A stór mo chroí
「分かんねえよ、そんなの。さっきはただ、最近ろくに話せてなかったし、なんか逢いたくなったから」
「逢ってどうするつもりだったんだよ、クダ巻きたかっただけじゃないだろ」
まるで抗おうとしないニールの身体を抱き上げ、太股を跨がせる。体勢を保つために片腕を離したが、それでもニールは逃げようとしなかった。
「どうする、とか考えてなかったんだよ、だって、こんな」
「こんな、何だよ。オレが何考えてるか分かってたくせによく言うぜ。それとも…可能性は考えられても現実味は無かったってことか」
どちらにせよ、ずいぶんとナメられたもんだ。今さらコイツの小狡さに腹は立たないが、本気を疑われるのは癪に障る。
「明日は休みだったな、身体で理解出来るようにとっくり教えてやる」
今さら離す気も止める気もねェ。
泣こうが喚こうが途中で許してやれる気にもなれない。
「っちょ、待て、ハレルヤ、待って!」
「ああ?待ってはやるが止めてはやらねーぞ、言っとくが」
シャツの裾から手を入れようとしたオレにニールは突然大きな声を上げる。さすがにイラっとしたオレが語気を強めると、さっきの比ではなく顔を赤らめて違う、とぼそぼそ喋りだした。
「俺、まだ何も聞いてねえよ。いくらでもくれる、んだろ?」
「……お前、たまにマジで可愛いトコあるよな」
一瞬、何のことか分からずにぽかんとしちまったが、意味が分かった途端に体温が上がった気がする。
「うるさい!いいから!」
羞恥で顔を赤らめて口説いてくれと言われたら、加減もクソもねえだろ。本当にお前は馬鹿だな。
「そういう顔されるとたまんねえな、泣くまでぐちゃぐちゃに犯してやりたくなる」
「なッ、ハレルヤ!」
「あー、分かった分かった。ちゃんと言ってやんよ」
もう一度抱え上げて顔を近づけ、真正面で向かい合う。
「ニール」
いつから、とか。どうして、とか。どこが、とか。
そんな陳腐な理由は忘れた。元々無かったんだろう。くだらない学生生活の延長でしかなかったはずなのに、これを見つけた途端、急に世界がフルカラーに見えた気がした。
外面ばかり良くて、社交的なくせにひどく警戒心が強くて、なかなか本心を覚らせない面倒くさくてずるい男。
年上ぶったかと思えば子どものようなことをして、楽しげに人を振り回して笑う、小憎たらしいヤツ。
でも。
「好きだ」
「……っ、うん」
結局、そんなくだらない一言にしかならない。
「面倒なことも、くだらねえことも、お前のことだったらいい。お前なら何だっていいぐらいには、惚れてんだよ」
目の前で他の男のことを話していようと、くだらねえ馬鹿にまとわりつかれてベタベタとスキンシップされていても、楽しそうにしてるなら、まあいいかと思えるぐらいだ。寛容だの許容だの、そんな文字をオレに教えたのはある意味ニールだった。
「恥ずかしいなお前」
「バカじゃねえの、口説いてんだぜ?」
顔を見ていられなくなったのか、きゅうとニールが首にしがみついてくる。自己申告で身長180の大男なのだが、オレと体格差がほとんど無いせいか惚れた欲目か、やたらめったら可愛く思える自分が気持ち悪ィ。
「口説いて欲しかったんだろ?何ならもっと言ってやろうか?」
赤く染まった耳だけがこちらを向いていて、軽く歯を立てて嬲りながら言うと、腕の中でびくびくと身体が反応した。
「んぁ、もう、もういいって…」
「そうかい。じゃあもう待たねえぞ」
「ハレルヤ……」
人に恥ずかしい言葉を強請ったわりに、ニールは何も言おうとしない。潤んだ目でこちらを見上げて名前を呼んだだけだ。こいつの小狡さなのかもしれないが、そんなことは関係無い。言わせる方法はいくらでもある。泣かせる方法も。
「ん……」
オレにここまで言わせたんだ、責任は取ってもらうぜ?センセー。
目を閉じてキスを受け入れているニールが、まるで頷くようにこくりと咽喉を鳴らした。
作品名:A stór mo chroí 作家名:忍野桜