
「いや、マカロニサラダっぽい」
「うまい?」
「マヨネーズの味がする」
「まずいの?」
「うまくもないし、まずくもない。そんな感じ……」
 そう言ってからパンへかぶりついた様子を、じっと水谷に見られてしまったから恥ずかしくなってしまった。
 時々水谷は真っ直ぐな目で栄口を見つめてくる。それが相手の癖なのかどうかはわからないが、あんなふうに直視されると緊張してしまう。見透かされているような気までしてくる。
「なんでサラダパンなんか買ったわけ?」
「肉の入ってるパンが売り切れてたんだよ」
 持参した弁当を食べてもまだ腹が空いていた栄口は、カツやらハムやらが入ったパンを求め購買へ行ったのだが、人気のあるそれらはあらかた売切れていて、気乗りのしないままサラダパンなるものを買ってきてしまった。
 多分これはぼやっとしたマヨネーズの味がするに違いない。ソースやケチャップなどのガツンとした味が食べたかったから多少落胆しつつ教室まで戻ると、自分の席へとても当たり前のように水谷が座っていた。あまりにも自然に馴染んでいるので、むしろ水谷が一組に属しているかのように思えた。
 こちらに気づいた水谷が軽く手を振る。手首の関節がくねくねと力無く曲がり、「バイバイ」をされているのか、「おいでおいで」をされているのかよくわからなかった。
 ともかく空いていた前の席に座り、ベリベリと包装を剥いでパンを食べた。予想していたとおり曖昧なマヨネーズの味がした。
 水谷はぼんやりと外を眺めたり、一組の時間割を見て「次は数学か」とつぶやいたりしていたが、栄口がパンをあと一口で食べ終わるというところでボソリと何か喋った。
「……肉食いたいなー」
「オレも」
 同意して、最後のパン一かけを口へ押し込めた。こんなマカロニをマヨネーズで和えてパンへ挟んだものでは到底満たされない。
「さっきメシ食ったばっかなのに、今すっごいカルビが食いたくなってるオレ」
「オレはハラミかな」
 話をしているだけなのに、目の前には金網の上で焼かれる肉が見えてしまう。肉のことを考え出すともうそれしか頭の中にない。高校生ってそんな生き物な気がする。
「食べ放題とかまた行きたいなぁ」
「いいねー、行く?」
 さらりと自分を誘ってくれる水谷が好きだった。
 食べ放題といえば夏休みの終わりに野球部のみんなで行った焼肉屋のことを思い出す。また行ってみるのも悪くない。
「そうだな、土曜の練習後とか、みんなで」
「えっ? みんな?」
 和やかに笑っていた水谷があからさまに不満そうな表情になる。栄口としては前行ったとき皆と一緒だったから、ただその流れで喋ってみただけだったが、一変した水谷の様子に驚いてしまった。
「オレとお前、二人で行くって話じゃ……」
 言いかけた水谷が、はっ、と気づいて口をつむぐ。話すうちに自分がどれくらいおかしい発言をしたのか理解したのだろう。栄口は自分から不自然に目線が逸らされたのが嫌で、そのつもりはないのに水谷を追い込んでしまった。
「なんで」
 告げてから猛烈に後悔が心へ満ちてくる。今自分はとても格好悪い表情をしていると感じた。水谷はそんな栄口の顔をちらりと見るような素振りを見せたあと、「そうだな」と言い残して席を立った。
作品名:サラダパン 作家名:さはら