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とある寒い日

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とある冬のとある日とある放課後。いつもなら部室で朝比奈さんお手製の温かいお茶を啜りながら古泉相手に何らかのボードゲームにでも興じている時間。
 ところが掃除当番で遅れてやってきたら部室には古泉しかいなかった。ストーブすらつけてないのか部室の気温は廊下とそう大差ない。そんな中このハンサム野郎は椅子に座り両手で頬杖をつきながらぼんやりと虚空を眺めている。
「おい、ハルヒたちはどうした」
 扉を開けても微動だにしなかったが声をかければさすがにこちらに気がついたようだ。視線だけちらりと動かすと億劫そうに首をこちらに向けて曖昧に微笑んでみせる。
「遅かったですね。涼宮さんたちは三人でどこかに出て行ってしまいましたよ。涼宮さんが部室につくと同時に有無を言わせず朝比奈さんと長門さんを引っ張って行ってね。女子だけでやることがあるから男性陣は今日は解散とのことです」
 なんだそりゃ。毎度の事ながら突拍子も無いやつだ。
「それで、お前はなにをやってるんだ」
「特に何も。強いて言うならあなたに団活がないことを伝えるために待っていた、とでもいいましょうか」
 そんなのメールででも伝えてくれればわざわざ部室までくる労力と時間を無駄にせずにすんだんだが。いや、そもそもクラスが同じなのだからハルヒ直々に言ってくれればそれですんだんだ。
「そりゃありがたいがな。せめてストーブくらいつけてろよ」
 きちんとコートまで脱いでる古泉の姿は長袖だろうとなんだろうと寒々しくて仕方ない。コートにマフラーで完全武装している今の俺でさえ寒くて仕方ないってのに。
「まあ、一言伝えてしまえばもう部室に用はありませんしね。わざわざストーブをつけて待つのは勿体無いかなと」
 そもそも寒さには強いほうですしと笑う古泉は確かに寒さなんて屁でもなさそうだ。
「ならコートぐらい着ておけ。見てるほうが寒くなる」
「ああ……そうですね。そこまで気が回りませんでした」
 そこまで言うと会話を打ち切るように首を正面に戻してしまう。そのまま少し待ってみても古泉は帰る素振りどころか立ち上がろうともしない。俺の存在なんてもうどうでもいいとでも言わんばかりの態度だ。
「……帰らんのか?」
 さすがにいくら古泉でもここでほっぽってさっさと帰るには気が引けた。どうにも様子がおかしい。
「どうぞお帰りになってくださって結構ですよ」
 俺だってはやく暖房きいた我が家に帰りたい。こんな身体の芯から凍えてしまいそうな部室に好き好んで居座る奴は正気じゃないね。
 その正気じゃない人間を、まして我が団の副団長殿を放って帰るなんてハルヒになんと言われるか。古泉の言葉を無視して開けっ放しだった扉を閉めるとまずはストーブの前まで言ってスイッチをいれる。暖色の光がぼんやりと部室を暖めはじめた。ハンガーには古泉のコートとマフラーがかけてあるのが見えたがこの寒さの中で防寒具を手放す気にはなれない。
「あの、一体なにを……?」
 コートとマフラーを身につけたままいつもの位置、すなわち古泉の真ん前に座り一息ついたところでようやく古泉が口を挟んできた。不可解そうにこちらを見ている。
「家に帰っても別にやることはないしな。何がしてるかはしらんが冷え切った部室にわざわざ居座るほどに楽しいことでもあるならお前につきあってやろうとでも思ってな」
 そう言えばなにを納得したのかああと嘆息して我侭を言って泣き喚く孫でも見るような眼差しで苦笑された。今現在の困ったちゃんはお前だろうに。
「ああ、すみません。今日は体育の授業があってちょっと疲れてただけなんですよ。授業中ずっとマラソンといって走らされ続けまして。足が棒のようですよ。だから一回座ってしまうとどうにも動くの億劫でしてね。明日は筋肉痛かもしれません」
「嘘だろ」
「嫌だな、本当ですよ。最近は閉鎖空間もご無沙汰ですし運動不足なのかもしれませんねぇ。団での活動も最近はこの寒さで屋内での活動をメインにされてますし」
 なんつー嘘くささだ。だが古泉のクラスの時間割なんて勿論把握なんてしてはいないため嘘と言い切ることもできん。
 しかもさっきまでの微妙なアンニュイっぷりは綺麗さっぱり消し飛んでいつもの偽善者スマイルが顔面にべったりはりついている。こちらを拒否しているともとれる態度に妙にイラつくのはさてなんでだろうね。
 そのまま古泉を睨みつけてやるが素知らぬ顔で流される。腹立たしさにやっぱり帰ろうかと思ったところでふと古泉が身を縮こませ身体をぶるりと振るわせた。小さく己の身体を抱くように手を回す姿は……やっぱり寒いんじゃねーかこの野郎。
作品名:とある寒い日 作家名:くまさん